賀陽豊年

賀陽豊年（かや の とよとし）は、平安時代初期に活躍した貴族、文人、そして漢学者です。その卓越した才能と不屈の精神は、当時の社会に大きな影響を与えました。

出自

賀陽氏は、古代豪族である吉備氏の一族に連なる家柄です。上道氏と同族であり、備中国賀陽郡を本拠地とする有力な豪族でした。賀陽郡の郡司や吉備津神社の神官を務めるなど、地域社会において重要な役割を担っていました。

経歴

豊年は、幼い頃から経書や史書に通じ、学問に励みました。その努力が実り、対策では優秀な成績を収め、才能を認められました。石上宅嗣にその才能を見出され、芸亭に招かれて数年にわたり学びました。この期間に、彼は数多くの書物を研究し、幅広い知識と深い洞察力を身につけました。彼の文才は、同時代の著名な文人であった釈道融や淡海三船でさえも及ばないと称賛されました。文章博士としての実績も持ち、延暦16年（797年）には東宮学士として皇太子・安殿親王（後の平城天皇）の教育係に任じられました。

平城天皇の即位後、豊年は重用され、従四位下・式部大輔にまで昇進しました。しかし、藤原薬子の台頭により政治が混乱すると、彼は権力闘争に巻き込まれることなく、沈黙を守りました。平城上皇が平城京に移った際も、彼は平安京に留まり、大同5年（810年）の薬子の変にも直接関与しませんでした。しかし、その直後に式部大輔の職を辞することになりました。その後、嵯峨天皇の要請により播磨守に任じられましたが、弘仁4年（813年）に病のため職を辞し、宇治の別荘で静かに余生を送りました。

宇治で病床に伏していた際、豊年は地元の古老から仁徳天皇と菟道稚郎子が皇位を譲り合ったという逸話を聞き、感銘を受けました。彼は左大臣・藤原園人に頼み、仁徳天皇の「地下の臣」となることを望みました。この行動には、平城上皇と嵯峨天皇の対立をこの故事に重ね合わせる意図があったのではないかという説もあります。

弘仁6年（815年）6月27日、豊年は65歳でその生涯を閉じました。その死を悼んだ嵯峨天皇は、彼を仁徳天皇陵の近くに埋葬することを許し、正四位下を追贈しました。これにより、豊年は「国の名誉」として崇敬されることとなりました。

豊年はまた、『凌雲集』の編纂においても、その才能が認められました。編者である小野岑守らは、豊年の意見を参考にし、同書には彼の漢詩作品が13首も収録されています。この数は、嵯峨天皇に次いで多いものです。また、『経国集』にも5首の漢詩が収録されています。

墓所

賀陽豊年の最期は、『日本後紀』に詳しく記されています。病床にあった豊年は、仁徳天皇と菟道稚郎子の皇位継承の逸話に感銘を受け、「地下の臣」となることを望んだ結果、天皇の勅命により仁徳天皇陵の近くに埋葬されることになりました。一般的に「陵」は天皇の墓を指しますが、文脈によっては菟道稚郎子の墓と解釈する説もあります。明治22年（1889年）に菟道稚郎子の墓（宇治墓）が宮内省によって治定された際、賀陽豊年の墓は宇治墓の陪冢の一つとして「伝賀陽豊年墓」とされました。

人物

賀陽豊年は、強い信念を持ち、何に対しても屈することのない人物でした。また、彼は知己以外の人々と交わることを好まず、その高潔な人格は多くの人々に尊敬されていました。彼はまた、身分が高いことを嫌い、友人である小野永見を訪れた際に、「白眼対三公」（蔑む目で大臣に対う）という漢詩を作ったという逸話も残っています。人々は彼を「天爵（人徳）は余りあるが、人爵（官位）が不足していた」と評しました。

官歴

賀陽豊年の官歴は以下の通りです。

時期不詳：外従五位下。文章博士
延暦16年（797年）2月9日：兼東宮学士
時期不詳：従五位下
延暦25年（806年）4月18日：兼陰陽頭
時期不詳：従四位下。式部大輔
大同3年（808年）5月14日：兼下野守
大同5年（810年）9月16日：播磨守
弘仁6年（815年）6月27日：卒去（播磨守従四位下）、贈正四位下

賀陽豊年は、その卓越した才能と高潔な人柄によって、後世に大きな影響を与えた人物です。彼の残した漢詩は、今もなお多くの人々に愛されています。

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