藤原良縄
藤原良縄（ふじわら の よしただ）は、平安時代初期から前期にかけて活躍した公卿です。藤原北家出身で、父は備前守を務めた藤原大津です。最終的な官位は正四位下・参議にまで昇り、右衛門督兼太皇太后宮大夫を兼ねました。
良縄は、承和4年（837年）に内舎人として官界に入ります。その後、中務省の啓令により皇太子・道康親王（後の文徳天皇）に仕え、親王の寵愛を受けました。嘉祥3年（850年）に道康親王が即位すると、良縄は蔵人に抜擢され、仁寿2年（852年）には従五位下に叙せられました。翌年には侍従兼蔵人頭に任じられるなど、順調に昇進を重ねます。
仁寿4年（854年）には、皇太子・惟仁親王（後の清和天皇）の春宮亮を兼任しますが、父・大津の病により一時官職を辞し、出仕を停止します。しかし、すぐに朝廷からの勅命により出仕を再開し、左兵衛権佐に任じられました。
再出仕後は、斉衡2年（855年）に従五位上、天安元年（857年）には正五位下、そして従四位下へと急速に昇進し、蔵人頭、右大弁、左近衛中将、勘解由長官など、数々の要職を兼帯しました。文徳天皇からの信頼は非常に厚く、多くの政務を任され、その決定に大きく関わったとされています。
天安2年（858年）に文徳天皇が崩御した後、良縄は参議に任ぜられ公卿の仲間入りを果たし、同年11月には清和天皇の即位に伴い従四位上に昇叙されました。清和朝初期には、議政官として、左右大弁や左近衛中将といった文武両道の要職を兼ね続けましたが、貞観5年（863年）には左大弁・左近衛中将の兼任を離れ、右衛門督に転任しました。
良縄は、山城国葛野郡（現在の京都市西京区）に別荘を持っており、文徳天皇の供養のために仏像を造り、写経を行って安置しました。また、出家した母を住まわせていましたが、貞観4年（862年）にはこの別荘を道場として真如院を建立しました。そして、毎年8月の文徳天皇の命日には法華経を講じることを生涯続けたと伝えられています。
貞観10年（868年）2月18日、良縄は55歳で亡くなりました。
良縄は、姿格好がしとやかで優雅であり、立ち居振る舞いも細部にまで気を配っていたと評されています。性格も温厚で、分を越えた飾り立てを好まなかったそうです。また、孝行心も非常に篤く、朝廷に対しても真心を込めて誠実に仕え、その忠孝ぶりは当時の人々から高く評価されました。
朝廷に仕えては、決して機密を漏らすことなく、諸司諸院の長官として公務を取り仕切る際にも、決して誤った振る舞いをすることがなかったと言われています。父母への孝養については、任国で亡くなった父の様子を聞いて血を吐いて失神したという逸話や、母が病床に伏せると寝食を忘れて看病したという話が残っています。
人相見であった興福寺の僧・円一が、良縄の容貌を見て、必ず卿相に昇り天皇の寵愛を受けるだろうと予言しましたが、後に同志に対して、命のみ惜しむべきであると嘆息したという話が残されています。
内舎人であった頃、他の内舎人が名家の子弟であることを良いことに、贅沢な生活を送り、勝手気ままな行動をしていたのに対し、良縄が現れると皆が態度を改め、規則を遵守するようになったといいます。この理由について、他の内舎人たちは「良縄が来ると我々を苦しめるので、いないときでも良縄のことを忘れる者はいない」と語ったそうです。
清和朝において左大弁・左近衛中将の職にあった際、年長の大儒学者であった右大弁・南淵年名や、左中弁・大江音人、そして少壮気鋭で才望が高かった左近衛少将・藤原基経が共に四位の位階であったことから、自らが上職に留まるべきではないとして、病気を理由にしばしば職務を離れ、辞退しました。その後、良縄は右衛門督に転任し、南淵年名は左大弁、大江音人は右大弁、藤原基経は左近衛中将にそれぞれ昇進したと伝えられています。
