鉄貨

鉄貨（てつか、てっか）とは

鉄貨とは、その名の通り鉄を材料として作られた貨幣のことです。特に東洋においては、鋳造された穴銭が鉄銭（てっせん）とも呼ばれます。歴史的に見ると、様々な地域や時代において、鉄貨は経済や社会において重要な役割を果たしてきました。

古代ギリシャ：スパルタ

古代ギリシャでは、鉄は小額の貨幣として用いられていました。特に鉄鉱山を所有していたスパルタでは、リュクルゴスの時代に鉄棒を唯一の貨幣と定め、貴金属を国家が独占しました。プルタルコスの伝承によると、スパルタの鉄棒は1本の重量が約4.27キログラムもあり、取引における輸送の負担が大きかったとされています。

ドイツ

第一次世界大戦後のドイツでは、物資不足のため1915年から1922年にかけて5ペニヒと10ペニヒの鉄貨が発行されました。また、同じデザインで1916年から1922年にかけて10ペニヒの亜鉛貨も発行されています。第二次世界大戦後、西ドイツでは1948年から1ペニヒの銅張スチール貨、1949年から5ペニヒと10ペニヒの黄銅張スチール貨がユーロ導入まで発行されました。

イタリア

イタリアでは、1954年から50リラのステンレススチール貨、1955年から100リラのステンレススチール貨がユーロ導入まで発行されました。また、バチカン市国からも同じサイズの50リラと100リラのステンレススチール貨が発行され、これらはイタリア国内でも使用できました。

中国

中国では古くから鉄銭が作られてきました。新末の混乱時に四川に成立した公孫述の政権は鉄銭を鋳造しました。南朝梁の時代には銅銭を廃止して鉄銭に切り替えたために偽金が流通し経済が混乱したとされています。唐の時代には「鉄開元」と呼ばれる鉄の開元通宝が私鋳銭として鋳造されました。五代十国時代の地方政権でも鉄銭が鋳造されることがありました。

宋の時代には、主に辺境であった四川や陝西で鉄銭が用いられました。これは銅銭の国内需要の増大に対応するためと、国境地域からの国外への流出を防ぐ目的がありました。四川では地理的な要因や後蜀時代からの鉄銭導入の経緯から、鉄銭が広く流通しました。北宋は四川の銅銭を回収して鉄銭に変更する政策を採り、最終的に四川では鉄銭のみが流通する貨幣システムが南宋末期まで続きました。陝西では当初、鉄銭導入による混乱が生じましたが、最終的には銅銭との相場を確定させ、一定の落ち着きを見せました。

鉄銭の流通は、地域経済に大きな影響を与え、四川では高額取引を避けるために約束手形である交子が発行され、これが後の紙幣のルーツとなりました。現代の中国では、人民元の硬貨にメッキ鋼鉄やステンレスが使用されています。

日本

古代日本では、鉄が貨幣の代わりとして使われていた記述があり、古墳時代からは鉄鋌（てつてい、鉄板）が出土しています。考古学者の白石太一郎は、これらの鉄鋌が『紀』にみられる銀銭であると主張しています。熊谷公男も、鉄鋌が貨幣の役割を果たしていた可能性を指摘しています。5世紀の伽耶では鉄鋌が紐で結わえられていたことが確認されており、貨幣として用いられていたと考えられます。

平安時代以降は銅銭が基本となり、必要に応じて金銀や宋銭のような外国銭が使われました。江戸時代に入ると、銅銭、金貨、銀貨の三貨体制が確立しましたが、銅銭の産出量が減少したため、1739年には寛永通宝の鉄銭が鋳造され、銅銭と同価値とされました。幕末には、仙台通宝や箱館通宝など、地方貨幣にも鉄が用いられる例が見られました。幕末には、鉄銭は「鍋銭」とも呼ばれましたが、銅銭に比べて価値が低くなっていきました。

明治時代になると、鉄銭は貨幣としての資格を失い、1897年の貨幣法で正式に通用が停止されました。現在、日本の硬貨に鉄を含むものはありません。

現代の世界的な傾向

鉄は錆びやすいため、近現代の貨幣では基本的に使用されませんが、メッキを施した鋼鉄やステンレスは、多くの国で小額硬貨の素材として採用されています。

まとめ

鉄貨は、歴史的に様々な地域や時代で貨幣として用いられ、その変遷は各地域の経済や社会状況と密接に関わっています。鉄の特性を活かした貨幣の歴史は、経済史を理解する上で重要な要素の一つと言えるでしょう。


参考文献

郡司勇夫「鉄銭」（『国史大辞典 9』吉川弘文館、1988年）
滝沢武雄「鉄銭」（『日本歴史大事典 2』小学館、2000年）
宮澤知之『宋代中国の国家と経済 財政・市場・貨幣』（創文社、1998年）
湯浅赳男『文明の「血液」 - 貨幣から見た世界史（増補新版）』新評論、1998年

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