藺苞

藺苞（りん ぽう）は、中国の新代に活動した軍人である。王莽（おうもう）が皇帝として君臨した時代、匈奴との関係悪化という外交問題に深く関与し、その動乱の時代を象徴する人物の一人と言える。

生涯

藺苞は、中郎将（ちゅうろうしょう）という官職に10年以前から就いていた。これは軍事における重要な役職であったと考えられる。始建国3年（11年）には、その功績により宣威公（せんいこう）に封じられ、さらに虎牙将軍（こがしょうぐん）という重要な地位に任命されている。

匈奴分裂工作

前漢の時代から、漢と匈奴は和親関係を保っていた。しかし、王莽が皇帝の座につくと、その関係は悪化の一途をたどる。王莽は、匈奴の指導者である烏珠留若鞮単于（うじゅるじゃくていぜんう）の地位を下げようとしたため、匈奴との間に緊張が走った。さらに、新から匈奴へ投降する者が出るなど、国内の混乱も匈奴との関係悪化に拍車をかけた。新に服属していた西域諸国もこの影響を受け、情勢は不安定になった。

このような状況下、王莽は匈奴を分裂させるという策を打ち出す。始建国2年（10年）12月、王莽は15人の単于を擁立し、匈奴を内部から分裂させようと企図した。そのために、30万人の兵士を動員して北辺に配置し、藺苞にその任務を託した。藺苞は副校尉（ふくこうい）の戴級（たいきゅう）と共に、1万騎の兵を率いて雲中郡（うんちゅうぐん）の塞へと派遣された。

始建国3年（11年）、藺苞らは、呼韓邪単于（こかんやぜんう）の子である右犁汗王（うれいかんおう）咸（かん）と、その子の登（とう）、助（じょ）の3人を塞に誘い入れた。彼らに黄金などの宝を与え懐柔すると同時に、脅迫も行った。咸を孝単于（こうぜんう）、助を順単于（じゅんぜんう）として擁立することを承諾させたのである。こうして咸を匈奴へ帰し、助と登を都の長安へ送った。

この功績により、藺苞は宣威公に封じられ、虎牙将軍に任命された。これは、王莽からの厚い信任を得た証と言えるだろう。

その後

しかし、この匈奴分裂工作は最終的には失敗に終わる。匈奴との戦いは激化し、国内でも反乱が頻発するなど、新の国力は大きく衰退した。藺苞自身も、この分裂工作以降の活動はほとんど知られていない。時代の波に翻弄され、歴史の表舞台から姿を消したと言える。

藺苞の活動は、王莽による匈奴政策の失敗を象徴する出来事であり、新代という時代の混乱を物語る一例として捉えることができるだろう。

参考文献

* 班固『漢書』。小竹武夫訳注『漢書』1 - 8、筑摩書房（ちくま学芸文庫）、1998年。

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