遣明船

遣明船とは

遣明船（けんみんせん）は、室町時代の応永11年（1404年）から天文16年（1547年）にかけて、日明貿易（勘合貿易）に用いられた船のことです。約1世紀半の間に17次、延べ84隻が派遣されました。日明貿易では、両国が正式な渡航船であることを証明する勘合符が用いられたため、勘合船とも呼ばれます。

歴史

室町幕府3代将軍の足利義満は、応永8年（1401年）に僧の祖阿と博多商人の肥富を遣明使として派遣し、明との交易を申し入れました。明の使者から「永楽の勘合符」を得て、勘合貿易が開始されました。

当初、遣明船は幕府が直接運航していましたが、幕府の衰退とともに、有力寺社（相国寺、三十三間堂など）や守護大名（細川氏、大内氏など）が船主となり、博多や堺の商人、瀬戸内海の住民らが貿易を行いました。

貿易の主導権を巡り、細川氏と大内氏は対立を深め、大永3年（1523年）には寧波で衝突（寧波の乱）が起こり、大内氏が貿易を独占するに至ります。その結果、大内氏の本拠地である山口は、応仁の乱で荒廃した京都を凌ぐほどの繁栄を遂げました。

規模

応永13年（1406年）に帰国した第二次遣明船は6～7隻であったと記録されています。義持が中止するまでの初期6回の遣明船の船団規模も同程度であったと推測されています。21年の中断後、義教が永享4年（1432年）に再開し、天文19年（1550年）までに11次51隻（幕府所有船は7隻、朝廷船1隻、残りは守護大名、寺社所有船）が渡航しました。

応仁2年（1468年）に足利義政の命令で明に渡った禅僧の天与清啓が記録した『戊子入明記』によると、遣明船は700～1700石の大型船で、乗員は約150人（うち水夫50人）でした。『入明諸要例』では、同次遣明船について500～2500石の船が門司、富田、上関などに配備されたと記されています。遣明船には、相当大型の船が用いられたと考えられます。応仁の乱以降は3隻、人員300人に制限されました。

航海術

遣明船は、季節風を利用して航海しました。春または秋の東北の季節風に乗って大陸へ渡り、5月以降、西南西の季節風に乗って日本へ帰国しました。

宋代には羅針盤が発明されており、永正の航海書にも「磁石の針」との記述があることから、遣明船は原始的なコンパスを利用していたと考えられます。航路は堺、兵庫から瀬戸内海を通り、下関、博多を経由して東シナ海を横断し、寧波を目指しました。

宝徳の遣明船の際に書かれた『笑雲入明記』によれば、往路は寧波到着時に日付の年号を明のものに改め、帰路は下関到着時に日本のものに戻していました。遣明船が帰国した際には、下関到着時点で京都へ帰国を知らせる使者が派遣されました。

細川氏と大内氏の対立が深まると、細川氏は大内氏の山口を通る瀬戸内航路を避け、土佐の浦戸、下田、南九州の油津、坊津を経由して寧波へ向かう航路を取りました。

船体構造

遣明船は、遣唐使船とは異なり、専用船を新造したのではなく、民間の廻船（商船）を借り上げ、遠洋航海用に艤装品を充実させ、外交使節や有力商人などの居室用の屋形を増設するなどの大規模な改修を行って使用しました。

船体構造は、木をくり抜いて造られる航（かわら：船底部）の部材（刳船部材）を板材に置き換え、両角に重木（おもき）というL字型の丈夫な部材を用い、数枚の棚板を重ね継ぎし、多数の船梁（ふなばり）で補強した棚板造りの構造でした。棚板構成は、根棚・中棚・上棚の三階造りと中棚のない二階造りが基本で、大型船では中棚を二段にした四階造りのものも存在しました。船首形状は多様で、伊勢船の戸立（とだて）造り、弁才船の水押（みよし）造り、上部を箱造り下部を水押造りとする二形（ふたなり）船の折衷形式がありました。錨は鉄製で、巻き上げるための装備もありました。これらの船体構造は和製大型帆船の先駆けであり、近世の弁才船に受け継がれていきました。

積荷

輸出品

刀剣、槍、鎧、扇、屏風などの工芸品、硫黄、銅などの鉱産物。中でも刀剣は莫大な量を占め、年間3万～4万本輸出された年もありました。

輸入品

当時の日本で貨幣経済の中心をなした宋・元・明などの銅銭（永楽銭など）、絹、羅、紗などの織物、生糸、薬材、書画、工芸品。禅僧の往来によって、宋学、医術、印刷術、陶芸、水墨画などの大陸文化も流入しました。

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