補助貨幣

補助貨幣とは

補助貨幣とは、本位貨幣を補完する目的で発行される貨幣のことで、主に小額の決済に利用されてきました。本位貨幣制度がかつて存在した時代には、本位貨幣に対する補助的な役割を持つ貨幣として規定されていました。しかし、現在では本位貨幣制度が廃止されたため、法令上「補助貨幣」という名称は用いられていません。

概要

補助貨幣は、本位貨幣制度の下で生まれた概念であり、本位貨幣が存在しない現在では、法令上の正式な「補助貨幣」は存在しません。日本では、1988年3月末に貨幣法と臨時通貨法が廃止されるまで、「補助貨幣」は硬貨を指す言葉として一般的に使われていました。これは、日本の硬貨が長らく臨時補助[[貨幣]]として発行され、事実上の現金通貨として流通していた背景によります。

しかし、貨幣法の下では、臨時補助[[貨幣]]も本位貨幣である金貨に対する補助貨幣という位置づけでした。1988年4月以降、通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律が施行され、現在では政府が発行する硬貨は「貨幣」と称されるようになり、「補助貨幣」という言葉は法令上用いられなくなりました。現在では、硬貨は日本銀行券に対する「補助」という位置づけではなく、貨幣関連の法令や歴史的経緯を理解する必要があります。

通常、補助貨幣には硬貨が用いられますが、政府紙幣などの紙幣が使用されることもありました。補助貨幣は、銀行券と共に法定通貨として扱われるのが一般的ですが、法的な強制力には制限があり、一回の決済における総額面や使用枚数に上限が設けられることがあります。

小額の本位貨幣を製造することは技術的に難しく、その代替として、本位貨幣よりも素材価値の低い金属で鋳造されることが一般的です。また、銀のような小額貨幣の材料となる金属の価格が高騰すると、銀貨が国外に流出したり、溶解されて小額貨幣が不足する事態が発生したため、額面価値よりも低い価値の素材で鋳造されたり、銀貨の場合は額面価値を減らす措置が取られることもありました。補助貨幣は、主に国内の小取引で使用され、本位貨幣の交換媒介を補助する役割を担っていました。補助貨幣と定位貨幣はほぼ同じ意味で使われることが多いですが、イギリスの1クラウン銀貨やアメリカの1ドル銀貨のように、高額のものは定位貨幣として扱われました。

補助貨幣は、制限法貨として一定の金額内でのみ強制通用力を持つことが多く、経済の混乱や素材価値の高騰により額面価値と素材価値が大きく乖離した場合、溶解されて流通量が確保できなくなるという状況も起こりえました。補助貨幣は、本位貨幣とは異なり自由鋳造は認められていません。自由鋳造が認められると、補助貨幣は額面が実質価値を上回る定位貨幣としての性質から、差益を得ようとする者が大量に鋳造を請求し、流通価値が下落する恐れがあったからです。

日本の補助貨幣の歴史

江戸時代には、1765年に鋳造された五匁銀が金銀複本位制を目指しましたが、市場に受け入れられませんでした。1772年に鋳造された南鐐二朱銀は、小判に対する補助貨幣としての役割を果たしましたが、正式に補助と規定されていたわけではありませんでした。

明治4年の新貨条例では、本位金貨の他に50銭以下の貨幣が「定位ノ銀貨幣」および「定位ノ銅貨」と定められました。これは、本位貨幣の補助として制度によって価値を定め、流通を円滑にするためのものでした。明治8年には「貨幣条例」に改められ、「補助ノ銀貨」および「補助ノ銅貨」と表記されるようになり、通用制限額も定められました。明治30年の貨幣法では、本位金貨の他に50銭以下の銀貨幣、白銅貨幣、青銅貨幣が定められ、それぞれ通用制限額が設定されました。昭和13年の臨時通貨法では、政府は臨時補助[[貨幣]]を発行することが可能となり、以降発行される硬貨はすべて通用制限額が定められました。

