大日本帝国陸軍の歴史

建軍期

明治維新と陸軍創設の動き

約260年続いた江戸幕府が倒れ、1868年の戊辰戦争を経て明治新政府が樹立されました。新政府は、西欧列強に対抗できる近代的な軍備を整えるため、軍制改革を急務としました。当初は長州藩や薩摩藩などの藩兵を主体としていましたが、統一的な軍隊を編成する必要に迫られました。1868年には軍務を担当する機関として海陸軍科が新設され、その後、軍防事務局、軍務官、兵部省へと改編されました。兵部卿には小松宮彰仁親王、兵部大輔には大村益次郎が任命され、陸海軍の創設、兵学寮の建設、軍事施設の整備、兵制改革に着手しました。大村益次郎の基本目標は以下の5点でした。

海・陸軍省を建設すること
海・陸兵学寮を建築すること
陸軍屯所（兵営）を建築すること
銃砲火薬製造所を作ること
軍医病院を設立すること

これらの目標を基に、非効率な官僚組織と旧態依然とした藩兵の再編が進められました。

御親兵の創設と鎮台の設置

戊辰戦争で活躍した板垣退助は、御親兵の創設を提唱し、フランス式訓練を導入しました。また、国民皆兵の思想に基づき、四民平等の国防を主張しました。版籍奉還後も各藩の勢力が残る中、新政府は天皇直属の軍隊を持つ必要性を感じ、1871年には徴兵規則が制定されました。同年には薩摩藩、長州藩、土佐藩の献兵からなる御親兵が組織され、東山道と西海道に鎮台が置かれました。これらの常備兵力を背景に、廃藩置県が断行され、各藩の士族兵は解散され、志願者からなる壮兵が鎮台に配属されました。これにより、近代日本陸軍の基礎が築かれました。1872年には兵部省が陸軍省と海軍省に分離され、陸海軍の中央機関が分立し、御親兵は近衛兵と改称されました。また、陸軍が海軍より上位とされました。

軍事教育機関の整備

急速な兵制改革と兵力拡大に伴い、軍幹部の養成が急務となり、各種軍学校が整備されました。京都に兵学校、横浜に語学所、大阪に兵学寮が置かれました。これらの学校は統合され、青年学舎、幼年学舎、教導隊が組織されました。1873年には陸軍教導団が、1874年には陸軍士官学校が設立され、軍事教育の体系化が進みました。1875年には陸軍幼年学校と陸軍戸山学校が設置されました。

諸暴動と西南戦争

士族反乱と鎮圧

明治維新後、新政府に対する士族や農民の不満が高まり、各地で暴動が頻発しました。これらの多くは藩兵や徴兵部隊によって鎮圧されました。1870年の山口藩での騒動や、その後の二卿事件では、政府が派遣した部隊によって鎮圧されました。1873年以降の血税一揆も、徴兵部隊が出動して鎮圧に当たりました。1874年以降は、佐賀の乱、神風連の乱、萩の乱など、内乱の様相を呈する事件が相次ぎました。また、1874年には台湾出兵が行われ、日本陸軍初の国外派遣となりました。

西南戦争

1877年、明治六年政変（征韓論政変）を機に下野した西郷隆盛を中心とした士族による西南戦争が勃発しました。新政府は有栖川宮熾仁親王を征討大総督に任命し、鎮圧に当たりました。政府軍は旅団制を初めて導入し、各地から部隊を派遣しました。戦況が悪化すると、警視庁の警察官も兵士として動員されました。7ヶ月に及ぶ激戦の末、政府軍が勝利しましたが、この戦いは日本陸軍に多くの教訓と課題を突き付けました。すなわち、戦闘訓練の未熟、将兵の精神教育の不徹底、指揮官の能力不足、徴兵組織の不備、動員体制の欠陥などが明らかになりました。

初期の予算配分

軍事費の優先配分

明治初期の政府は、軍事費を優先的に割り当てていました。1871年には陸軍に100万両、海軍に50万両の定費が定められ、陸軍には内乱鎮圧費としてさらに25万両が配分されました。官禄月給も陸軍定額予算で賄われるようになり、宮中御用金も軍備増強に充てられました。しかし、1880年には物価高騰により陸軍費が圧迫されました。当時の日本経済は、近代軍備を維持するための経済基盤が未成熟でした。

対外軍備拡張期

西南戦争後の再編制

西南戦争の教訓と自由民権運動への対応から、陸軍の即応性確立と天皇親卒体制への改善が図られました。1878年にはドイツ陸軍の兵制を参考に、参謀本部と監軍本部が設置され、軍令機構が天皇直隷となりました。軍令と軍政の所掌機関は二元組織となりました。また、竹橋事件を契機に、軍人訓戒が配布され、軍人道徳の確立が図られました。1879年には東京招魂社が靖国神社となり、戦死者の名誉が確立されました。1881年には憲兵が陸軍兵科の一つとなり、1882年には天皇が軍人勅諭を下賜しました。

軍事教育の充実

軍人の処遇と賞罰制度が整備されるとともに、各種軍学校の充実が図られました。1877年に陸軍士官学校と陸軍幼年学校が合併、1882年には参謀養成のための陸軍大学校が設立されました。1887年には士官候補制度が設けられ、1888年には陸軍士官学校に入学しました。その後、陸軍砲兵射的学校、陸軍軍医学校、陸軍獣医学校、陸軍経理学校、陸軍乗馬学校、陸軍砲工学校などが整備されました。

フランス式からドイツ式への移行

普仏戦争でのドイツ勝利を受け、陸軍はドイツ陸軍の制度や戦術を学ぶことになりました。1885年にはドイツ陸軍参謀メッケルが招聘され、陸軍の改革に大きな影響を与えました。陸軍大学校での教育内容や陸軍の諸政策がドイツ陸軍式に順次転換され、歩兵操典もドイツのものが採用されました。また、単発式小銃から連発式小銃への移行が進められました。

兵器の進歩

1880年には村田経芳少佐が発明した村田銃が採用され、大阪砲兵工廠では75mm野・山砲の生産が開始されました。

鎮台制から師団制へ

1888年、鎮台制は廃止され、新たに師団制が採用されました。1889年には徴兵令の大改正が行われ、戦時に平時の3倍の兵員を動員できるよう計画が進められました。これらの改革により、陸軍は外征軍としての実力を備えることとなりました。

中央機構改編

1885年には内閣制が採用され、陸軍卿は陸軍大臣となりました。参謀本部は陸海軍統合の中央軍令機関となり、1893年には海軍軍令部が独立しました。戦時大本営条例も制定され、戦時には大本営が設けられ、戦争指導体制が整備されました。

日清・日露戦争

第一次世界大戦とシベリア出兵

満洲事変と諸紛争

日中戦争と軍備の膨脹

対英米戦争と第二次世界大戦

終焉と復員事業

脚注

参考文献

森松俊夫『図説陸軍史』（建帛社、1992年改訂版）
生田惇『日本陸軍史』（教育社、1980年）
* 秦郁彦『史録日本再軍備』（文藝春秋、1976年）

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