讃岐丸 (特設水上機母艦)

日本郵船がニューヨーク航路の競争激化に対応するため、第一次船舶改善助成施設を利用して計画した高速貨物船、崎戸丸型（S型）の2番船として、「讃岐丸」は1939年（昭和14年）5月1日に三菱重工業長崎造船所で竣工しました。これは日本郵船としては2隻目の「讃岐丸」でした。当時の国際航路、特にニューヨーク航路では、欧米諸国の船会社や国内の大阪商船が優秀船を次々と投入し、貨物船の高速化競争が繰り広げられていました。日本郵船は、これまでの旧式船に代わる主力船として、まずN型、次いでA型を建造し、S型はその第二陣として7隻が計画されました。

竣工後、「讃岐丸」は期待に応え、東回り世界一周航路に就航します。横浜からロサンゼルスまでを11日7時間、パナマ運河を経由してロンドンまでを32日23時間という新記録を樹立し、その高速性能を示しました。しかし、第二次世界大戦の勃発や日独伊三国同盟の締結などにより国際情勢は急速に悪化。優秀船は航路から引き上げられ、世界一周航路も運休に追い込まれました。この頃、船の総トン数など主要な数値が、減トン甲板口の閉鎖によって一部増加しています。

太平洋戦争開戦が迫る1941年（昭和16年）8月17日、「讃岐丸」は日本海軍に徴用され、9月5日付で特設水上機母艦として軍籍に入りました。舞鶴海軍工廠での改装工事を終えた後、南部へと進出します。開戦劈頭の12月8日からは、バタン諸島攻略戦やリンガエン湾上陸作戦において、搭載する水上偵察機による偵察や攻撃で部隊を支援しました。偵察中に被弾する機体や、バスコ飛行場への攻撃に参加する様子が記録されています。

1942年（昭和17年）に入ると、タラカン島、そしてバリクパパン攻略戦の支援に転じます。特にバリクパパン沖では、1月24日未明に海戦が発生するなど激しい戦場となり、「讃岐丸」も空襲に晒されました。1月25日、タラカン島を出撃してバリクパパンに進出し、対潜哨戒任務に就きます。連日の空襲の中で、1月27日には二度にわたる攻撃により多数の至近弾を受け、船体に破孔が生じて浸水する損害を負いました。搭載していた零式水上観測機も破損や火災を起こしましたが、応急修理を施し、引き続きマカッサル攻略戦やスラバヤ攻略戦の支援にあたりました。蘭印方面の作戦が一区切りつくと、3月10日付で第三南遣艦隊に編入され、フィリピン方面に移動してリンガエン湾やマニラ湾、スービック湾の警戒、セブ攻略戦などに従事しました。フィリピンでの作戦終了後、7月2日にダバオを出港し、生まれ故郷である三菱長崎造船所へと向かい、本格的な修理を受けました。

同年8月以降は外南洋部隊に編入され、激戦地ソロモン諸島方面へと戦場を移します。8月15日に佐世保を出撃し、ラバウルを経由してショートランドを拠点として活動しました。9月24日には、ショートランドでアメリカ陸軍のB-17爆撃機による攻撃を受け、至近弾により損傷しています。10月には陸軍部隊である独立飛行第七十六中隊をマニラからラバウルへ輸送する任務も遂行しました。11月21日には、アメリカ潜水艦「スティングレイ」の雷撃で航行不能となった特設水上機母艦「山陽丸」の支援にもあたっています。

1942年12月1日付で「讃岐丸」は特設運送艦へと類別が変更され、以後は前線への重要な輸送任務に従事することになります。ラバウルやトラック諸島で飛行隊関連の物資を揚陸した後、日本本土の横須賀へ回航されました。この際、「讃岐丸」から第九五八海軍航空隊に転属した飛行隊員のうち、飛行長を除く17名が、末期を迎えていたガダルカナル島の戦いで全員が戦死するという悲劇も起きています。

1943年（昭和18年）1月から2月にかけて、「讃岐丸」は陸軍部隊の大規模輸送作戦である丙一号輸送および丙三号輸送に参加しました。丙一号輸送では、第二十師団の主力1019名、車両17両、物件7200梱を釜山からパラオ経由でウェワクへ運びました。丙三号輸送では、第四十一師団の主力1298名、車両16両、物件8300梱を青島からパラオ経由でウェワクへ輸送しています。ウェワクへの輸送任務からの帰途にあった3月21日、「讃岐丸」は北緯07度49分、東経139度48分の海域を単独で航行中に、アメリカ潜水艦「フィンバック」の攻撃を受けました。「フィンバック」が発射した魚雷3本のうち2本が船尾に命中し、舵が折損し左舷側の推進器も脱落するという大損傷を負いましたが、「讃岐丸」は右舷側の機関のみで航行を続け、4月1日に舞鶴港へ奇跡的に帰投しました。しかし、舞鶴海軍工廠のドックに空きがなかったため約2ヵ月間待機した後、6月9日から9月24日まで、竣工した三菱長崎造船所で復旧工事と特設運送艦としての最終的な艤装工事が行われました。

復旧工事を終えた「讃岐丸」は、10月12日に六連沖を出港したヒ13船団に加わり、再び南方へと向かいます。昭南（シンガポール）に到着した後、スラバヤを経由してモルッカ諸島方面へ進みますが、12月4日にケンダリ港外で機雷に触れて中破するという不運に見舞われます。損傷からの復旧後、1944年（昭和19年）3月11日には昭南発のヒ48船団に加入して日本へ向かいますが、わずか3日後の3月14日、北緯10度31分、東経105度04分の地点でまたしても機雷に触れて損傷しました。度重なる災難でしたが、その都度復旧し日本に帰投。5月13日には門司発のヒ63船団で再び南方へ下ります。ビンタン島でボーキサイトを積載し、6月17日昭南発のヒ66船団に加わって北上し、門司に到着しました。その後、7月6日から30日まで三菱重工業神戸造船所で修理を受けています。修理後の9月1日、ヒ73船団に加入して南下中に、護衛の空母の艦載機に追われたアメリカ潜水艦「タニー」が「讃岐丸」の近くに急浮上する出来事があったとされますが、このエピソードの出所は不明です。11月には、予科練生約200名を乗せてヒ83船団に加入し高雄へ向かい、船団から離脱後、タンカー「日南丸」とタモ32船団を組んでレイテ沖海戦で沈没した戦艦「武蔵」の生存者と砂糖を乗せ、12月10日に高雄を出港して12月17日に門司に到着しました。

1945年（昭和20年）1月26日、「讃岐丸」は門司を出港し、ヒ91船団に加入して南を目指しました。朝鮮半島や山東半島沿いに迂回する航路を取りますが、出港からわずか2日後の1月28日未明、船団は黄海の北緯33度55分、東経122度55分の海域でアメリカ潜水艦「スペードフィッシュ」を中心としたウルフパック（複数潜水艦による連携攻撃部隊）に発見されてしまいます。「スペードフィッシュ」はレーダーで船団を探知し、「ポンポン」「アトゥル」といった僚艦と連携しながら船団に接近。午前2時31分と同33分に合計7本の魚雷を発射しました。この攻撃により、「讃岐丸」は右舷に魚雷が命中し大破、まもなく沈没しました。同じ攻撃で船団を護衛していた海防艦「久米」も被雷し、炎上しながら沈没しています。

多くの困難な任務と度重なる損傷を乗り越えた高速貨物船「讃岐丸」は、その生涯を閉じることとなりました。1945年3月10日付で除籍および海軍の徴用が解かれました。

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