1984年のル・マン24時間レース

1984年ル・マン24時間レース：ワークス不在の激闘と悲劇

1984年のル・マン24時間レースは、52回目の大会として、フランスのサルト・サーキットにて開催されました。この年は、ポルシェワークスの欠場という異例の事態に見舞われ、レース全体の様相を大きく変えることとなります。

ポルシェの欠場理由については、いくつかの説が囁かれていました。圧倒的な強さゆえの自主的撤退、IMSA GTPマシンの参戦によるレギュレーションへの反発、そしてグループCの燃費規制変更に関する抗議など、様々な憶測が飛び交いました。

ワークス参加はランチアのみとなり、寂しい面もありましたが、それでも54台ものマシンが参戦登録を行い、レースは活況を呈しました。グループCはグループC1とグループC2に、グループCジュニアはグループC2に改名され、カテゴリー分けも見直されました。

グループC1：ランチアとポルシェ956の激突

グループC1では、ランチアが汚名返上を期して3台のLC2/84を持ち込みました。改良された空力と出力向上を果たしたフェラーリ製V型8気筒エンジンを装備したLC2/84は、プライベーターチームが多数参戦したポルシェ956との直接対決に挑みました。

16台ものポルシェ956が参戦した中、カスタマースペックの956Bは、ボッシュ製モトロニックMP1.2燃料噴射システムを搭載していました。しかし、そのセッティングの難しさから、ヨースト・レーシングを始めとする多くのチームは独自にセッティングを施し、燃費改善やエンジンの出力向上に成功していました。

その他、アストンマーティンやWMセカテバプジョーといった強豪チームも参戦。童夢はノンターボのフォード・コスワース・DFL型エンジンを搭載したRC-83で参戦し、コーナリング性能を重視した戦略で挑みました。

グループC2：マツダ727Cの挑戦

グループC2では、マツダがダウンフォースを重視したマツダ727Cで参戦。最小クラスの排気量とエンジンパワーながら、信頼性で上位入賞を目指しました。マツダエンジンの耐久性と信頼性から、BFグッドリッチチームもマツダエンジンを搭載したローラT616で参戦、片山義美もドライバーとして参加していました。

IMSA GTP：ジャガーXJR-5の参戦

グループCに似たレギュレーションを持つIMSA GTPマシンも参戦が認められ、ジャガーがグループ44からXJR-5を投入。SOHC5,945cc V型12気筒エンジンを搭載したジャガーXJR-5は、イギリスのレースファンやポルシェの圧倒的優位に不満を抱いていた観客の期待を集めました。マーチ・エンジニアリングもビュイックエンジン搭載のマーチ84Gで参戦しました。

予選と決勝：ドラマと悲劇の連続

予選ではランチアLC2/84が最前列を独占。ヨースト・レーシングのポルシェ956が3位につける結果となりました。童夢RC-83は予選中にクラッシュし、決勝への出場は叶いませんでした。

決勝は激しいトップ争いが展開されましたが、レースはアクシデントの連続でした。ジャガーXJR-5はトランスミッショントラブルでリタイア。WMセカテバプジョーもコースアウト。ランチアLC2/84はトランスミッションとターボのトラブルに見舞われ、優勝争いから脱落しました。

ポルシェ956勢は、総合優勝を狙いペースを上げ気味に進めたため、コースアウトやトラブルが相次ぎ、16台中完走は8台に留まりました。ヨースト・レーシングの7号車は、序盤トラブルに見舞われながらも着実に順位を上げてトップに立ちました。マツダ727Cは接触事故による修理を余儀なくされましたが、完走を果たしました。

アストンマーティンは序盤トップグループを走行していましたが、タイヤトラブルや炎上事故、そしてコースマーシャルの死亡事故という痛ましい事故に見舞われました。この事故によりレースは一時中断されました。

結果：ヨースト・レーシングの優勝

最終的に、アンリ・ペスカロロとクラウス・ルドヴィック組がドライブしたヨースト・レーシングのポルシェ956 7号車が優勝を飾りました。トップ10のうち、8位にランチアLC2/84、10位にローラT616がランクインしたものの、それ以外は全てポルシェ956が占めました。マツダ727Cは、差動装置のトラブルを乗り越え、完走を果たしました。

1984年ル・マン24時間レースは、ポルシェ不在という異例な状況の中、激しい戦いと悲劇が織りなされた、記憶に残るレースとなりました。

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