承和4年（837年）2月1日：内舎人
嘉祥3年（850年）正月15日：左馬大允、4月：蔵人、4月1日：内蔵権助
仁寿元年（851年）7月2日：禁色
仁寿2年（852年）正月29日：従五位下
仁寿3年（853年）4月10日：内蔵助、7月：蔵人頭、7月1日：侍従、内蔵助如元
仁寿4年（854年）正月16日：兼播磨介、8月28日：兼春宮亮（皇太子・惟仁親王）、11月：兼左兵衛権佐、11月27日：兼播磨介
斉衡2年（855年）正月7日：従五位上
斉衡3年（856年）正月12日：右中弁、2月8日：内蔵頭
天安元年（857年）正月7日：正五位下、正月14日：兼備前権守、正月19日：右近衛中将、4月9日：従四位下、4月19日：左近衛中将、右中弁春宮亮内蔵権頭備前権守如故、6月19日：右大弁、9月10日：勘解由長官、止内蔵権守
天安2年（858年）正月16日：讃岐守、8月27日：装束司（文徳天皇崩御）、9月14日：参議、弁中将長官如元、11月7日：従四位上、11月25日：兼近江守
貞観元年（859年）12月21日：兼備前守
貞観2年（860年）11月16日：正四位下
貞観3年（861年）正月13日：左大弁、左近衛中将備前守如故
貞観5年（863年）2月10日：兼右衛門督、止弁、3月：検非違使別当
貞観6年（864年）正月16日：兼讃岐守
貞観9年（867年）2月29日：兼太皇太后宮大夫（太皇太后・藤原順子）
貞観10年（868年）2月18日：卒去（参議正四位下行右衛門督兼太皇大后宮大夫）
父：藤原大津
母：紀南麻呂の娘
妻：橘田村子（橘入居の娘）
生母不詳の子女
男子：藤原邦直 - 因幡守従五位下
男子：藤原邦香
武田祐吉、佐藤謙三訳『読み下し 日本三代実録 上巻』戎光祥出版、2009年
『公卿補任 第一篇』吉川弘文館、1982年
『尊卑分脈 第一篇』吉川弘文館、1987年
経歴
良縄は、承和4年（837年）に内舎人として官界に入ります。その後、中務省の啓令により皇太子・道康親王（後の文徳天皇）に仕え、親王の寵愛を受けました。嘉祥3年（850年）に道康親王が即位すると、良縄は蔵人に抜擢され、仁寿2年（852年）には従五位下に叙せられました。翌年には侍従兼蔵人頭に任じられるなど、順調に昇進を重ねます。
仁寿4年（854年）には、皇太子・惟仁親王（後の清和天皇）の春宮亮を兼任しますが、父・大津の病により一時官職を辞し、出仕を停止します。しかし、すぐに朝廷からの勅命により出仕を再開し、左兵衛権佐に任じられました。
再出仕後は、斉衡2年（855年）に従五位上、天安元年（857年）には正五位下、そして従四位下へと急速に昇進し、蔵人頭、右大弁、左近衛中将、勘解由長官など、数々の要職を兼帯しました。文徳天皇からの信頼は非常に厚く、多くの政務を任され、その決定に大きく関わったとされています。
天安2年（858年）に文徳天皇が崩御した後、良縄は参議に任ぜられ公卿の仲間入りを果たし、同年11月には清和天皇の即位に伴い従四位上に昇叙されました。清和朝初期には、議政官として、左右大弁や左近衛中将といった文武両道の要職を兼ね続けましたが、貞観5年（863年）には左大弁・左近衛中将の兼任を離れ、右衛門督に転任しました。
良縄は、山城国葛野郡（現在の京都市西京区）に別荘を持っており、文徳天皇の供養のために仏像を造り、写経を行って安置しました。また、出家した母を住まわせていましたが、貞観4年（862年）にはこの別荘を道場として真如院を建立しました。そして、毎年8月の文徳天皇の命日には法華経を講じることを生涯続けたと伝えられています。
貞観10年（868年）2月18日、良縄は55歳で亡くなりました。
人物
