藤家渓子

現代音楽作曲家の藤家渓子（ふじいえけいこ）は、1963年 7月22日に京都府京都市で誕生しました。早くから音楽に親しみ、4歳でピアノを始め、小学校3年生という若さでオペラ制作に挑戦するなど、創作への強い意欲を示しました。東京芸術大学および同大学院に進み、作曲を八村義夫、間宮芳生といった高名な師から学びました。大学院時代の同級生には、後に作曲家として活躍する野川晴義らがいます。

学生時代からその才能は認められ、1986年には「クラリネット協奏曲」で第55回日本音楽コンクール作曲部門の第1位を獲得し、海外派遣特別賞も受賞しました。大学院修了後の1990年には、「弦楽三重奏曲」がアジア作曲家連盟（ACL）青年作曲賞を受賞するなど、国内外で頭角を現しました。1992年秋から翌年にかけては、日米芸術交流プログラムの支援を受けてニューヨークに滞在し、国際的な視野を広げました。

環境問題への深い関心も作品に反映されており、1994年には京都の22世紀クラブが主催したグリーン・コンサーツ「地球の緑のために」で、管弦楽曲「翡翠の海のパノラマ」が日本で初めて演奏されました。1995年、管弦楽のための「思いだすひとびとのしぐさを」で、女性作曲家として初めて尾高賞を受賞しました。この曲のタイトルは、チリの詩人ガブリエラ・ミストラルの詩「Beber」から着想を得ています。翌年には、初のモノローグ・オペラ「蝋の女」で中島健蔵音楽賞を受賞しました。

1997年には、自身で台本を手がけた二作目のオペラ「赤い凪」を発表しました。また、京都大学創立100周年記念式典のための祝典曲として、管弦楽曲「輝を垂れて千春を映さんとす」の作曲を委嘱されました。この曲名は、中国の詩人・李白の「古風」という詩から引用されており、「その光が千年の後まで輝き続けるような、素晴らしい詩を生み出したい」という意味が込められています。同年、京都で開催された地球温暖化防止京都会議に関連し、コントラバスとギターのための二重協奏曲「京都・山河の響き」を作曲し、ゲーリー・カーと夫であるギタリストの山下和仁のソロによって初演されました。この年には、初の作品集CD「家」もリリースしています。

1998年には、太平洋戦争下における日本人とフィリピン人の交流をテーマにしたダンスとのコラボレーション「人々の靴を履いて」の公演のため、再びニューヨークを訪れました。この年から翌年にかけては、オーケストラ・アンサンブル金沢の第9代コンポーザー・イン・レジデンスを務め、1999年3月には山下和仁のソロによる「ギター協奏曲第2番“恋すてふ”」を金沢で初演しました。この作品は、2000年に二度目の尾高賞をもたらしました。この頃、雅楽への関心を深め、笙とヴァイオリンのための「深々と」（1998年）、龍笛、篳篥、笙、楽琵琶、楽箏のための「天のような地、そして地のような天」（1999年）といった作品を生み出し、初演しています。また、1999年秋には八ヶ岳高原音楽祭の音楽監督を務めました。

2001年には、日本音楽コンクール70周年記念委嘱作品である「ピアノ協奏曲第1番“一月の思い出”」を発表し、サントリーホールで初演されました。この曲には、同年1月にロシアのサンクト・ペテルブルグを訪れた際の思い出が込められています。2004年には武蔵野市国際オルガンコンクールから本選課題曲として「オルガン協奏曲“フラ・アンジェリコの墓にて”」の作曲を委嘱されました。同年には二枚目の作品集CD「青い花」をリリースし、ローマ国際ギター・フェスティバルでは「藤家溪子ギター作品の夕べ」が開催されるなど、国際的な活動も活発に行っています。

2004年から約10年間、夫の山下和仁や家族とともに「山下和仁ファミリー・クウィンテット」を結成し、作曲活動と演奏活動を両立させました。その後はオペラ作曲に力を注ぎ、2018年に作曲されたオペラ「蝕 (A Vermilion Calm)」は、2020年9月にポーランドで初演されました。同年からは長年暮らした長崎県から拠点を移し、西アフリカのブルキナファソで現地の音楽家たちと協力して新たなオペラ制作に取り組んでいます。著書やホームページでは「藤家溪子」と表記されることもあります。

主な受賞歴:

「クラリネット協奏曲」: 第55回日本音楽コンクール作曲部門（1986年）
「弦楽三重奏曲」: ACL青年作曲賞（1990年）
「思いだすひとびとのしぐさを」: 尾高賞（1995年）
「蝋の女」: 中島健蔵音楽賞（1996年）
「ギター協奏曲第2番「恋すてふ」」: 尾高賞（2000年）

代表的な作品:

クラリネット協奏曲 Op.7（1986年）
思いだすひとびとのしぐさを Op.33（1994年）
輝を垂れて千春を映さんとす (京都大学創立100周年記念委嘱作品) （1997年）
ギター協奏曲第2番「恋すてふ」Op.60（1999年）
ピアノ協奏曲第1番「一月の思い出」Op.73（2000年）
ギターソナタ第1番「青い花」Op.75（2002年）

主なディスコグラフィー:

Works for guitar solo: La casa = 家 (1997年)
The Blue Flower - sonata for guitar solo 青い花藤家溪子ギター曲集 (2004年)
（上記以外にも参加・収録されたCD多数）

著作:

『小鳥の歌のように、捉えがたいヴォカリーズ』（東京書籍、2005年）

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