高津柿本神社

高津柿本神社

高津柿本神社は、島根県益田市高津町に位置する、歌聖・柿本人麻呂を祀る神社です。地元では「人麿神社」「人麿さん」とも呼ばれ、古くから地域の人々に親しまれてきました。この神社は、柿本人麻呂を祀る全国各地の神社の本社を主張しており、その歴史と文化的な価値は非常に高いと言えます。

祭神

祭神は柿本人麿命（正一位柿本大明神）です。人麻呂は当地で没したと伝えられ、その霊を神として祀っています。歌道の神として知られるほか、学問や農業の神、石見産紙の祖神としても崇敬を集め、殖産繁栄の神としても信仰されています。また、「人麿（ひとまる）」を「火止まる」や「人産まる」と解釈し、火防や安産の神としても崇められています。

歴史

神社の創建は、人麻呂が晩年に石見国司として赴任し、現在の益田川河口付近で没したことに始まります。辞世の歌を詠んだとされる鴨島に、神亀年間に人丸社が創建されたのが始まりとされています。また、天平年間には人丸寺も建立されたと伝えられています。人麻呂の没年には諸説ありますが、この地が人麻呂と深い縁があったことは確かでしょう。

万寿3年（1026年）には、地震と津波により社殿が海中に没しましたが、神像が高津の松崎に流れ着いたため、その地に社殿と人丸寺が再建されました。後鳥羽天皇の時代には、石見国司平隆和によって社殿の改築と水田の寄進が行われています。江戸時代には、石見銀山奉行の大久保長安による造営や金の灯籠の献納がありました。また、津和野藩主亀井茲親によって、高津城のあった現在地に移築されました。霊元上皇は、古今伝授の際に祈祷を命じ、宸筆の御製歌を奉納するなど、和歌の神として崇敬しました。享保8年（1723年）には、柿本人麻呂の一千年祭を記念して「柿本大明神」の神号と正一位の神階が宣下されました。同時に、別当寺の人丸寺は真福寺と改称されました。以後、歴代天皇や公卿が歌道上達を祈願し、短冊に和歌を認めて奉納する風習が広まりました。津和野藩も社領を寄進し、石見産紙の祖神として藩内第一の神社と崇めました。

慶応元年（1865年）に真福寺が廃止され、社号を「柿本神社」に改めました。近代社格制度では県社に列せられています。

祭事・年中行事

例祭（4月15日）: かつては旧暦3月15日に行われていましたが、現在では太陽暦に基づいて4月15日に行われています。人麻呂の命日である旧暦3月18日に近い日取りで行われる春季例祭です。
八朔祭（9月1日）: 旧暦8月1日が人麻呂の生誕日とされ、それに因む祭事です。現在では太陽暦に基づき9月1日に行われ、家内安全、豊作、殖産繁栄を願う多くの参拝者で賑わいます。流鏑馬も奉納されます。
節分祭（2月節分）: 節分の日に、災厄を祓い、福を招く祭事が行われます。
秋季例祭（9月15日～1週間）: 9月に行われる秋の例祭で、感謝と祈りを捧げます。

社殿

本殿は、正徳2年（1712年）に造替された春日造変態の社殿です。方3間、朱塗りの単層入母屋造妻入で、正面に唐破風の向拝が設けられています。屋根は檜皮葺で、内部は津和野藩主亀井家の家紋が施された板扉で内外陣を区切り、内陣には等身大の人麿神像が安置されています。昭和57年（1982年）6月18日には、島根県の有形文化財（建造物）に指定されています。また、本殿前の拝殿は平成10年（1998年）2月に新築されたもので、銅板葺です。

境内には宝物殿もあり、歴代天皇が人麻呂影供を催して歌道の上達を祈念した際に奉納された短冊和歌（重要美術品）が展示されています。

文化財

重要美術品（国認定）
御法楽御短冊6綴: 霊元上皇をはじめ、6代にわたる天皇の御製歌が認められた短冊です。享保8年から天保14年（1843年）にかけて奉納され、昭和18年（1943年）10月1日に重要美術品に認定されました。
島根県指定有形文化財
本殿

高津柿本神社は、歴史と文化、自然が調和した場所であり、歌道や学問の神として、多くの人々に心の拠り所とされています。

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