趙倶

趙倶（ちょう ぐ）：前秦に仕えた羌族の酋長

趙倶は、五胡十六国時代の前秦に仕えた人物で、南安郡出身の羌族の酋長でした。彼の生涯は、動乱の時代を背景に、一族の長としての責任と、臣下としての忠義の間で葛藤する姿を浮き彫りにしています。

苻洪への帰順と重用

趙倶が歴史に登場するのは、彼が羌族を率いて氐族の酋長である苻洪に帰順した時からです。苻洪は当時、勢力を拡大しており、趙倶の帰順は彼の勢力拡大に大きく貢献しました。時期は不明ですが、この帰順が趙倶の人生における最初の転換点となりました。

350年1月、苻洪が自ら大都督・大将軍・大単于・三秦王を称すると、趙倶はその配下として従事中郎に任じられました。これは、趙倶が苻洪から厚い信頼を受けていた証と言えるでしょう。しかし、同年3月に苻洪が急逝し、子の苻健が後を継ぐことになります。

苻健への忠義と洛陽刺史への任官

苻健の時代になっても、趙倶の地位は揺るぎませんでした。同年8月には、光禄大夫・河内郡太守に任じられ、温県を守備する重要な役割を担いました。さらに354年5月には、洛陽刺史に任じられ、宜陽の鎮守を任されました。これは、前秦の勢力版図において、洛陽が重要な拠点と見なされていたことを示しています。趙倶は、その地を任されるほどの信頼を得ていたのです。

苻生の暴政と趙倶の死

しかし、355年6月に苻健が亡くなり、子の苻生が後を継ぐと、状況は一変します。苻生は暴君として知られ、梁皇后・毛貴・梁楞・梁安らを些細な理由で処刑するなど、その政治は混乱を極めました。趙倶の従弟である右僕射趙韶・中護軍趙誨は苻生より寵愛を受けていたので、趙倶もまた尚書令に任じられましたが、病を理由に固辞しました。

趙倶は、苻生の暴政を深く憂慮し、趙韶らに「汝らは先祖代々を顧みず、滅門の事（族誅）を為さんとしているのだぞ！毛・梁（梁皇后・毛貴・梁楞・梁安）には一体何の罪があって処刑されたというのか。我に何の功績があって彼らに代わる事が出来ようか。汝らも同じ目に遭う事になり、我も死ぬであろう！」と諫めました。この言葉は、趙倶の正義感と、一族の未来を憂う気持ちが込められたものでした。しかし、彼の諫言は聞き入れられることはなく、趙倶は憂いのあまり亡くなってしまいます。

趙倶の死は、前秦の政治が混迷を深めていく中で、一人の忠臣が時代の波に翻弄された悲劇として語り継がれています。彼の生涯は、五胡十六国という激動の時代を生き抜いた人々の苦悩と葛藤を象徴していると言えるでしょう。

参考文献

『晋書』巻112
『資治通鑑』巻98 - 巻100
* 『十六国春秋』巻42

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