越中一向一揆

越中一向一揆は、文明11年（1479年）頃から天正4年（1576年）にかけて、現在の富山県にあたる越中地域で活動した、浄土真宗本願寺派の門徒衆を中心とする武力蜂起です。瑞泉寺や土山御坊（後の勝興寺）を拠点とした門徒らが主体となり、信仰を基盤としながらも次第に地域の政治・軍事的な力を持つ地方豪族へと変化していきました。

この一揆の源流は、室町時代に本願寺が越中や加賀に進出したことに遡ります。明徳元年（1390年）、本願寺第5世法主・綽如（しゃくにょ）は越中に瑞泉寺（現在の富山県南砺市）を創建し、この地における本願寺の足がかりを築きました。その後、嘉吉2年（1442年）には、綽如の孫娘にあたる勝如尼（しょうにょに）の夫・如乗（にょじょう。第6世法主・巧如の次男）が加賀（現在の石川県）に本泉寺を建立するなど、本願寺の勢力は周辺地域にも広がっていきました。

文明7年（1475年）、加賀国守護・富樫政親（とがし まさちか）による弾圧から逃れた加賀一向一揆の門徒衆が越中へ流入したことが、越中一向一揆が活発化する契機の一つとなります。文明13年（1481年）には、瑞泉寺に逃げ込んだ加賀の門徒衆を危険視した越中の福光城主・石黒光義（いしぐろ みつよし）が瑞泉寺を攻撃しようとしましたが、逆に門徒衆によって討ち取られるという事件が発生しました。これにより、瑞泉寺を中心とする門徒勢力は越中砺波郡において支配力を強め、実質的な地域権力としての性格を帯びるようになります。

長享2年（1488年）には、加賀一向一揆が加賀守護の富樫政親を滅ぼし、加賀国を門徒衆が支配するという前代未聞の事態に至ります。この加賀本泉寺を統治したのが、第8世法主・蓮如（れんにょ）の息子たちでした。越中においても、蓮如の弟である蓮誓（れんせい）が土山御坊を勝如尼から譲り受け、越中の門徒指導にあたります。土山御坊は後に焼失し、蓮誓の子・実玄（じつげん）によって安養寺御坊として再建され、これが後の勝興寺（しょうこうじ）となります。勝興寺は越中一向一揆の中心的な拠点の一つとして発展しました。

周辺の戦国大名との抗争も激化します。永正3年（1506年）の般若野の戦いでは、越後守護代・長尾為景（ながお ためかげ）の父である長尾能景（ながお よしかげ）が、畠山氏の求めに応じて越中へ出兵しますが、越中一向一揆とこれに味方した神保慶宗（じんぼう よしむね）の連合軍に敗れ討ち死にしました。この出来事は、長尾為景と神保慶宗・一向一揆との長期にわたる対立の始まりとなりました。

また、本願寺内部の対立も影響しました。享禄4年（1531年）、加賀の一向一揆内で本願寺との方針を巡る「大小一揆」と呼ばれる内乱が起こると、越中の勝興寺は大一揆側（本願寺に近い立場）に与しました。この内乱の結果、加賀は本願寺の直接統治下に入りますが、越中においては勝興寺と瑞泉寺が引き続き強い支配力を維持しました。

その後も越中一向一揆は強大な勢力を保ち続け、能登守護の畠山氏や越後守護代の長尾氏、越中守護代の遊佐氏など、周辺の権力者と敵対関係にありました。永禄年間から元亀年間、そして天正年間にかけては、甲斐国の武田信玄（たけだ しんげん）と連携し、越後の大名・上杉謙信（うえすぎ けんしん）と越中や加賀の支配を巡って激しい攻防を繰り広げました。

元亀3年（1572年）9月初旬の尻垂坂の戦い（しりたれざかのたたかい）では、加賀・越中一向一揆の連合軍が上杉謙信に大敗を喫し、越中一向一揆は軍事的に大きな打撃を受け、壊滅的な状況に陥りました。この敗北後、一揆勢力は上杉謙信との和睦交渉を進め、次第に活動を収束させていきました。

最終的に天正4年（1576年）、上杉謙信が増山城（ますやまじょう）や森寺城（もりてらじょう）といった越中の主要な拠点を次々と攻め落とし、越中全域を制圧したことで、およそ1世紀近くに及ぶ越中一向一揆の歴史は幕を閉じました。

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