鍾離の戦い

鍾離の戦い（しょうりのたたかい）

鍾離の戦いは、中国南北朝時代の506年から507年にかけて、鍾離（現在の安徽省滁州市鳳陽県）で起きた北魏軍と南朝梁軍との間の重要な戦いです。数十万の兵力を擁する北魏軍に対し、梁軍はわずかな兵力で鍾離城を守り抜き、最終的には大勝利を収めました。この戦いは、南北朝時代の軍事戦略や政治情勢を理解する上で重要な意味を持ちます。

戦いの経緯

506年11月、北魏は中山王元英と平東将軍楊大眼らに数十万の兵を与え、鍾離攻略を命じました。鍾離城の北側は淮水によって守られていましたが、北魏軍は邵陽洲の両岸に橋を架け、淮水を渡るための道を確保しようとしました。元英は淮水の南岸に橋頭堡を築き、鍾離城への攻撃を開始、一方、楊大眼は北岸に城を築き、補給路を確保しました。

鍾離城を守備する梁軍はわずか3000人ほどであり、昌義之が将兵を率いて防戦に当たりました。北魏軍は土を積んだ車や兵士に土を背負わせ、城の堀を埋め立て、衝車で城壁を破壊しようと試みました。しかし、昌義之は泥を使って城壁を補修し続け、衝車を無効化しました。北魏軍は昼夜を問わず攻撃を続け、1万人以上の死傷者を出しながらも退却しませんでした。

507年2月、北魏の宣武帝は元英に召還命令を出しましたが、元英は年初からの長雨を理由に苦戦していると弁明し、3月になれば天候が回復し、必ずや落城させることができると進言しました。宣武帝は長期戦による消耗を懸念し、歩兵校尉の范紹を派遣して状況を視察させました。范紹は鍾離城の堅固さを目の当たりにし、元英に撤退を勧告しましたが、元英はこれを聞き入れませんでした。

南朝梁の武帝は豫州刺史の韋叡に鍾離救援を命じました。曹景宗にも節度を与え、韋叡と協力するよう指示しました。韋叡は合肥から最短距離で鍾離へ急行しました。進軍を遅らせるように勧める者もいましたが、韋叡は聞き入れませんでした。およそ10日後、韋叡は邵陽洲に到着しました。

決戦と勝利

曹景宗と韋叡は邵陽洲に進軍し、夜の間に陣地の前に20里にわたる塹壕を掘り、鹿角を設置して洲を要塞化しました。これは、北魏軍が淮水北岸に築いた城からわずか百歩ほどの距離でした。南朝梁の南梁郡太守である馮道根は、夜明けまでに梁軍の陣地を完成させました。北魏の元英はこれを見て驚き、「これは神の業だ」と叫んだと伝えられています。曹景宗は兵士の言文達らに水中を潜行させ、鍾離城内に援軍の到着を知らせました。

北魏の勇将として知られる楊大眼は、1万騎余りを率いて梁軍に襲い掛かりましたが、韋叡は車を並べて防御陣を構築しました。楊大眼が騎兵で包囲しようとすると、韋叡は2000の強弩を同時に放ち、多数の北魏兵を殺傷しました。矢は楊大眼の右腕を貫き、楊大眼は敗走しました。

翌朝、元英が軍を率いて再び戦いを挑むと、韋叡は木輿に乗り、白角の如意を手にして梁軍を指揮しました。一日数回の戦闘の後、元英は退却しました。夜間、元英軍は再び攻撃を仕掛け、矢を雨のように降らせましたが、韋叡は動じることなく指揮を続けました。

曹景宗は勇士1000人余りを集め、楊大眼が淮北に築いた城の南数里の場所に堡塁を築きました。楊大眼が攻撃してくると、曹景宗はこれを迎え撃ちました。堡塁が完成すると、別将の趙草が守備に当たりました。

曹景宗らは、北魏軍が淮水に架けた橋を焼き払うための戦艦を準備しました。韋叡が南の橋を、曹景宗が北の橋を攻撃することになりました。3月、淮水が増水すると、韋叡は馮道根、裴邃、李文釗らを闘艦に乗せて進発させ、北魏側の洲上の軍を殲滅しました。別に草を積んだ小舟を用意し、油を注いで橋を焼き払いました。強風にあおられ、火は勢いを増し、橋は完全に焼け落ちました。北魏軍は大混乱に陥り、元英は橋が落ちたのを見て、単身で逃走しました。楊大眼は自らの陣営を焼き払い、北魏の各拠点も次々と崩壊し、武器や防具を淮水に投じて敗走しました。北魏側の死者は10万を超えると言われています。韋叡が昌義之に勝利を伝えると、昌義之は泣いて喜び、「生き返った、生き返った」と繰り返しつぶやいたと伝えられています。梁軍は澮水まで追撃し、元英は単騎で梁城に入りました。淮水の沿岸百里にわたって北魏兵の遺体が散乱し、捕虜は5万人、鹵獲された軍事物資は山のように積み上げられ、牛馬の数は数えきれないほどでした。

曹景宗と将軍たちは凱旋して武帝に勝利を報告し、韋叡は戦後処理のために現地に留まりました。曹景宗、韋叡、昌義之らはそれぞれ褒賞を受けました。

参考文献

『資治通鑑』(中華書局、1956年) 巻146 梁紀2
『魏書』(中華書局、1974年)
『梁書』(中華書局、1973年)
『北史』(中華書局、1974年)
* 『南史』(中華書局、1975年)

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