1940年の航空

1940年は、世界が第二次世界大戦の渦中にあり、航空機がその戦況を左右する重要な要素となっていった年です。各国では新型機の開発と配備が急ピッチで進められ、また、航空戦自体も激しさを増していきました。

日本では、後世に「ゼロ戦」として広く知られることになる三菱重工業製の零式艦上戦闘機が、この年、日本海軍に正式に採用されました。これは日本の航空戦力の中核を担うことになります。

主要各国でも、後の歴史に名を刻むことになる機体の初飛行が相次ぎました。ソビエト連邦では、戦闘機Yak-1やLaGG-1、そしてMiG-1といった、今後のソ連空軍を支える重要な機体の原型が初飛行を果たしました。これらの機体は後の改良を経て、ドイツ空軍の強力な敵手となっていきます。

イギリスでは、戦闘爆撃機ホーカー タイフーンの原型が空へ舞い上がりました。また、高速爆撃機として開発が進められていたデ・ハヴィランド DH.98 モスキートの原型機も年の終わりに初飛行に成功しています。モスキートはその卓越した性能から「木製の驚異」とも称され、多用途に活躍することになります。

アメリカ合衆国でも、数々の傑作機が誕生しました。艦上戦闘機F4U コルセア、双発爆撃機ノースアメリカン B-25 ミッチェル、戦闘機P-51 マスタングの原型機NA-73、双発爆撃機マーチン B-26 マローダー、そして艦上急降下爆撃機カーチス SB2C ヘルダイバーと、陸海軍の主力となる機体の原型がこの年に続々と初飛行しています。これらの機体は、後のアメリカの反攻を支える重要な役割を担うことになります。

イタリアでは、戦闘機の試作機カプロニ・ヴィッツォーラ F.4や、先進的なカプロニ・カンピニ N.1が初飛行しました。N.1は世界初のモータージェット推進による実験機として注目されました。

ドイツでは、滑空機研究から発展したアレクサンダー・リピッシュ設計のDFS 194が飛行しました。これは後にロケット戦闘機メッサーシュミット Me163へと繋がる重要な実験機です。

戦局に直結する大きな動きもありました。7月には、ドイツ空軍によるドーバー海峡上の船団攻撃が開始され、後のバトル・オブ・ブリテンへと発展していきます。これは史上初の本格的な航空戦であり、イギリスの防空能力が試されることとなりました。また、11月にはイギリス海軍の空母から発艦した航空機がイタリア海軍の拠点であるタラント軍港を夜間に奇襲し、イタリア海軍の戦艦に大きな損害を与えました。これは航空機による艦隊攻撃の有効性を示す歴史的な出来事でした。

民間航空の分野でも動きが見られました。4月にはニュージーランドの国営航空会社であるタスマン・エンパイア・エアウェイズ・リミテッド（TEAL）が設立され、太平洋地域における航空路の発展に寄与しました。スペインのイベリア航空は国有化されています。また、アメリカのトランスワールド航空は、ニューヨークとロサンゼルス間にボーイング307を就航させました。これは現代では一般的となっている与圧キャビンを備えた初の商業旅客機であり、高高度快適飛行の可能性を示しました。

一方で、航空事故も発生しています。2月には、大日本航空の旅客機「阿蘇号」（ダグラス DC-2）がエンジントラブルにより魚釣島へ不時着しましたが、乗員乗客は全員無事救助されるという出来事もありました。フィンランド湾上では、アエロ・オイ（後のフィンランド航空）のJu 52/3mgeがソビエト機に撃墜され犠牲者が出ており、戦争の民間航空への影響も表れています。

技術開発では、ヘリコプターの実用化に向けた重要な一歩もありました。イゴール・シコルスキーが設計したヘリコプターシコルスキー VS-300が初飛行を行い、単一主回転翼式のヘリコプターの実現可能性を示しました。

1940年は、第二次世界大戦の拡大とともに航空技術が目覚ましい発展を遂げ、それが戦局に直接的な影響を与え始めた、航空史において極めて動的な一年であったと言えます。同時に、民間航空の進歩や将来の航空機に繋がる革新的な技術の萌芽も見られた年でした。

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