鼻 (オペラ)

ショスタコーヴィチのオペラ『鼻』

ドミートリイ・ショスタコーヴィチのオペラ『鼻』（露：Нос, Op.15）は、ニコライ・ゴーゴリの同名の短編小説を原作とする3幕10場からなる作品です。ショスタコーヴィチの最初のオペラであり、彼の初期の作風を代表する作品としても知られています。初演後、その前衛的な作風から批判を受けましたが、後に再評価が進み、現在では重要なレパートリー作品となっています。

作曲の経緯

ショスタコーヴィチは音楽院時代にプーシキンの『ジプシー』を原作としたオペラを作曲しましたが、後に破棄しています。ゴーゴリを偏愛していたショスタコーヴィチは、『賭博師』のオペラ化も試みましたが、未完に終わっています。20代前半に作曲された『鼻』は、交響曲第1番の成功後、前衛的な作風に挑戦していた時期の作品であり、その集大成とも言えます。1927年から1928年にかけて作曲され、1930年1月にレニングラードで初演されました。

初演と批判

初演は好評でしたが、その前衛的な作風は保守的な層から批判を浴びました。ソ連の音楽界で影響力を持っていた「ロシア・プロレタリア音楽家協会」（RAPM）の圧力により、上演は困難になりました。また、1936年にはショスタコーヴィチの他の作品も形式主義として批判され、『鼻』も顧みられなくなりました。

再評価

スターリンの死後、「雪解け」とともに再評価が進みました。1957年にドイツで蘇演されたのをきっかけに、1973年にはショスタコーヴィチ自身が東ドイツでの上演に立ち会いました。1974年にはソ連国内でも復活上演が実現し、ショスタコーヴィチも熱心にリハーサルに参加しました。現在ではモスクワ・シアター・オペラの重要な演目の一つとなっています。

作曲過程の詳細

着想は交響曲第2番の作曲時期まで遡ります。当時ショスタコーヴィチはメイエルホリドと知り合い、彼が設立した劇場で働いていました。この頃にオペラ作曲を考えていたことが手紙に記されています。交響曲第2番を優先したためオペラに専念できませんでしたが、序曲や一部のナンバーはこの時期に作曲されたようです。また、メイエルホリド演出の『検察官』に影響を受け、作曲に至ったとされています。初演を待てず、1928年に組曲版（Op.15a）を初演しています。台本はショスタコーヴィチを含む5人の共同制作ですが、ゴーゴリの原作を尊重し、大部分はショスタコーヴィチ自身の手によるものです。

台本と登場人物

台本は、ゴーゴリの同名小説を基に、ショスタコーヴィチ、G.イオーニン、A.プライス、J.ザミャーチンの5人によって書かれました。その他に、66人の人物（16人の歌手が58役を担当）、7人の語り手、パントマイム、混声合唱が登場します。

楽器編成

木管楽器：フルート（ピッコロ、アルトフルート持ち替え）、オーボエ（コーラングレ持ち替え）、クラリネット（バスクラリネット持ち替え）、ファゴット（コントラファゴット持ち替え）
金管楽器：ホルン、トランペット（コルネット持ち替え）、バストロンボーン
打楽器：大太鼓、小太鼓、タンバリン、シンバル（3組）、タムタム、トライアングル、カスタネット、トムトム、シロフォン、グロッケンシュピール
弦楽器：弦五部（第1ヴァイオリン12-16、第2ヴァイオリン12-16、ヴィオラ8-12、チェロ8-12、コントラバス8-12）
その他：フレクサトーン、ラチェット、ピアノ、ハープ2、ドムラ、バラライカ

あらすじ

舞台は1870年頃のペテルブルクです。

第1幕：床屋のイワンの住居
第2幕：新聞社の一室
第3幕：ペテルブルクの郊外、停車場

関連項目

ムツェンスク郡のマクベス夫人
ニコライ・ゴーゴリ

参考資料

『作曲家名曲解説ライブラリー ショスタコーヴィチ』（音楽之友社）
* 千葉潤『作曲家　人と作品　ショスタコーヴィチ』（音楽之友社）2005年　ISBN 4-276-22193-5

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