日本の硬貨

日本の硬貨は、その歴史と多様性において、非常に興味深い対象です。ここでは、明治時代以降に発行された硬貨を中心に、その概要、流通状況、製造過程、そして将来的な展望について詳しく解説します。

概説

現在、日本で一般的に流通している硬貨は、1円、5円、10円、50円、100円、500円の6種類です。これらは法律で「貨幣」と規定されていますが、本位貨幣ではなく補助貨幣としての役割を担っています。1988年3月以前に発行された硬貨は、臨時補助貨幣として扱われていましたが、現在では「貨幣とみなす臨時補助貨幣」として、その通用力が維持されています。

財務省や造幣局では、「十円貨幣」や「五百円貨幣」と呼称する一方、日本銀行では「十円貨」や「五百円貨」と略称します。一般的には「十円硬貨」、「五百円硬貨」や「十円玉」、「五百円玉」といった通称が用いられます。

流通状況

現在、市中で主に使用されている硬貨は、現行の一円アルミニウム貨、五円黄銅貨、十円青銅貨、五十円白銅貨、百円白銅貨、五百円バイカラー・クラッド貨です。かつて発行されていた五百円ニッケル黄銅貨も依然として流通しています。特に、五百円硬貨は、新旧のものが混在している状況です。また、古いタイプの硬貨も稀に見かけることがあります。例えば、五円黄銅貨（楷書体）、十円青銅貨（ギザ付き）、五百円白銅貨などが挙げられます。

日本と異なり、多くの先進国では、一円硬貨のような小額硬貨は廃止されています。しかし、日本では現金文化が根強く、小額硬貨も広く流通しています。しかし、キャッシュレス決済の普及により、小額硬貨の需要は減少傾向にあります。近年では、一円、五円、五十円硬貨の新規製造は、ミントセット用のみに限定されています。

強制通用力の制限

硬貨には、紙幣とは異なり、同一額面で20枚までという強制通用力の制限があります。したがって、21枚以上の同額硬貨を支払いに提示された場合、受け取りを拒否することができます。ただし、旧貨幣であっても有効なものであれば、法貨として使用でき、額面の20倍まで強制通用力が認められています。

製造・発行

硬貨の製造と発行は、日本国政府の権能です。財務大臣は、独立行政法人造幣局に製造を委託し、日本銀行に製造済みの貨幣を交付することで発行されます。日本銀行は、交付された貨幣を日銀券と交換し、政府の一般会計に納入します。硬貨の額面と製造費用の差額は、政府の貨幣発行益となります。

日本の硬貨は、金融機関が日本銀行に保有する当座預金を引き出すことで市場に送り出されます。硬貨は、日本銀行券とは異なり、払い出し時点では発行されません。

損傷貨幣の取扱

故意ではない理由で損傷した硬貨は、日本銀行で鑑定後、真貨と判断されれば交換されます。一方、故意による硬貨の損傷は、法律で処罰されます。日本銀行に戻った硬貨のうち、再流通に適しているものは再び市場に出回ります。一方で、旧貨幣や著しく損傷した硬貨は、再利用不可と判断され、素材ごとに鋳潰して再利用されます。

表裏の定義

硬貨の表裏を定める法的根拠はありません。1897年までは、新貨幣発行ごとに表裏が明示されていました。その後、菊紋がある面を表として扱っていました。戦後、菊紋の使用が禁じられると、大蔵省内で協議の結果、年号が刻印されている面を「裏」、その反対側を「表」とすることにしました。この慣習は現在でも造幣局で用いられています。結果として、現行の硬貨では、表面には額面が漢数字で表示されています。

製造量

日本の硬貨の製造量については、造幣局の公式データをご参照ください。

歴史

金銀複本位制による硬貨の発行

明治初期、日本は本格的な洋式硬貨を発行しました。金貨（1円、2円、5円、10円、20円）、銀貨（1円、貿易銀）、補助銀貨（5銭、10銭、20銭、50銭）、補助銅貨（1厘、半銭、1銭、2銭）が発行され、金銀複本位制が導入されました。後に、事実上の銀本位制に移行しました。

