非線形の語り口

非線形物語：時間と因果関係を超える表現技法

非線形物語とは、出来事を時系列通りに語らず、因果関係を直接的に示さない、もしくは並行する複数の物語や、夢、劇中劇などを巧みに組み合わせた物語技法です。読者や視聴者の記憶や想像力を刺激し、新たな解釈を生み出すことを目的として用いられます。フラッシュバックやフラッシュフォワード、視点の切り替えなど、様々な手法が駆使されます。単なる混乱ではなく、意図的な構成によって、より深い理解や感動を促す効果があります。

文学における非線形物語

非線形物語の起源は古く、紀元前8世紀のホメロスの叙事[[詩]]『イーリアス』に見られる「イン・メディアス・レス」（物語の途中から始める手法）にその端緒が見られます。その後も、『マハーバーラタ』などの古典作品において、フラッシュバックを用いた物語構成が用いられてきました。『千夜一夜[[物語]]』の一部作品も、イン・メディアス・レスとフラッシュバックを組み合わせた構成となっています。

19世紀後半から20世紀にかけて、モダニズム文学の隆盛とともに、非線形物語は新たな表現技法として開花しました。ジョセフ・コンラッド、ヴァージニア・ウルフ、フォード・マドックス・フォード、マルセル・プルースト、ウィリアム・フォークナーといった巨匠たちが、実験的な物語構造を用いて、人間の意識や記憶の複雑さを表現しました。

主な文学作品例：

ローレンス・スターン『トリストラム・シャンディ』
エミリー・ブロンテ『嵐が丘』
ジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』『フィネガンズ・ウェイク』
ウィリアム・フォークナー『響きと怒り』
ウィリアム・S・バロウズ『裸のランチ』
ジョセフ・ヘラー『キャッチ=22』
カート・ヴォネガット『スローターハウス5』
デイヴィッド・ミッチェル『クラウド・アトラス』
など多数

映画における非線形物語

映画においても、非線形物語は重要な表現手段となっています。フラッシュバックやフラッシュフォワードといった手法は、線形的なストーリーの中に取り入れられることもありますが、作品全体を貫く構成要素として用いられる場合、非線形物語として分類されます。

映画における非線形物語の初期の例としては、オーソン・ウェルズの『市民ケーン』や黒澤明の『羅生門』が挙げられます。サイレント[[映画]]時代から実験的に用いられており、D・W・グリフィスの『イントレランス』やアベル・ガンスの『ナポレオン』などもその例です。シュルレアリスム映画の先駆者であるルイス・ブニュエルとサルバドール・ダリも『アンダルシアの犬』などで非線形的な手法を用いています。

第二次世界大戦後、ジャン＝リュック・ゴダール、アラン・レネといったフランスのヌーヴェルヴァーグの監督たちが、時間や物語の順序を大胆に操作することで、既存の映画表現を革新しました。フェデリコ・フェリーニ、アンドレイ・タルコフスキーといった巨匠たちも、非線形性を特徴とした作品を制作しています。

主な映画作品例：

オーソン・ウェルズ『市民ケーン』
黒澤明『羅生門』
ジャン＝リュック・ゴダール『ウイークエンド』
フェデリコ・フェリーニ『8 1/2|8 1_2』
クエンティン・タランティーノ『パルプ・フィクション』
クリストファー・ノーラン『メメント』
デヴィッド・リンチ『マルホランド・ドライブ』
など多数

テレビドラマとゲームにおける非線形物語

近年では、テレビドラマやゲームにおいても、非線形的な物語構成が盛んに用いられるようになりました。視聴者やプレイヤーの選択によって物語が変化したり、複数の視点から物語が展開されたりする作品が増えています。

主なテレビドラマ例：

LOST
ブレイキング・バッド
など多数

主なゲーム例：

ソニックアドベンチャー
アンチャーテッド 黄金刀と消えた船団
* など多数

まとめ

非線形物語は、古くから様々な表現媒体で用いられてきた手法であり、現代においても進化を続けています。時間や因果関係にとらわれない自由な物語表現は、読者や視聴者に多様な解釈と深い感動を与え、これからも表現方法として発展し続けるでしょう。

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