西メボン

西メボン：水上に浮かぶ古代寺院

西メボン（英語: West Mebon、クメール語: ប្រាសាទមេបុណ្យខាងលិច）は、カンボジアのアンコール遺跡群に位置する寺院です。この寺院は、アンコール地域最大の貯水池である西バライの中央に位置しており、その独特な立地が特徴的です。寺院の正確な建築年は不明ですが、11世紀の王スーリヤヴァルマン1世（在位1002-1050年）またはウダヤーディチャヴァルマン2世（在位1050-1066年）の統治時代に建てられたと考えられています。

位置と象徴性

西メボンは、乾季には陸路でアクセス可能ですが、雨季には西バライの水位が上昇し、寺院は水面に浮かぶ島のように姿を変えます。この場所は、クメールの建築家が意図的に選んだものであり、ヒンドゥー教における天地創造の海を象徴する堀で囲まれた寺院という、宗教的な象徴性を具現化しています。水域の中央に寺院を配置することで、広大な海の上に寺院が浮かび上がるという視覚的な効果を生み出しています。

構成

寺院は、一辺が約100メートルの正方形の形状をしています。各辺には、石のハスの花を載せた3つの塔門が、約28メートル間隔で配置されています。正方形の中心には、ラテライトと砂岩の歩道で東側の壁に繋がった石の基壇があります。現在、基壇、歩道、東側の壁と塔の跡が残っており、バライの水位が低い時には、それらの輪郭を見ることができます。しかし、寺院の大部分は失われており、基壇の上にかつて存在した小さな構造物や中央の祠堂は、今では確認することができません。

横たわるヴィシュヌ像

1938年、西メボンから、クメール美術において非常に重要な青銅彫刻である、横たわるヒンドゥー教の神ヴィシュヌの破片（上半身）が発見されました。この像は11世紀中頃のもので、残存部分の高さが1.14メートル、幅が2.17メートルあります。像の頭部、胴体の上部、2本の右腕が含まれており、かつては全長約6メートルにも及んだと考えられています。この像の発見には、地元の村人が夢で仏陀の像が西メボンに埋まっているのを見たという逸話が残っています。発掘の結果、実際にはヴィシュヌ像であることが判明しました。

13世紀末にアンコールを訪れた中国の使節である周達觀は、帰国後に書いた『真臘風土記』の中で、アンコール地域の別の貯水池である東バライの中央にある東メボンに、へそから水が流れ出る臥仏像があると記録しました。多くの学者は、周達觀がヴィシュヌ像を仏陀（涅槃仏）像と誤って記録し、場所も間違えたと考えていますが、周が西バライや西メボンを訪れた記録がないため、東メボンにも同様の像があった可能性も否定できません。発見されたヴィシュヌ像は現在、プノンペン国立博物館に収蔵されており、ワシントンD.C.など海外でも展示されています。

まとめ

西メボンは、アンコール遺跡群の中でも独特な存在感を放つ寺院です。水面に浮かぶようなその姿は、古代クメールの宗教観と建築技術を今に伝える貴重な遺産です。また、ヴィシュヌ像の発見は、当時のクメール美術の高さを示す重要な証拠となっています。この寺院は、アンコールの歴史と文化を理解する上で、欠かすことのできない場所の一つと言えるでしょう。

参考文献

ブリュノ・ダジャンス 著、中島節子 訳、石澤良昭監修 編『アンコール・ワット』創元社、1995年。ISBN 4-422-21098-X。
周達観 著、和田久徳 訳『真臘風土記』平凡社〈東洋文庫〉、1989年。ISBN 4-582-80507-8。
Laur, Jean. Angkor: An Illustrated Guide to the Monuments. Flammarion 2002
Rooney, Dawn. Angkor. Airphoto International Ltd. 2002
Rooney, Dawn F. (2011). Angkor: Cambodia's Wondrous Khmer Temples (6th ed.). Odissey. p. 342. ISBN 978-962-217-802-1

関連項目

西バライ
* 東メボン

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