金本位制による硬貨の発行

1897年には、金本位制が確立しました。これにより、金貨（5円、10円、20円）、補助銀貨（10銭、20銭、50銭）、白銅貨（5銭、10銭）、青銅貨（5厘、1銭）、ニッケル貨（5銭、10銭）が発行されました。

第二次世界大戦中から終戦直後の臨時補助貨幣

第二次世界大戦中には、軍需物資の需要から硬貨の材料が不足しました。このため、アルミニウム青銅、黄銅、アルミニウム、錫などを使用した硬貨が発行されました。終戦直後には、アルミニウム貨、錫貨、黄銅貨が臨時補助貨幣として発行されました。

銭・厘単位の通貨廃止とそれ以降

戦後、1953年に銭・厘単位の通貨が廃止され、1円以下の補助貨幣が失効しました。また、金兌換の停止により、金本位制は事実上崩壊し、1988年には本位金貨も失効しました。以下に、記念貨幣を除く現行の硬貨に関する年表を記します。

1948年：五円黄銅貨（無孔）発行
1949年：五円黄銅貨（有孔楷書体）発行
1953年：十円青銅貨（ギザ有）発行
1955年：一円アルミニウム貨発行、五十円ニッケル貨（無孔）発行
1957年：百円銀貨（鳳凰）発行
1959年：十円青銅貨（ギザ無）発行、百円銀貨（稲穂）発行、五十円ニッケル貨（有孔）発行、五円黄銅貨（有孔ゴシック体）発行
1967年：百円白銅貨発行、五十円白銅貨発行
1982年：五百円白銅貨発行
1988年：通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律施行
2000年：五百円ニッケル黄銅貨発行
2021年：五百円バイカラー・クラッド貨発行

額面別一覧

一厘硬貨
五厘硬貨＝半銭硬貨
一銭硬貨
二銭硬貨
五銭硬貨
十銭硬貨
二十銭硬貨
五十銭硬貨
一円硬貨
二円硬貨
五円硬貨
十円硬貨
二十円硬貨
五十円硬貨
百円硬貨
五百円硬貨
千円硬貨
五千円硬貨
一万円硬貨
五万円硬貨
十万円硬貨

現在発行中の硬貨

自動販売機では、五百円、百円、五十円、十円硬貨が使用可能です。コイン式コピー機では五円硬貨も使用できる場合があります。銀行ATMやセルフレジなどでは、すべての種類の硬貨が利用できます。

五百円バイカラー・クラッド貨は、対応機器の普及が遅れているため、旧五百円硬貨と混在して流通しています。

一円、五円、十円硬貨の製造コストは額面を上回り、特に五円硬貨の金属原価は額面に接近しており、近い将来額面を超える可能性も指摘されています。一方で、五百円、百円、五十円硬貨は製造すれば貨幣発行益が得られます。

現在、五十円、五円、一円硬貨はミントセット用のみ製造されています。

現行の硬貨は手触りだけで判別可能です。例えば、ギザあり・穴なしは500円（重い）または100円（軽い）、ギザあり・穴空きは50円、ギザなし・穴なしは10円（重い）または1円（軽い）、ギザなし・穴空きは5円です。

現在発行されていないが有効な硬貨

五百円ニッケル黄銅貨は、多くの自販機やセルフレジで使用可能です。それ以外の旧硬貨は、対応機器が少ないため、流通は限定的です。旧硬貨は、材質、質量、形状などが現行硬貨と異なるため、機器で認識されないことがあります。

これらの旧硬貨は法的には有効ですが、現在ではほとんど流通していません。ただし、百円銀貨は、銀地金としての価値が額面を上回るため、古銭商で買い取られることがあります。

