1980年の日本競馬

1980年（昭和55年）の日本競馬は、多くの変革や出来事があった一年として記憶されます。この年の馬齢は旧表記で統一して記述します。

年明け早々の1月には、騎手に対する制裁の方法が点数制へと改められました。また、2月には日本中央競馬会（JRA）の組織規定が見直され、新たに監査室が設置されるなど、内部体制の強化が進められました。馬に関する技術的な面では、4月に日本軽種馬登録協会がサラブレッドの毛色判定基準を変更。従来の粕毛を認めない一方、新たに白毛が公式な毛色として追加されることになりました。

春には、厩務員組合の労働争議が発生し、競馬開催に影響が出ました。4月19日に予定されていた中央競馬の東京・新潟開催の一部が中止となり、代替開催が後日行われる異例の事態となりました。

一方で、施設の拡充も進みました。5月には福島競馬場にダートコースが新設され、続いて6月には函館競馬場にもダートコースが完成しました。これにより、両競馬場でのレースの選択肢が増えました。また、5月には兵庫県立西脇馬事公苑が開設され、地方競馬の拠点整備も行われました。電話投票の利便性向上も図られ、5月には神戸市に三宮電話投票所が、9月には横浜市に横浜二俣川電話投票所が開設されています。

国際交流も活発に行われました。4月にはイギリスで行われた国際馬術競技会で、JRA所属の中俣修が日本人として初めて優勝する快挙を達成しました。9月には韓国ソウルで第15回アジア競馬会議が開催され、日本からも関係者が出席しました。また、第2回国際血統書委員会や第14回パリ国際競馬会議にも日本代表が参加しています。競馬サークル内部では、9月に厩舎関係者と職員による欧米研修が実施され、海外の競馬事情を学ぶ機会が設けられました。外国人騎手の招聘も行われ、道営札幌競馬にはニュージーランドから女性騎手が、大井競馬場など地方競馬にはアメリカから女性騎手が来日し騎乗するなど、国際化の波が押し寄せていました。ただし、馬の健康面では、5月に北海道日高地区で馬伝染性子宮炎が流行し、種付けが一時中止されるという出来事もありました。

個別の出来事としては、8月にJRAから日光東照宮へ神馬が奉納されました。競馬開催関連では、11月1日に予定されていた京都大障害が、規定の出走頭数を満たさずに中止となる珍しい事態も発生しました。明るい話題としては、11月3日には中央競馬の藤本冨良調教師が勲章を受章。また、この年には関西で初めて「愛馬の日」が阪神競馬場で開催されたり、中央競馬では初の試みとして「女性のための競馬教室」が開かれるなど、競馬ファン向けの新しい取り組みも行われました。レースにおいては、11月15日の京都競馬場で、単勝・複勝・連複の全てが万馬券となる波乱のレースがありました。

主要な競走成績では、クラシックレースは皐月賞をハワイアンイメージ、日本ダービーをオペックホースが制しました。牝馬三冠は、桜花賞とエリザベス女王杯をハギノトップレディが、オークスをケイキロクが優勝しました。天皇賞は、春をニチドウタロー、秋をプリテイキャストが獲得。宝塚記念はテルテンリュウ、菊花賞はノースガスト、そして有馬記念はホウヨウボーイが勝利しました。障害レースでは、中山大障害の春はオキノサコン、秋はカチウマタローがそれぞれ栄冠を掴みました。

年末には、その年の活躍馬を表彰する優駿賞が発表され、ホウヨウボーイが年度代表馬に選ばれました。各部門では、最優秀3歳牡馬にサニーシプレー、同牝馬にテンモン、最優秀4歳牡馬にオペックホース、同牝馬にハギノトップレディ、最優秀5歳以上牡馬にホウヨウボーイ、同牝馬にプリテイキャスト、最優秀障害馬にオキノサコン、最優秀アラブにホクトチハルがそれぞれ選出されました。

この年は、後に競馬史に名を刻む多くの名馬が誕生した年でもあります。ミスターシービー、カツラギエース、ニホンピロウイナー、ダイナカールなど、1983年のクラシック戦線を彩る馬たちの多くがこの年に生まれました。また、後に活躍する多くの騎手や調教師がこの年に誕生し、一方で競馬界に貢献した人々との別れもありました。

1980年は、制度や施設の近代化が進む一方で、労働問題や馬の疫病といった課題にも直面し、国際交流も盛んに行われた、日本競馬界にとって多角的な動きが見られた一年と言えるでしょう。

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