昭和63年の通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律では、本位貨幣が廃止され、一部の臨時補助[[貨幣]]が同法律に基づいて発行された「貨幣」と見做されることになりました。これにより、名目上「補助」は意味をなさなくなり、同法律により「貨幣」と称されるようになりました。しかし、現在の日本の硬貨は、法律施行以前の臨時補助[[貨幣]]の様式や通用制限を事実上踏襲しており、補助貨幣的な性格を有しています。また、同法律の附則で、法令上の「補助貨幣」の文言が「貨幣」に変更されました。

各国の補助貨幣の歴史

イギリス

1717年にアイザック・ニュートンが金銀比価を定めましたが、金高に設定されたため銀貨が国外に流出し、1774年には銀貨の支払いに制限が設けられました。1816年の金本位制施行時には銀貨が軽量化され補助貨幣となり、通用制限額も定められました。第一次世界大戦後、銀価格が高騰したため銀貨の品位が引き下げられました。1931年には事実上金本位制から離脱しました。

フランス

1803年の鋳造法で金銀複本位制が定められましたが、銀価格の下落と金本位制へのシフトにより、1873年には事実上、1878年には正式に金本位制が施行されました。1936年には事実上金本位制から離脱しました。

アメリカ

1792年以来金銀複本位制でしたが、金価格の下落から銀相場が上昇し、1853年に1/2ドル以下の銀貨の量目が削減されました。1873年には金本位制となり、1/2ドル銀貨以下が補助銀貨として発行されました。1878年には1ドル銀貨が復活しましたが、銀貨は法定通貨としての通用制限額が設けられました。1933年には金本位制が停止され、銀貨の通用制限も撤廃されました。アメリカの金貨は本位貨幣としての地位を失いましたが、廃貨措置は取られておらず、すべての硬貨は無制限に法貨です。

法貨としての通用制限

金本位制の時代には、補助貨幣が無制限に強制通用力を持つと、債権者が実質価値の低い貨幣で多額の弁済を受けたり、大量の補助貨幣の授受が困難になるなどの問題がありました。また、外国市場では補助貨幣を使用できないという問題もありました。これらの理由から、補助貨幣の法貨としての資格に制限が加えられました。

本位貨幣制度が廃止された現代では、これらの問題の一部は意義を失っていますが、補助貨幣（硬貨）の大量の授受の困難さや、小額取引への利用が主な目的であるという点は、現在も妥当性があると考えられています。

日本では、補助貨幣と呼ばれていた時代の法貨としての通用制限が現在も踏襲されています。現在、各国では補助貨幣そのものは存在しませんが、一般に流通している硬貨の法貨としての通用制限は、日本以外では無制限であることが多いです。

法貨としての通用制限額は、強制通用力としての制限であり、支払い側と受け取り側の合意があれば、この限りではありません。

日本

日本では、硬貨の強制力は、同一額面の貨幣それぞれについて、一回の決済につき20枚までです。ただし、税金などの公金の納付については、貨幣を無制限に受領すべきとされています。記念[[貨幣]]も同様に20枚まで法貨として通用します。

イギリス

イギリスでは、1ポンド以上の硬貨は法貨として無制限ですが、ペンス硬貨には制限が設けられています。

中国

中国では、人民元の少額貨幣である輔幣の強制通用力に制限はありません。

アメリカ

アメリカでは、すべての硬貨は法貨として無制限に通用します。

ユーロ圏

ユーロ圏では、ユーロ硬貨は法貨として制限はないとされていますが、1回の支払いについて50枚を超える硬貨の受領を強制されることはありません。

まとめ

補助貨幣は、本位貨幣を補完する役割を持つ貨幣であり、その歴史は長く、各国の経済状況や貨幣制度に深く関わっています。現代では、補助貨幣という名称は用いられなくなりましたが、硬貨の法貨としての通用制限や、小額決済での利用という役割は、依然として存在しています。

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