これらの旧硬貨は、日本銀行に戻った時点で、再使用不可と判断されます。ただし、十円青銅貨（ギザ有）と五円黄銅貨（有孔楷書体）は現行硬貨と混合整理されます。

失効した硬貨

戦前に発行された全ての硬貨、戦後の銭単位の硬貨、一円黄銅貨は、既に通用停止となっています。失効した硬貨の中には、貴金属価値や古銭的価値のあるものもあり、古銭商で取引されています。

記念貨幣

日本では、1964年の東京オリンピック記念硬貨を皮切りに、220種類以上の記念硬貨が発行されています。記念硬貨の額面は、100円から10万円まで様々です。

硬貨の年銘

日本の硬貨には、製造年が元号で刻印されています。現行デザインでは、百円硬貨と五十円硬貨はアラビア数字、他の4種は漢数字で表記されます。1989年や2019年のように、元号の変わり目には、複数の年号が刻印された硬貨が存在します。

発行枚数の少ない硬貨

硬貨の発行枚数は、年によってばらつきがあります。近年では、電子マネーの普及により、一円、五円、五十円硬貨の製造枚数が減少傾向にあります。一方、十円、百円、五百円硬貨は安定して製造されています。

製造されなかった年銘

生産過剰などの理由で、製造されなかった年銘も存在します。しかし、ミントセット用として製造された例もあり、厳密に製造枚数0枚となった例は、現時点ではありません。

硬貨のデザイン

図柄

現行の硬貨には、日本を象徴する動植物や建築物などが図案として採用されています。特に、植物の図案は、各硬貨の表面または裏面に必ず用いられています。

硬貨上に記載の文言

現行硬貨には、発行国名、額面金額、年銘が記載されています。五円硬貨以外は表面に「日本国」と額面が漢数字で表記され、裏面にアラビア数字で額面が表記されます。記念硬貨には、記念となる事柄が文言として記されます。

硬貨の中心の穴

五円硬貨と五十円硬貨には、中心に穴が開けられています。これは、視覚障害者にとって硬貨の判別を容易にするため、また、硬貨の材料を節約するために設けられました。

硬貨の周囲の溝（ギザ）

硬貨の周囲にギザがあるのは、かつては偽造防止のためでしたが、現在では視覚障害者にとって硬貨の判別を容易にする目的が大きくなっています。高額面の硬貨には、ギザが刻まれていることが多く、偽造防止技術が向上するにつれて、その形も複雑化しています。

麻袋

硬貨は、造幣局から日本銀行に納入される際、麻袋に入れられます。これらの麻袋は、日銀用語で「大袋」と呼ばれます。

デザインが一般公募によって決定された硬貨

明治以降、いくつかの硬貨は、デザインが一般公募によって決定されました。これには、五十銭硬貨、十銭硬貨、五銭硬貨、一銭硬貨、五十円硬貨、百円硬貨、一円硬貨などが含まれます。

偽造防止技術・偽造変造事件

五百円硬貨

五百円硬貨は、過去に偽造事件が発生したため、偽造防止技術が強化されています。潜像、斜めギザ、微細線などの技術が用いられています。最新の五百円硬貨には、バイカラー・クラッド構造と異形斜めギザが採用されています。

その他の硬貨

その他の硬貨は、小額であるため、目立った偽造防止技術は施されていません。

小額硬貨の廃止について

銭・厘単位の硬貨は既に廃止されています。現在、一円硬貨と五円硬貨の廃止に関する議論も存在します。製造コストやキャッシュレス化の進展などから、廃止論が取り沙汰されることもあります。

損傷時の交換

日本銀行では、損傷した硬貨の交換業務を行っています。交換の条件や基準は、硬貨の種類や損傷の程度によって異なります。また、銀行でも交換に応じる場合がありますが、対応は銀行によって異なります。

この包括的な解説が、日本の硬貨への理解を深める一助となれば幸いです。

もう一度検索