踏歌

踏歌（とうか/あらればしり）とは

踏歌（とうか/あらればしり）とは、多数の人が足で地面を踏みならし、列を作り行進して歌い躍る、古代の群集舞踏です。蹈歌、阿良礼走り、霰走りとも表記されます。

概要

踏歌は、隋・唐の民間行事が起源とされています。正月上元の夜の観燈会で行われ、長安の安福門がその舞台でした。日本には渡来人によって伝えられ、古来の歌垣と融合しながら流行しました。『釈日本紀』によれば、歌の終わりに「万年（よろずよ）阿良礼（あられ）」という囃子詞が唱えられ、その踊りの所作から「あらればしり」とも呼ばれました。これは、「万年に生命あられよ」という意味であり、「はしり」は「踊躍」を表します。

『日本書紀』巻第三十には、持統天皇7年（693年）正月に、天皇が京師の高齢者や困窮者に布を施し、法鏡に水田を与えた際、漢人たちが踏歌を奏したという記述があります。当初は漢人や唐人が中心でしたが、次第に日本化が進みました。天平2年（730年）には、聖武天皇が大安殿で宴を催し、夕暮れには皇后宮へ移動する際、百官が天皇に付き従い、踏歌をしながら向かったとされています。天平14年にも同様の宴が開かれ、五節田舞の後に少年・少女が「踏歌」を披露するなど、日本文化との融合が見られました。天平宝字3年（759年）には、渤海大使をもてなすために朝堂で饗応が行われ、内教坊の女性が踏歌を舞うなど、内教坊が中心となって掌り、百官や蕃客が加わる形式が確立されていきました。

踏歌は男女混合で夜間に行われることが多く、その濫行を禁じるための措置がとられたこともありました。しかし、宮廷に取り入れられてからは朝儀にも加えられ、8世紀には天皇臨席のもと、正月16日に踏歌節会が催されるようになりました。延暦14年、桓武天皇は侍臣との宴で踏歌を奏で、遷都したばかりの平安京を称える詩を詠んでいます。

踏歌には、群臣が行うものの他に、内教坊の舞妓が紫宸殿の南庭で万歳楽や地久楽を歌いながら練り歩く「女踏歌」と呼ばれる形式もありました。平安時代中期以降には、男踏歌の日も設けられ、清涼殿の前で天皇に祝詞を述べ、歌曲を奏でる行事が、女踏歌と並行して行われるのが通例となりました。

『内裏式』・『貞観儀式』によれば、節会では踏歌の前に吉野国栖の歌笛、大歌と立歌があり、蕃客のある時は雅楽寮の奏楽と客徒の国楽が行われました。『西宮記』・『北山抄』には、吉野国栖の風俗と雅楽寮の奏楽があったことが記されています。

踏歌節会は大同2年（807年）に一度停止されましたが、すぐに女踏歌のみが再開されました。室町時代後期に一時廃絶しましたが、江戸時代に復興し、明治時代初年まで続けられました。男踏歌は永観元年（983年）を最後に廃絶しましたが、熱田神宮や住吉大社の踏歌神事にその遺風が残されています。

『類聚国史』・『河海抄』などによると、歌詞には漢詩や催馬楽の「竹河」「此殿」「我家」など、あるいは朗詠の歌詞が用いられました。

宮中以外では、熱田神宮や住吉大社のほか、民間や興福寺、賀茂神社末社大田社などでも行われ、楽器演奏を取り入れるなど、独自の演出が施されました。

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