藤波教忠

藤波教忠：幕末維新を生きた公卿、最後の世襲神宮祭主

藤波教忠（ふじなみ のりただ）は、文政6年（1823年）に生まれ、日本の公卿、華族として活躍しました。彼は世襲制における最後の神宮祭主でもありました。激動の幕末から明治維新にかけて、神祇官、そして公家として生きた彼の生涯を辿ります。

生涯

誕生から公卿へ

文政6年（1823年）、神宮祭主であった藤波光忠の子として誕生しました。文政10年（1827年）には5歳で叙爵され、公家としての道を歩み始めます。天保2年（1831年）には9歳で元服し、昇殿を許されると同時に、従五位上神祇権大副に任じられました。天保10年（1839年）には17歳という若さで父から祭主職を継承し、神祇官としてのキャリアをスタートさせます。弘化3年（1846年）には従三位に叙せられ、公卿の列に加わりました。翌年には推叙により正三位へと昇叙しています。嘉永元年11月25日（1848年12月20日）には、寿詞を奏上した賞により直衣を許され、翌年には第54回神宮式年遷宮を斎行しました。

安政2年11月23日（1855年12月31日）には、孝明天皇の新造内裏への遷幸に供奉しています。

幕末から維新へ

安政5年3月12日（1858年4月25日）、日米修好通商条約締結の条約案に対し、その内容の撤回を要求する書状に連署しました（廷臣八十八卿列参事件）。これは、開国に反対する公家たちの政治的動きの一環でした。

文久2年5月11日（1862年6月8日）には、非蔵人の行う国事書類の筆写を担う国事御用書記の一人に任じられました。しかし、同年12月9日（1863年1月28日）に国事御用掛が設置されたことにより解任されます。元治元年6月25日（1864年7月28日）には、関白二条斉敬に対し、横浜鎖港実施を幕府へ要求する一条家門流三十八卿建議に参加するなど、尊王攘夷運動にも関わりました。

しかし、これらの活動もむなしく、時代は明治維新へと向かいます。

罷免から隠居へ

明治維新後も神宮祭主の地位にあり、明治2年（1869年）には第55回神宮式年遷宮を斎行しましたが、維新政府による改革の波が押し寄せます。神宮の神官世襲廃止に向けた動きの中で、明治4年1月28日（1871年3月18日）に祭主を罷免されました。同年5月14日（7月1日）には、神宮に対して神官世襲廃止が正式に通知されました。

明治9年（1876年）12月25日、家督を婿養子に迎えた藤波言忠に譲り、隠居しました。明治19年（1886年）には、五辻高仲、山井氏暉と共に特旨を以て同日昇叙され、教忠と高仲は正二位に、山井は従二位に叙せられました。

明治24年（1891年）、長年の病により69歳で薨去しました。墓所は青山霊園にあります。

官歴

藤波教忠は、以下のような官歴を辿りました。

文政10年5月21日（1827年6月15日）：従五位下
天保2年5月28日（1831年7月7日）：従五位上、神祇権大副
天保5年3月16日（1834年4月24日）：正五位下
天保8年1月5日（1837年2月9日）：従四位下
天保10年8月11日（1839年9月18日）：祭主
天保11年1月22日（1840年2月24日）：従四位上
天保12年3月11日（1841年5月1日）：右兵衛権佐を兼任
天保13年2月5日（1842年3月16日）：造宮使
天保13年2月29日（1842年4月9日）：造宮使を辞任
天保13年6月8日（1842年7月15日）：造宮使に還任
天保14年6月18日（1843年7月15日）：正四位下
天保15年6月29日（1844年8月12日）：神祇大副へ転任
天保15年6月30日（1844年8月13日）：造宮使を辞任、服解
天保15年8月21日（1844年10月2日）：除服出仕復任
弘化2年7月9日（1845年8月11日）：造宮使に還任
弘化3年1月18日（1846年2月13日）：従三位
弘化4年3月3日（1847年4月17日）：正三位
嘉永2年7月5日（1849年8月22日）：伊勢権守を兼任
文久元年12月5日（1862年1月4日）：従二位、神祇大副は如元
明治19年（1886年）2月5日：正二位

系譜

父：藤波光忠
母：吉野はな - 家女房（吉野周悦の娘）
妻：高倉愛子（高倉永雅の娘、後離縁）
女子：藤波文子 - 藤波言忠室
女子：大巌恭子 - 藤波言忠継室、後大巌蟄龍室
女子：愛宕秀子 - 愛宕通致室
女子：稲垣綾子 - 稲垣太祥室
男子：藤波重忠
* 養子：藤波言忠 - 広橋胤保男

藤波教忠は、公家社会の一員として、また神祇官として、激動の時代を生き抜きました。彼の生涯は、幕末維新期の社会構造の変化を反映しており、歴史を考察する上で重要な視点を提供してくれます。

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