高千穂鉄道TR-100形気動車

高千穂鉄道TR-100形・200形気動車

高千穂鉄道TR-100形気動車は、1989年（平成元年）に5両が製造され、2005年（平成17年）の営業休止まで使用された高千穂鉄道の気動車です。本項では、同時に製造され、同じく営業休止まで使用された観光用の内装を持つ高千穂鉄道TR-200形気動車についても併せて解説します。

概要

1989年4月、旧国鉄の高千穂線を第三セクターに転換して開業した高千穂鉄道は、開業に合わせて7両の気動車を導入しました。内訳は、一般用のTR-100形が5両、観光用のTR-200形が2両です。これらの車両は、いずれも新潟鐵工所製のNDCと呼ばれるレールバス型気動車で、同時期に製造された松浦鉄道MR-100形、くま川鉄道KT-100形・KT-200形とほぼ同型です。

TR-100形とTR-200形は、車体や走行装置は共通ですが、内装が異なります。エンジンは、新潟鐵工所製のDMF13HSディーゼルエンジンを搭載し、出力は183kW（250PS）に設定されています。全車が正面貫通式で両運転台を備えていますが、トイレは設置されていません。TR-100形はセミクロスシートを採用し、車体中央部には4人掛けのボックスシートが配置されています。一方、TR-200形は観光用として、全席がボックスシートとなっています。各車両には愛称が付けられていました。

2005年9月の台風による災害で高千穂鉄道全線が不通となり、復旧することなく2008年12月までに全線が廃止されました。TR-100形とTR-200形も同時に用途廃止となりましたが、TR-200形1両が阿佐海岸鉄道に譲渡され、TR-100形3両とTR-200形1両は沿線で保存されています。

車体

TR-100形とTR-200形は、新潟鐵工所の軽快気動車NDCの一種で、15.8mの車体を採用しています。これは当時のNDCの標準的な仕様であり、同時期に製造された松浦鉄道MR-100形やくま川鉄道KT-100形・200形とほぼ同型です。車体構造は両形式で共通です。

前面は貫通式で、乗務員室は左側に配置されています。乗務員用の扉は設けられていません。客用扉は片側2か所で、運転室がない側は車端に、運転室がある側は運転室小窓の直後に設置されています。扉の間には、上段固定・下段上昇式の幅1,200mmの窓が7組設けられています。運転台がない側の扉と客用窓の間には、360mm幅の小窓があります。全車にトイレは設置されていません。

外部塗装は白をベースとし、雲海と川をイメージしたピンク、赤、紫の帯が窓下に巻かれています。

TR-100形はセミクロスシートで、車体中央部に4人掛けボックスシートが通路の両側に3組ずつ、計6組配置されています。TR-200形は全席クロスシートで、4人掛けボックスシートが12組、2人掛けシートが2組設けられています。全車がワンマン運転に対応した機器を備えており、TR-200形には、観光客向けにビデオ、テレビ、レーザーディスクによるカラオケ装置が搭載されています。

走行装置

エンジンは、新潟鐵工所製のDMF13HSディーゼルエンジンを1基搭載し、定格出力は183kW（250PS）/1,900rpmです。動力は、新潟コンバーター製のTACN-22-1100液体変速機を介して2軸駆動の台車に伝達されます。台車は、上枕空気ばね、軸ばね式のNP120D/Tが採用されています。制動装置は、機関ブレーキと排気ブレーキを併用したDE1A自動空気ブレーキです。

空調装置

暖房装置は、エンジンの排熱を利用した温風式です。冷房装置は、能力25.6kW（22,000kcal/h）のものが設置されています。

車歴

1989年4月28日、JR九州高千穂線の延岡駅 - 高千穂駅間が第三セクター高千穂鉄道に移管されるのに伴い、TR-100形5両とTR-200形2両が新潟鐵工所で製造されました。路線移管にあたっては、沿線自治体間でバス転換を主張する声と鉄道存続を求める声が対立しましたが、宮崎県の仲介により鉄道存続が決定しました。開業に際しては、運転時間の短縮や列車本数の増加、快速列車の設定など、利便性向上が図られました。1990年代中頃までは輸送人員は横ばいでしたが、その後は減少傾向に転じました。

2005年9月6日に九州地方を襲った台風14号により、橋梁が流出するなどの甚大な被害を受け、列車運行は休止となりました。部分的な復旧も検討されましたが実現せず、2008年12月までに全線が廃止されました。運行休止時には、TR-102が延岡駅に、その他の6両が高千穂駅に留置されていましたが、TR-201は阿佐海岸鉄道に無償譲渡されてASA-300形ASA-301となり、2020年11月まで運用されました。TR-104とTR-105は日之影町に譲渡され、日之影温泉駅跡で保存されています。TR-101とTR-202は高千穂駅跡で保存されており、不定期ながら運転体験も行われています。

運転体験は事前に予約すれば随時可能で、メニューは高千穂あまてらす鉄道に問い合わせることで確認できます。TR-102は延岡駅で、TR-103は譲渡の話があったものの実現せず、高千穂駅でそれぞれ2008年に解体されました。

出典

参考文献
寺田 祐一『私鉄気動車30年』JTBパブリッシング、2006年。ISBN 4-533-06532-5。

雑誌記事
『鉄道ピクトリアル』通巻496号「新車年鑑1988年版」（1988年5月・電気車研究会）
若桜鉄道（株）運輸課長 長廻勲「若桜鉄道WT2500形」 pp. 174
『鉄道ピクトリアル』通巻534号「新車年鑑1990年版」（1990年10月・電気車研究会）
藤井 信夫・大幡 哲海・岸上 明彦「各社別車両情勢」 pp. 180-197
高千穂鉄道（株）鉄道部長 久保田 敏之「高千穂鉄道TR-100・200形」 pp. 241
「民鉄車両諸元表」 pp. 284-287
「1990年度車両動向」 pp. 287-302
『鉄道ピクトリアル』通巻658号「<特集> レールバス」（1998年9月・電気車研究会）
「第三セクター・私鉄向け 軽快気動車の発達 新潟鉄工所 NDC」 pp. 32-35
高嶋修一「第三セクター・私鉄向け軽快気動車の系譜」 pp. 42-55
『レイルマガジン』通巻230号付録（2002年11月・ネコ・パブリッシング）
岡田誠一「民鉄・第三セクター鉄道 現有気動車ガイドブック2002」 pp. 1-32
『レイルマガジン』通巻250号（2004年7月・ネコ・パブリッシング）
寺田 祐一「私鉄・三セク気動車 141形式・585輌の今!」 pp. 4-50
『鉄道ピクトリアル』通巻795号「鉄道車両年鑑2007年版」（2007年10月・電気車研究会）
岸上 明彦「2006年度民鉄車両動向」 pp. 116-141
『鉄道ファン』通巻577号（2009年5月・交友社）
斎藤 幹雄「高千穂鉄道 車両搬出作業実施」 pp. 149-151
『鉄道ピクトリアル』通巻825号「鉄道車両年鑑2009年版」（2009年10月・電気車研究会）
岸上 明彦「2008年度民鉄車両動向」 pp. 108-134
『鉄道ピクトリアル』通巻840号「鉄道車両年鑑2010年版」（2010年10月・電気車研究会）
岸上 明彦「2009年度民鉄車両動向」 pp. 116-142

Web資料
“台車近影 NP120D　NP120T ／ 鹿島鉄道KR-500形”. 鉄道ホビダス (2008年5月21日). 2017年11月19日閲覧。

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