西郷従道家

西郷従道家について

西郷従道家は、幕末から明治にかけて活躍した西郷従道が、兄である西郷隆盛の家から分かれて創設した家です。従道は、その功績により華族の侯爵に列せられました。西郷隆盛家も同様に侯爵であったため、西郷侯爵家は二家存在しました。

歴史

西郷従道は、薩摩藩士の三男として生まれ、幼名を隆興と名乗りました。兄の西郷隆盛（吉之助）とは16歳違いでした。西郷家は、南朝の忠臣として知られる菊池氏の流れを汲む家柄とされています。

従道は、薩摩藩で茶坊主として仕えていましたが、後に還俗し、西郷慎吾と改名しました。兄と共に国事に奔走し、戊辰戦争では賊徒掃討に貢献しました。その功績により、明治2年には賞典禄として金300石を賜っています。

その後、山縣有朋と共にヨーロッパを視察し、帰国後は兵部省に出仕して陸軍大輔に就任しました。明治4年には従道と改名し、陸軍少将、明治7年には陸軍中将に進んでいます。征台の役では征討都督として全軍を指揮し、戦功を挙げました。明治11年には参議、文部卿に就任し、その後も陸軍卿、農商務卿などを歴任しました。

内閣制度発足後は、第1次伊藤内閣から第2次山縣内閣までの歴代内閣で、海軍大臣、農商務大臣、内務大臣、陸軍大臣などを務め、特に海軍大臣として活躍しました。明治17年には伯爵、明治28年には侯爵に陞爵し、明治31年には元帥府に列しています。

明治35年に従道が亡くなると、長男の従理は既に亡くなっていたため、次男の従徳が家督を相続しました。従徳は陸軍軍人として陸軍歩兵大佐まで昇進し、日露戦争では功四級を賜りました。また、東京府の多額納税者でもありました。従徳の妻は岩倉具定公爵の次女であり、その姉は東伏見宮依仁親王妃です。

従道の三男の従義は海軍軍人として日露戦争に参加し、男爵の養子となりました。四男の従志は宮内省に勤務した後、伯爵の養子となっています。

従徳の長男である従吾も、父と同様に陸軍軍人として陸軍大佐まで昇進しました。従徳の次男である従純は、古河財閥の男爵の養子となりました。六男の従達は伯爵の養子となり、昭和時代には東宮侍従長を務めています。

従吾の長男は早世したため、その跡は従節が継ぎました。従節は実業家として活躍し、その代には東京都目黒区に住んでいました。従節の長男が従洋、次男が西郷従英です。

西郷従道侯爵邸

東京都目黒区青葉台二丁目周辺は、「西郷山」という通称で呼ばれています。これは、明治初期に従道が約2万坪の土地を購入し、洋館と和館からなる豪邸を建てたためです。この土地は、征韓論争で下野した兄の隆盛のために購入したものでした。

兄の隆盛とは異なり、冷静で柔軟性があった従道は、兄が下野した後も政府に残りました。しかし、この土地には兄を迎え入れるつもりでいたとされています。従道にとって、兄の挙兵は予想外であり、無念であったと思われます。

明治22年には、明治天皇の行幸も賜りました。この邸宅と土地は、従徳の代まで西郷侯爵家の本邸として使用されていましたが、昭和16年に渋谷に転居した際に手放され、所有権は国鉄に移りました。和館は戦時中に焼失しましたが、洋館は現存しており、昭和38年に愛知県犬山市の「明治村」に移築されました。

洋館は、円弧を描いて張り出したベランダが特徴的で、軒や屋根の破風に施された切り抜き板張りが繊細なデザインとなっています。設計は、お雇い外国人のフランス人建築家ジュール・レスカスによるものです。レスカスは耐震性を重視し、屋根を軽量化したり、筋交構造を用いるなどの工夫を凝らしました。また、邸内は様々な外来品で装飾されており、見どころとなっています。

系図

（実線は実子、点線（縦）は養子。系図は『島津家家臣団系図集 上巻』や『平成新修旧華族家系大成 上巻』に準拠。）

参考文献

小田部雄次『華族 近代日本貴族の虚像と実像』中央公論新社、2006年。
華族大鑑刊行会『華族大鑑』日本図書センター、1990年。
霞会館華族家系大成編輯委員会『平成新修旧華族家系大成 上巻』霞会館、1996年。
西郷従宏『元帥西郷従道伝 新装版』芙蓉書房出版、1997年。
鈴木博之『元勲・財閥の邸宅』ジェイティビィパブリッシング、2007年。
野田幸敬『島津家家臣団系図集 上巻』南方新社、2019年。

関連項目

西郷氏
西郷隆盛家

もう一度検索