高橋定

高橋定：海軍軍人から海上自衛隊海将へ至る波瀾万丈の生涯

高橋定（たかはし さだむ）氏は、1912年（大正元年）愛媛県松山市に生まれました。6人兄弟の3男として育ち、旧制松山中学校では剣道初段、サッカー部主将として四国大会優勝を経験するなど、恵まれた環境で少年時代を過ごしました。将来は医者を目指していましたが、兄の勧めで海軍兵学校（61期）へと進路を変えます。

1930年（昭和5年）4月、海軍兵学校に入校。野中五郎氏、板倉光馬氏、大野博氏、吉川猛夫氏といった錚々たる同期生と共に学びを深めました。1933年（昭和8年）11月に卒業後は、様々な艦船に勤務した後、1935年（昭和10年）10月、飛行学生として霞ヶ浦海軍航空隊に入隊。翌年には大村海軍航空隊で艦上爆撃機の教育を受け、1937年（昭和12年）4月には佐伯海軍航空隊に配属となりました。

盧溝橋事件勃発後の1937年（昭和12年）7月、高橋氏は第十二航空隊に所属し、九四式艦上爆撃機で中国大陸へと赴きます。上海での戦闘、南京空襲など、激戦を幾度も経験しました。その後も、華南方面での戦闘に従事し、1938年（昭和13年）には航空母艦「龍驤」分隊長、1939年（昭和14年）には第十四航空隊艦爆隊長として従軍。南寧への進出や貴陽攻撃などに参加しました。

太平洋戦争開戦後の1942年（昭和17年）2月には第三十一航空隊副長兼飛行長となり、フィリピンやセブ島での戦闘に参加。同年6月には航空母艦「瑞鶴」の飛行隊長に就任。第二次ソロモン海戦や南太平洋海戦といった主要な海戦にも参加しました。南太平洋海戦では敵機動部隊上空で被弾、燃料タンクに損傷を受け、火傷を負いながらも、洋上漂流中にタンカーに救助されるという体験をしました。

1943年（昭和18年）には「い号作戦」に参加し、ラバウルに進出。ツラギ沖船団攻撃やオロ湾攻撃などに参加した後、トラック島に帰還しました。同年8月からは横須賀海軍航空隊飛行隊長となり、B29爆撃機への対策として反跳爆撃の研究・講習に尽力しました。1945年（昭和20年）7月には、第五航空艦隊隷下第三十二航空戦隊の航空参謀として九州・四国の秘密特攻基地の建設に従事していましたが、終戦を迎えます。

終戦後、高橋氏は故郷へ戻りますが、進駐軍兵への傷害事件を起こし、1953年（昭和28年）まで逃亡生活を送るなど、波乱に満ちた日々を過ごしました。しかし、1953年（昭和28年）10月、保安庁警備隊（後の海上自衛隊）に入隊。以後、航空畑を歩み、1970年（昭和45年）1月1日に海将として退官しました。退官後は全日空顧問を務めました。

高橋氏の生涯は、軍人としての使命感と、戦争の残酷さを深く知った経験、そして戦後の新たな道を歩もうとする強い意志が織りなす、ドラマチックな物語です。その経験から生まれた『飛翔雲』や「飛行隊長の回想　艦爆隊を率いて」といった著作は、貴重な歴史的証言として、現代に語り継がれています。 氏の生涯は、戦争と平和、そして個人の生き様を深く考える上で、重要な示唆を与えてくれるでしょう。

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