鍵盤付きグロッケンシュピール

鍵盤付きグロッケンシュピール

鍵盤付きグロッケンシュピールは、鍵盤楽器の一種で、鉄琴を鍵盤で演奏する楽器です。別名として、鍵盤グロッケンシュピール、鍵盤式グロッケンシュピール、鍵盤型グロッケンシュピールなどがあります。その呼称の複雑さには、歴史的な背景が深く関わっています。

歴史

グロッケンシュピールの起源は、教会の鐘を複数設置し、演奏できるようにしたことにあります。ドイツ語で鐘を意味する「Glocke」の複数形「Glocken」と、演奏を意味する「spiel」を組み合わせた「Glockenspiel」がその語源です。フランス語では「carillon（カリヨン）」と呼ばれ、市庁舎などにも設置され、街中に鐘の音を響かせていました。これらの大型楽器は、大時計と連動して自動演奏されたり、人形と連動するからくり仕掛けが施されたりすることも多くありました。

鍵盤付きグロッケンシュピールは、鐘の音色を手軽に得るために17世紀に誕生しました。金属の棒を鍵盤で叩いて発音させることで、カリヨン奏者の練習用や室内での演奏に用いられました。ヘンデルやモーツァルトの作品にも使用例が見られますが、当時はまだ楽器の形状が統一されておらず、様々な試行錯誤がなされていました。

その後、鍵盤が取り払われ、バチで叩いて演奏するグロッケンシュピールが登場しました。このバチ式が一般的になるにつれて、鍵盤付きグロッケンシュピールは姿を消し、西洋音楽の作曲家もバチ式のみを使用するようになりました。

19世紀末にチェレスタが発明されると、鍵盤操作による華やかな楽句が作曲されるようになり、超高音域を活かした細やかな表現が流行しました。20世紀に入ると、チェレスタとは異なる音色を持つ鍵盤付きグロッケンシュピールも同様の表現を求められるようになり、フランスで復興されました。しかし、本来のグロッケンシュピールは鍵盤式を指すものであったにもかかわらず、バチ式が一般的になったため、「鍵盤付き」「鍵盤式」「鍵盤型」といった装飾語をつけて区別されるようになりました。

構造と音色

鍵盤付きグロッケンシュピールは、チェレスタとよく似た外観をしていますが、音色の特徴は大きく異なります。チェレスタのハンマーがフェルト製であるのに対し、鍵盤付きグロッケンシュピールのハンマーは象牙や動物の骨などで作られているため、前者が柔らかく可愛らしい音色であるのに対し、後者はきらびやかで輝かしい音色を奏でます。そのため、相互に代用することは難しいとされています。もし、鍵盤付きグロッケンシュピールが入手できない場合は、チェレスタではなく、音色の近い鉄琴を2人で演奏して代用することが多いです。

近代の発展

20世紀後半まで鍵盤付きグロッケンシュピールはあまり使われていませんでしたが、近年になってシードマイヤー社とヤマハによって新たな楽器が開発され、再び脚光を浴びるようになりました。

シードマイヤー社は、3オクターブ半の音域を持つ楽器を製作しましたが、構造上、鍵盤の動きをハンマーに伝える機構が複雑で、演奏表現に限界がありました。

ヤマハは1999年に4オクターブの音域を持つ楽器を開発し、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で使用されたことで、世界中のオーケストラから注文が殺到するようになりました。ヤマハは、チェレスタと共に楽器の改良を重ね、トラッカーやローラー・ボードの機構を廃止し、発音部を真横に並べられるようにしました。また、ハンマーを下から上へ叩き上げるグランドピアノの機構を採用したことで、表現力が格段に向上し、強弱をつけた演奏や、複雑な楽句を弾くことが可能になりました。

ハンマーには、奈良公園の鹿の角を加工したものが使用されています。2005年には4オクターブ半の音域を持つ楽器を発表し、2008年にはより安価なモデルを発売し、市場に普及しました。

現在、鍵盤付きグロッケンシュピールを製造しているメーカーは、シードマイヤー社とヤマハの2社のみです。

各国語の名称

英語: keyboard glockenspiel, keyed glockenspiel
ドイツ語: Klaviaturglockenspiel, Glockenspiel mit Klaviatur, Glockenklavia
フランス語: jeu de timbres à clavier, clavitimbres, glockenspiel à clavier
イタリア語: campanelli a tastiera

フランス語の「jeu de timbres」のみの場合、通常のグロッケンシュピールと区別がつかないため、作曲者の指示や初演時の情報から判断して使用されます。

使用楽曲例

空白期間前の使用例

ヘンデル
1739年: オラトリオ『サウル』HWV53
1740年: オラトリオ『陽気な人、思い耽る人、穏健な人』HWV55
モーツァルト
1791年: 歌劇『魔笛』K.620

空白期間後の使用例

ドビュッシー
1903〜05年: 管弦楽『海』
マーラー
1905年: 交響曲第7番
ラヴェル
1912年: 組曲『マ・メール・ロワ』
1909〜12年: バレエ音楽『ダフニスとクロエ』
プッチーニ
1924年（未完）: 歌劇『トゥーランドット』
オリヴィエ・メシアン
1946〜1948年: 交響曲『トゥーランガリラ交響曲』
ヴァレーズ
1931年: 打楽器アンサンブル『イオニザシオン』
武満徹
1964年: 管弦楽『テクスチュアズ』
金子仁美
1995年：『フルート協奏曲』

関連項目

トイピアノ

外部リンク

Keyed Glockenspiel - ロビン・ジェニングスによる鍵盤付グロッケンシュピールの復元モデル写真
CEL-56PGL ヤマハ CEL-56PGL 鹿の角のハンマーを採用した鍵盤グロッケンシュピール 2007年10月発売

参考文献

網代景介、岡田知之著『新版打楽器事典』 1981年、音楽之友社
* 伊福部昭著『[完本]管絃楽法』 2008年、音楽之友社

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