1992年の航空

1992年は、世界の航空業界において、産業構造の変化、技術の進歩、軍事的な動向、そしていくつかの残念な事故など、多岐にわたる重要な出来事が展開された一年でした。冷戦終結後の国際情勢を反映した動きが多く見られました。

産業と企業の再編

欧州では、航空機メーカーの事業再編が進みました。フランスのアエロスパシアル社とドイツのDASA社は、それぞれのヘリコプター部門を統合し、新たな企業としてユーロコプターが設立されました。これは、欧州におけるヘリコプター分野での競争力強化を目指すものでした。

アメリカでは、老舗航空会社であるトランス・ワールド航空（TWA）が財政的な困難に直面し、破産保護の申請を行いましたが、運航自体は継続されました。

旧ソビエト連邦の解体に伴い、新しい国家が独自の航空路を確立する動きが見られました。この年、アゼルバイジャン航空が国のナショナル・フラッグ・キャリアとして誕生しました。また、ロシア国内では、現在S7航空として知られるようになる航空会社が運行を開始しています。

オーストラリアでは、国内線大手であったオーストラリアン航空が、国際線を主力とするカンタス航空に吸収合併され、国内航空市場の再編が行われました。

国際的な航空政策では、アメリカ合衆国運輸省が「オープンスカイ協定」の積極的な締結方針を打ち出し、年末にはオランダとの間で最初の協定が結ばれました。これは、国家間の航空輸送サービスに関する規制を緩和し、市場原理に基づく自由な競争を促進する大きな流れの一部でした。

技術と機体開発

航空技術の分野では、パイロット訓練の効率化と安全向上に貢献する決定がありました。アメリカ連邦航空局（FAA）は、フライトシミュレータを使用したヘリコプターパイロットの技量評価を正式に許可しました。

新型機の開発も進みました。スウェーデンのSAAB社は、高速ターボプロップ機「SAAB 2000」の最初の試験飛行を実施しました。短距離路線での運用を想定した地域航空機として注目を集めました。

長年にわたり世界中で活躍してきたロッキードの輸送機C-130ハーキュリーズは、生産機数が2000機に達するという節目を迎えました。これは、本機がいかに信頼され、多用途に利用されているかを示す偉業でした。

軍用航空と安全保障

軍用機の世界では、時代の変化を象徴する出来事がありました。冷戦時代の傑作戦闘機として知られるアメリカ空軍のF-4ファントムIIが、第一線部隊から完全に姿を消しました。

冷戦終結後の国際関係の変化を反映して、アメリカ空軍のB-52戦略爆撃機がロシアの空軍基地を親善訪問しました。これは、歴史上初めてアメリカ軍用機が旧ソビエト連邦の領土に公式に飛来した事例であり、両国の関係改善に向けた象徴的な出来事でした。

しかし、世界各地では依然として紛争が発生しており、航空機が関与する事件も発生しました。ナゴルノ・カラバフ紛争では、アゼルバイジャンの輸送ヘリコプターMi-8が攻撃を受けて墜落し、多数の命が失われました。ペルーでは、麻薬対策作戦を支援していたアメリカ空軍のC-130が、ペルー空軍機から攻撃を受けるという事態も発生しました。イラク南部の上空では、飛行禁止空域を監視していたアメリカ空軍のF-16戦闘機が、イラク空軍のMiG-25を迎撃し、撃墜しています。

また、高性能偵察機として知られるアメリカ空軍のロッキードU-2が日本海で失われたとの報告もありました。

特筆すべき飛行と人物

この年、日本人として二人目の、そして単独でスペースシャトルに搭乗した初の日本人宇宙飛行士として、毛利衛氏がスペースシャトル「エンデバー」に乗り込み、宇宙へと旅立ちました。

気球による長距離飛行の分野でも成果がありました。アメリカの冒険家リチャード・アブルッツォ氏とトロイ・ブラッドリー氏は、北米大陸からアフリカ大陸までの5,000kmを超える距離を気球で横断する飛行を成功させ、後にデラボー賞を受賞しました。

イギリス空軍では、ニッキー・スミス大尉が女性として初めてヘリコプターパイロットの資格を取得するなど、航空分野における多様性の進展も見られました。

主な航空事故

残念ながら、複数の重大な航空事故も発生しました。

前述のアゼルバイジャンにおけるMi-8ヘリコプターの撃墜事件に加え、アメリカのジョン・F・ケネディ国際空港では、トランス・ワールド航空のロッキード L-1011型機が離陸時にトラブルを起こし、火災が発生しましたが、死者は免れました。

最も犠牲者が多かった事故の一つとして、オランダのアムステルダム近郊にエル・アル航空のボーイング747-200型貨物機が墜落し、多数の犠牲者が出た事故（エル・アル航空1862便墜落事故）が挙げられます。

まとめ

1992年は、商業航空の競争環境の変化、軍用機の世代交代、国際関係の新たな展開、そして技術の進歩といった、航空界における様々な側面が交錯した一年でした。これらの出来事は、その後の航空産業や空の安全保障環境に長期的な影響を与えることとなりました。

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