藤岡屋慶次郎

藤岡屋慶次郎（ふじおかや けいじろう）は、江戸時代後期から明治時代にかけて、東京で活動した地本問屋の屋号であり、複数の人物がこの名を名乗りました。

初代水野慶次郎

初代慶次郎（生没年不詳）は、松栄堂、松林堂、藤慶と号し、水野氏を名乗りました。明治時代に入ると、水野書店とも呼ばれました。また、水野慶二郎と表記されることもありました。彼は藤岡屋彦太郎の弟にあたります。

天保5年（1834年）に、江戸本郷で生まれた初代慶次郎は、日本橋通油町18番地に書籍地本問屋および錦絵問屋を開業しました。天保年間には下谷池之端仲町、嘉永年間には通油町南側中程源七店地借や同町武右衛門地借に店を構え、営業を行いました。嘉永5年（1852年）には、兄である藤岡屋彦太郎から書物問屋本組株を譲り受け、本格的に出版業に携わりました。

初代慶次郎は、歌川広重、3代目歌川豊国、歌川貞秀、歌川芳虎といった人気浮世絵師の錦絵を出版しました。これらの作品は、当時の人々の生活や風俗、風景を描き出し、江戸文化を象徴するものでした。

二代目水野慶次郎

二代目慶次郎（生没年不詳）は、専ら書籍出版を手掛けました。明治初期には、文部省の教育用掛図や教科書の翻刻、取次販売に携わりました。また、それらの教師用指導書（指南書）の木版系翻刻にも参加し、明治の教育現場を支えました。

明治14年（1881年）頃には、錦絵問屋としての活動を廃止し、書籍出版に専念しました。

三代目水野慶次郎

三代目慶次郎は、慶応3年（1867年）に埼玉県北足立郡草加町で生まれました。明治24年（1891年）に慶次郎の名を襲名し、出版業界で活躍しました。明治35年（1902年）には東京書籍商組合の評議員に選出され、その後も要職を歴任しました。明治36年（1903年）には日本書籍株式会社を創立し、取締役に就任。明治39年（1906年）に国定教科書共同販売所設立とともに一旦退職しましたが、明治42年（1909年）に日本書籍株式会社が設立された際に再び取締役に就任し、大正時代までその職を務めました。

三代目慶次郎は、書籍業界の発展に大きく貢献し、特に教科書出版の近代化に尽力しました。

水野慶次郎に関する補足

『原色浮世絵大百科事典』第3巻では、水野慶次郎の項において、「あるいは房次郎か。東京。通油町6番地」と記されており、3代目歌川広重の錦絵が作例として挙げられています。この記述は、水野慶次郎に関する情報が錯綜していることを示唆しています。

藤岡屋慶次郎が手掛けた主な作品

歌川広重『江戸名所古跡伝』中判10枚揃（弘化1年（1844年）頃）
歌川広重『東海道五十三次図会』大判揃物（嘉永年間）
歌川広重『絵本東海道風景図会』
3代目歌川豊国『源氏十二月之内』
3代目歌川豊国『今様三十二相』大判揃物（安政6年（1859年））
歌川貞秀『蒸気船全図 海上浦賀風景』大判3枚続（文久3年（1863年））
歌川芳虎『英吉利国蘭頓図』大判3枚続（慶応2年（1866年））
歌川貞秀『伊勢御参宮之図』大判3枚続（明治2年（1869年））
3代目歌川広重『新撰花鳥尽』大判2丁掛 錦絵揃物（明治11年）
3代目歌川広重『立斎漫画』大判 錦絵揃物（明治12年）
3代目歌川広重『府県名所図会』中判 錦絵揃物（明治13年）

歴代の藤岡屋慶次郎

初代水野慶次郎（生没年不詳）
2代目水野慶次郎（生没年不詳）
3代目水野慶次郎（慶応3年（1867年）6月29日‐大正5年（1916年））

まとめ

藤岡屋慶次郎は、江戸時代から明治時代にかけて、錦絵出版から書籍出版へと事業を拡大し、時代とともに変化する人々のニーズに応え続けました。特に、三代目慶次郎は、書籍業界の発展と教科書出版の近代化に大きく貢献しました。彼らの足跡は、日本の出版史において重要な位置を占めています。

参考文献

東京書籍商組合編『東京書籍商組合史及組合員概歴』東京書籍商組合、1927年
唐澤富太郎『教育博物館』ぎょうせい、1977年
日本浮世絵協会編『原色浮世絵大百科事典』第3巻 大修館書店、1982年
吉田漱『浮世絵の基礎知識』雄山閣、1987年
* 永田生慈『資料による近代浮世絵事情』三彩社、1992年

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