飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群

飛鳥・藤原の宮都：古代日本の変革を物語る遺産群

飛鳥・藤原の宮都は、奈良県に位置する飛鳥地方の史跡群の総称であり、ユネスコの世界遺産暫定リストに掲載されています。この地域は、日本の古代国家形成における重要な転換期を物語る遺跡や文化財が点在し、その歴史的価値は非常に高いとされています。2026年の世界遺産登録を目指し、様々な取り組みが進められています。

世界遺産登録への道のり

2006年、文化庁が世界遺産候補地を公募したことをきっかけに、奈良県と関係自治体が「飛鳥・藤原－古代日本の宮都と遺跡群」として名乗りを上げました。翌2007年にはユネスコの暫定リストに掲載されましたが、正式な推薦候補となるまでには長い道のりがありました。2020年以降、推薦書素案が何度も提案されましたが、正式推薦には至りませんでした。しかし、2023年7月、政府関係筋が飛鳥・藤原を優先候補として扱うことを明らかにし、2025年の推薦、2026年の登録を目指すこととなりました。

この過程で、彦根城との競合がありましたが、彦根城が事前評価制度を利用することになったため、飛鳥・藤原が先行することになりました。これは、世界遺産登録が単なる遺跡の保存だけでなく、その歴史的・文化的価値を国際的に認めさせるための複雑なプロセスであることを示しています。

遺産に含まれる文化財

飛鳥・藤原の宮都には、明日香村、桜井市、橿原市の1村2市にまたがる22ヶ所の史跡が含まれています。これらの遺跡は、当時の政治、文化、宗教の中心地であったことを物語っています。

明日香村

飛鳥宮跡：古代の宮殿跡。
飛鳥京跡苑池：美しい庭園跡。
飛鳥水落遺跡：古代の灌漑施設。
酒船石遺跡：謎多き石造物。
飛鳥寺跡：日本最古の本格的寺院の一つ。
橘寺境内：五重塔跡など。
川原寺跡：古代寺院の遺構。
檜隈寺跡：古代寺院の遺構。
石舞台古墳：巨大な石室を持つ古墳。
牽牛子塚古墳：古代の豪族の墓。
大官大寺跡：古代寺院の遺構。
天武・持統天皇陵：天皇の陵墓。
中尾山古墳：古代の豪族の墓。
キトラ古墳：極彩色の壁画で有名。
高松塚古墳：美しい壁画を持つ古墳。

桜井市

山田寺跡：古代寺院の遺構。

橿原市

藤原宮跡：日本初の本格的な都城。
藤原京朱雀大路跡：都の中心を通る大通り。
菖蒲池古墳：古代の豪族の墓。
本薬師寺跡：古代寺院の遺構。
* 大和三山：天香具山、畝傍山、耳成山の総称。

登録までの行程と課題

飛鳥・藤原の宮都が世界遺産登録を目指すようになった背景には、考古遺跡分野の世界遺産登録推進という国際的な流れがありました。2004年には明日香村が独自に調査費を計上し、2006年には候補地公募に応募しました。しかし、その道のりは平坦ではありませんでした。新型コロナウイルス感染症の流行や、文化審議会による価値の証明不足、構成資産の妥当性など、様々な課題が立ちはだかりました。特に、土地所有者の同意が得られないことや、大官大寺跡のように目視確認が難しい遺跡の存在は、大きな課題となっています。また、海外における認知度の低さも、登録に向けた大きなハードルとなっています。

しかし、2024年に推薦書素案が提出され、史跡の追加指定も進んでいます。これは、関係者の熱意と努力が実を結びつつあることを示しています。

世界遺産推薦の手続き

世界遺産推薦の手続きは、文化審議会の決定から始まり、文化庁への答申、ユネスコ世界遺産センターへの推薦書提出、そして閣議決定と、多くの段階を経ます。正式な推薦には、文化庁の承認、外務省の合意、そして政府の決裁が必要です。

推薦後には、国際記念物遺跡会議（ICOMOS）による現地調査が行われ、その結果が登録の可否を左右します。登録には、世界遺産委員会の全会一致のコンセンサスが必要であり、委員国の意見も重要な要素となります。

