1955年の航空

1955年は、航空史において様々な出来事が錯綜した一年でした。悲劇的な事故が相次ぎ、多くの犠牲者が出た一方で、技術の進歩は目覚ましく、戦後の国際的な航空体制も大きく変化しました。この年は、現代の航空交通網が形成されていく上で、重要な転換点の一つと言えるでしょう。

相次ぐ航空事故

この年、世界各地で複数の航空事故が発生し、安全性の課題が浮き彫りとなりました。特に旅客機に関する事故は多くの人命を奪いました。

2月19日、TWA航空のマーチン4-0-4型機がニューメキシコ州の山地に衝突し、16名が犠牲となりました。
3月20日には、アメリカン航空のコンベア240型機がミズーリ州スプリングフィールド近郊で墜落し、搭乗していた35名のうち13名が死亡しました。
そのわずか2日後の3月22日、アメリカ海軍のダグラス R6D-1（DC-6と同型機）がホノルル付近で墜落し、66名が死亡するという痛ましい事故が発生しました。
4月11日には、エア・インディアのロッキード L-749A コンステレーション「カシミール・プリンセス」号が、周恩来首相の暗殺を企てた工作員によって爆破され、16名が犠牲となる事件が発生しました（カシミールプリンセス号爆破事件）。
7月27日、イスラエルのエル・アル航空のロッキードコンステレーションがブルガリア空軍の戦闘機によって撃墜され、58名が死亡しました（エル・アル航空機撃墜事件）。これは冷戦下の国際情勢を反映した悲劇的な出来事でした。
8月10日には、西ドイツ上空でアメリカ空軍のフェアチャイルド C-119G輸送機2機が空中衝突し、合計66名が死亡しました。
10月6日には、ユナイテッド航空のダグラス DC-4がワイオミング州の山地に墜落し、66名が死亡しました（ユナイテッド航空409便墜落事故）。
さらに11月1日、ユナイテッド航空のダグラス DC-6が爆破される事件が発生しました。これは保険金詐欺を目的とした爆破テロであり、58名が犠牲となりました（ユナイテッド航空629便爆破事件）。

これらの事故は、その後の航空安全基準の見直しや、国際的な協力体制の必要性を再認識させる契機となりました。

技術の進歩と記録達成

多くの事故があった一方で、航空技術は着実に進化し、新たな記録が樹立されました。

2月26日、ジョージ F. スミスがマッハ1.05で飛行するノースアメリカン F-100スーパーセイバーから脱出に成功し、超音速からの射出脱出で生還した史上初のパイロットとなりました。これは緊急脱出装置の有効性を示す重要な事例でした。
6月28日には、Jean Moireがベル47ヘリコプターを使用し、標高4,807mのモンブラン山頂への着陸を成功させました。ヘリコプターの多様な能力を示す出来事でした。
8月29日、イングリッシュ・エレクトリックキャンベラが20,079mという高高度飛行記録を樹立し、航空機の性能向上を示しました。
9月3日、J. S. フェアフィルドが時速193kmで走行中のグロスターミーティアから射出座席で脱出し、地上からの射出脱出の成功例となりました。これにより、地上での緊急時におけるパイロット救助の可能性が示されました。
10月16日、ボーイング707の試作機であるボーイング367-80が、わずか3時間58分でアメリカ大陸横断飛行を達成しました。これは、後のジェット旅客機時代の到来を予感させる画期的な飛行でした。

戦後体制下の組織再編と拡大

第二次世界大戦の終結から10年を経て、各国の航空関連組織は再編や強化が進められました。

3月10日には、パキスタン国際航空が設立され、新たな国際航空会社が誕生しました。
4月1日、第二次世界大戦後禁止されていたドイツの飛行が解除され、ルフトハンザ航空が再建されて運航を再開しました。これは戦後ドイツの復興を象徴する出来事の一つです。
5月には、オーストリア空軍が再建されました。
7月26日、キャピタル航空がイギリス製のヴィッカースバイカウントを導入し、アメリカの航空会社として初めてイギリス製旅客機を運航しました。これは国際的な航空機市場の広がりを示すものでした。
12月1日、日本の航空自衛隊にアメリカから供与されたF-86戦闘機を装備した部隊（後の第1航空団）が浜松に編成されました。日本の戦後防衛体制における航空戦力の基盤が構築され始めました。
12月21日、ルフトハンザドイツ航空のチャーター部門として、コンドル航空が設立されました。

その他の特筆すべき出来事

5月20日、東京国際空港（羽田空港）の新しいターミナルビルが開館し、日本の空の玄関口としての機能が強化されました。
10月10日には、アメリカの軽空母サイパンから発進したヘリコプターが、メキシコのタンピコで発生した水害の被災者救助に活躍しました。ヘリコプターが災害救助において重要な役割を果たす可能性を示しました。
11月22日、ソビエト連邦がTu-16爆撃機を使用し、ソ連初の水素爆弾であるRDS-37の投下実験を行いました。これは冷戦における核兵器開発競争の一端を示すものでした。
12月4日、航空機メーカーであるマーティン社の創業者、グレン・マーティンが逝去しました。航空黎明期から発展に貢献した人物の死去は、時代の移り変わりを感じさせました。
12月15日、イギリス空軍のデハビランドモスキートが最後の作戦飛行を行いました。第二次世界大戦で活躍した機体が第一線から退きました。

航空関連の受賞者

1955年には、航空分野で顕著な功績を挙げた人々が表彰されました。ハーモン・トロフィーはジョン・カニンガム、ジャクリーヌ・オリオール、ジョン・A・ミルズに贈られ、FAIゴールド・エア・メダルはモーリス・ユレルが、イギリス飛行クラブ金賞はジョン・カニンガムが受賞しました。

1955年は、悲劇と革新、そして再編が交錯した、航空史において極めて多面的な一年でした。この年に起きた出来事の数々は、その後の航空安全技術、国際航空ネットワーク、そして軍用航空の発展に大きな影響を与えました。

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