良縄は、姿格好がしとやかで優雅であり、立ち居振る舞いも細部にまで気を配っていたと評されています。性格も温厚で、分を越えた飾り立てを好まなかったそうです。また、孝行心も非常に篤く、朝廷に対しても真心を込めて誠実に仕え、その忠孝ぶりは当時の人々から高く評価されました。
朝廷に仕えては、決して機密を漏らすことなく、諸司諸院の長官として公務を取り仕切る際にも、決して誤った振る舞いをすることがなかったと言われています。父母への孝養については、任国で亡くなった父の様子を聞いて血を吐いて失神したという逸話や、母が病床に伏せると寝食を忘れて看病したという話が残っています。
逸話
人相見であった興福寺の僧・円一が、良縄の容貌を見て、必ず卿相に昇り天皇の寵愛を受けるだろうと予言しましたが、後に同志に対して、命のみ惜しむべきであると嘆息したという話が残されています。
内舎人であった頃、他の内舎人が名家の子弟であることを良いことに、贅沢な生活を送り、勝手気ままな行動をしていたのに対し、良縄が現れると皆が態度を改め、規則を遵守するようになったといいます。この理由について、他の内舎人たちは「良縄が来ると我々を苦しめるので、いないときでも良縄のことを忘れる者はいない」と語ったそうです。
清和朝において左大弁・左近衛中将の職にあった際、年長の大儒学者であった右大弁・南淵年名や、左中弁・大江音人、そして少壮気鋭で才望が高かった左近衛少将・藤原基経が共に四位の位階であったことから、自らが上職に留まるべきではないとして、病気を理由にしばしば職務を離れ、辞退しました。その後、良縄は右衛門督に転任し、南淵年名は左大弁、大江音人は右大弁、藤原基経は左近衛中将にそれぞれ昇進したと伝えられています。
官歴
承和4年（837年）2月1日：内舎人
嘉祥3年（850年）正月15日：左馬大允、4月：蔵人、4月1日：内蔵権助
仁寿元年（851年）7月2日：禁色
仁寿2年（852年）正月29日：従五位下
仁寿3年（853年）4月10日：内蔵助、7月：蔵人頭、7月1日：侍従、内蔵助如元
仁寿4年（854年）正月16日：兼播磨介、8月28日：兼春宮亮（皇太子・惟仁親王）、11月：兼左兵衛権佐、11月27日：兼播磨介
斉衡2年（855年）正月7日：従五位上
斉衡3年（856年）正月12日：右中弁、2月8日：内蔵頭
天安元年（857年）正月7日：正五位下、正月14日：兼備前権守、正月19日：右近衛中将、4月9日：従四位下、4月19日：左近衛中将、右中弁春宮亮内蔵権頭備前権守如故、6月19日：右大弁、9月10日：勘解由長官、止内蔵権守
天安2年（858年）正月16日：讃岐守、8月27日：装束司（文徳天皇崩御）、9月14日：参議、弁中将長官如元、11月7日：従四位上、11月25日：兼近江守
貞観元年（859年）12月21日：兼備前守
貞観2年（860年）11月16日：正四位下
貞観3年（861年）正月13日：左大弁、左近衛中将備前守如故
貞観5年（863年）2月10日：兼右衛門督、止弁、3月：検非違使別当
貞観6年（864年）正月16日：兼讃岐守
貞観9年（867年）2月29日：兼太皇太后宮大夫（太皇太后・藤原順子）
貞観10年（868年）2月18日：卒去（参議正四位下行右衛門督兼太皇大后宮大夫）
系譜
父：藤原大津
母：紀南麻呂の娘
妻：橘田村子（橘入居の娘）
生母不詳の子女
男子：藤原邦直 - 因幡守従五位下
男子：藤原邦香
出典
武田祐吉、佐藤謙三訳『読み下し 日本三代実録 上巻』戎光祥出版、2009年
『公卿補任 第一篇』吉川弘文館、1982年
『尊卑分脈 第一篇』吉川弘文館、1987年
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