顕著な普遍的価値

飛鳥・藤原の宮都は、「東アジアの文化と技術交流により、古代日本に一大変革を起こした物証」であり、「東アジア諸国のうち国家形成の過程が明確にわかる唯一無二の資産」と位置づけられています。そのメインテーマは「統一国家"日本国"の形成と成立」であり、律令国家の中枢機構の形成過程、国家宗教としての仏教寺院の成立、律令による墓制の変化という3つのサブカテゴリーで構成されています。

真正性（オーセンティシティ）と法的保護根拠

世界遺産登録には真正性も重要な要素です。飛鳥・藤原の宮都では、石造物が主体であり、発掘された石組遺構は出土素材を用いて丁寧に復元されています。また、文化財保護法や古都保存法、明日香村特別措置法など、法的な保護体制も整備されています。

緩衝地帯と課題

世界遺産には、開発の影響を防ぐための緩衝地帯が設定されます。明日香村では、広範囲にわたり埋蔵文化財包蔵地があるため、近鉄吉野線や住宅地なども緩衝地帯に含まれています。

課題としては、日本の国家形成が世界史上でどれだけ重要か、中国や朝鮮半島からの影響が色濃く文化の独自性が弱いといった指摘があります。また、構成資産候補の多くが埋め戻されており、視覚的に確認しにくい点も課題です。

観光対策と持続可能性

世界遺産登録に伴う観光客増加による環境負荷を考慮し、ユネスコは具体的な対策案を求めています。飛鳥では、レンタサイクルによるエコツーリズムが定着していますが、更なる観光コントロールが必要です。また、障害者や高齢者のアクセシビリティも重要な課題です。考古学観光の可能性も探求されており、年間3億円の経済効果が試算されています。

ユネスコは、世界遺産の持続可能な保全を求めており、地域コミュニティの重要性が強調されています。明日香村では、過疎地域の持続的発展に関する特別措置法の適用を受け、気候変動対策にも取り組んでいます。

万葉集の世界観と新たな見せ方

飛鳥・藤原の宮都の新たな見せ方として、万葉集の世界観を取り入れることが提案されています。万葉集に詠まれた自然景観は、現代に至る日本人の自然観の形成に大きな影響を与えています。飛鳥の甘樫丘には万葉植物園路が設けられ、万葉植物が咲き誇る景観を再現しようという試みも進められています。これにより、バーチャル・リアリティではない現実の視覚や嗅覚で往時を体感させることが可能になります。

壬申の乱と地学的見地

壬申の乱勃発から1350年を迎えた2022年には、この乱が藤原京の成立に与えた影響が再評価されました。藤原京では、度量衡の統一や貨幣制度の導入が行われ、天皇中心の国家体制が整備されました。地学的な視点から見ると、飛鳥・藤原が奈良盆地南端に位置するのは、当時の奈良盆地が湖であったためと考えられています。また、藤原京は城郭都市ではなく、和の思想を貴ぶ日本的な思考を具現化した物証としての価値も主張されています。

新しい見せ方と移築の跡地

ユネスコは、世界遺産の価値や意義を広く知ってもらうため、観光資源としての遺産の商品化を容認しています。飛鳥では、飛鳥光の回廊が開催され、幻想的な雰囲気を提供しています。また、日本遺産「日本国創成のとき ～飛鳥を翔た女性たち～」にも認定されています。移築された寺院の跡地は、かつての場所の状態を示す貴重な資料となります。高松塚古墳やキトラ古墳の壁画の修復技術は世界トップクラスであり、文化財修復の国際センターとしての役割も期待されています。

海外の視点とその他の視点

海外の考古学者は、日本の墳丘墓に支石墓の要素を見出し、国際的な知見を広める必要性を指摘しています。藤原京は、中国の都城制を採用しながらも独特の形態をもち、大和三山を神格化する文化も継承しています。飛鳥は、女帝が活躍した時代であり、その視点から飛鳥宮・藤原宮を捉え直すことで、国際的なジェンダー研究の流れに沿うことができます。

その他の広報とガイダンス施設

飛鳥の知名度を高めるために、ご当地ナンバーの交付や短編映画の配信、人気投票などが行われています。世界遺産条約では、ガイダンス施設の設置が求められており、飛鳥・藤原には多くの展示施設が完備されています。



飛鳥・藤原の宮都は、古代日本の歴史と文化を今に伝える貴重な遺産です。世界遺産登録を目指す動きは、これらの遺産の価値を再認識し、後世に継承するための重要な取り組みと言えるでしょう。

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