蛟竜

蛟龍（こうりゅう）

蛟龍（こうりゅう、こうりょう、蛟竜）は、中国の竜の一種であり、竜の幼生、もしくは変態する竜種の未成熟な姿を指すとされています。『本草綱目』などでは鱗を持つ竜類として記述されています。

語源

蛟龍の語源には諸説ありますが、多くは形声文字「蛟」の音符である「交」の意味（交差する、混じる、交尾するなど）に基づいた推測です。例えば、任昉の『述異記』には、その眉が交わって生えることから「蛟」と名付けられたという説明があり、『本草綱目』でも引用されています。

異名・同義語

辞典『埤雅』によれば、蛟龍の俗称は「馬絆」（maban）であるとされています。また、漢語の「蛟龍」は梵語の「宮毗羅」にあたるとも言われています。サンスクリット語ではkumbhīraと表記され、「鼻の長い鰐類」を意味します。仏典では宮毘羅は十二神将の一人として登場します。

用例

「蛟龍」という言葉が使われる場合、それが一種の生物を指すのか、蛟と龍という二つの異なる種類を並べて言っているのかが曖昧な場合があります。『楚辞』の「離騒」にある「蛟竜を手招いて橋を成せ」という一節がその例です。王逸の注釈によれば、ここでは小さいものを蛟、大きいものを龍として区別しています。

蛟（コウ）の訓読みは「みずち」ですが、中国の別の種類の竜である虬（キュウ）や螭龍（チ）も「みずち」と訓読みされるため、混同されることがあります。

概要

「蛟」は「龍属」、つまり龍の仲間とされています（『説文解字』）。

出生・成長

蛟は卵生であるとされています。その卵が水中で生まれるか、陸で孵化するかについては、『荀子』勧学篇に「積水の淵を成さば蛟龍生ず」とある一方、『淮南子』暴族訓では「蛟龍は淵に伏寝するも、その卵は陵（おか）において割（さ）ける」と記述されています。

『述異記』には、蛟竜はやがて飛べる竜に変態するという記述があり、「水に棲む虺（き）は五百年で蛟となり、蛟は千年で龍となり、龍は五百年で角龍、千年で應龍となる」と記されています。ここでいう虺（き）は、水棲のマムシ属、あるいはウミヘビの一種ではないかと推察されています。

水の主

龍と同様に、蛟竜の本来の棲み処は水であるとされています。『淮南子』原道訓には「蛟龍は水居」とあり、『管子』形勢篇には「蛟龍は水を得てこそ神の力を顕現させ」、すなわち「蛟龍は水蟲の神」であると説かれています。

池の魚が増えすぎると、蛟がその魚を率いて飛び去ってしまうという伝承もあります。その対策として、魚取り用の簗を仕掛けておけば蛟竜は諦めるとされています。また、スッポンを放つことでも蛟の害を防ぐことができるとされています。

『魏志倭人伝』には、倭人が水難除けのために文身（入れ墨）をしていたことが記されており、中国の呉越地方でも同様の風習があったことが指摘されています。これらの風習は、蛟竜に対する信仰と関連があると考えられています。

外見

李時珍の『本草綱目』には、蛟は竜に属し、鱗を持つと記述されています。また、『山海経』の郭璞注には、蛟の首に白い瘤があるとされています。また、蛟の卵は非常に大きく、人を飲み込むほどであるとも伝えられています。

『説文解字』の注釈では、蛟は角を持たないとされていますが、別の説では、竜の子のうち一角のものが蛟であるとされています。

龍船節

龍船節（端午の節句）に供される米に関する説話には蛟龍が登場します。入水した屈原を祀るために米を川に投げ入れていたところ、蛟龍に盗まれてしまうため、楝（おうち）の葉でふさぎ、五色の糸をつけたという話が、ちまきの起源の一つとして語られています。

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