石上宅嗣

石上宅嗣（いそのかみ の やかつぐ）

石上宅嗣は、奈良時代後期の公卿であり、文人としても名を馳せた人物です。石上麻呂を祖父に、石上乙麻呂を父に持ち、その才能と人柄から、正三位・大納言という高位にまで昇りつめました。彼の生涯は、政治と文化の両面で重要な足跡を残しています。

生涯と政治

宅嗣は、孝謙天皇の時代に官界に入り、751年に従五位下に叙せられ、治部少輔に任じられました。その後、藤原仲麻呂政権下で地方官を歴任し、761年には遣唐副使に任命されましたが、実際には唐へ渡ることはありませんでした。この遣唐使派遣を巡っては、大使や判官との間で方針の対立があった可能性が指摘されています。その後、藤原仲麻呂を倒そうとした企てに加担したことで一時失脚しますが、仲麻呂の乱後には復権を果たし、常陸守に任じられました。

道鏡政権下では順調に昇進を重ね、中衛中将、参議、そして従三位と位階を上げていきました。称徳天皇の崩御後には、光仁天皇の擁立に尽力し、光仁天皇からの信頼も厚く、中納言、大納言と重用されました。太政官では右大臣、内大臣に次ぐ第三位の席次を占めるまでになりました。

宅嗣は、官位昇進の過程で、物部朝臣、石上大朝臣へと改姓しています。781年には正三位に叙せられますが、そのわずか2ヶ月後にはこの世を去りました。臨終にあたり、薄葬を遺言したと伝えられています。死後、正二位を贈られ、その死は多くの人々から惜しまれました。

文化人としての活躍

宅嗣は、単なる政治家としてだけでなく、優れた文化人としても知られています。経書や歴史書を好み、幅広い知識を持ち、文を作る才能にも長けていました。草書や隷書にも堪能であり、漢詩人としても活躍しました。美しい風景や山水に触れるたびに詩を詠み、その作品は『経国集』にも収められています。

特に注目すべきは、彼が旧宅に設けた「芸亭」です。これは、仏教経典以外の書籍を一般に公開した、日本最初の公開型図書館とされています。多くの人々がこの芸亭で学び、知識を深めました。宅嗣の文化に対する深い理解と貢献は、後世に大きな影響を与えました。

人物像

宅嗣は、賢明で悟りが早く、立派な容姿をしていたと伝えられています。また、発言や振る舞いにも落ち着きがあり、雅やかであったとされています。教養と品格を兼ね備えた人物であったことがうかがえます。

官歴

751年：従五位下、治部少輔
757年：従五位上、相模守
759年：三河守
761年：上総守、遣唐副使（後に辞任）
763年：文部大輔
764年：大宰少弐（後に復権）、常陸守
765年：従四位下、中衛中将
766年：参議、正四位下
768年：従三位
770年：大宰帥
771年：式部卿、中納言
775年：物部朝臣に改姓
777年：中務卿
779年：石上大朝臣に改姓
780年：大納言
781年：正三位、薨去（贈正二位）

まとめ

石上宅嗣は、奈良時代後期において、政治家としても文化人としても傑出した存在でした。その生涯は、激動の時代の中で、知識と教養、そして人間としての品格が、いかに重要であるかを物語っています。彼の遺した功績は、日本の歴史と文化に深く刻まれ、今日においても高く評価されています。

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