3つのコラール (フランク)
セザール・フランク作曲の「3つのコラール（Trois chorals）」は、1890年に完成した彼の生涯最後の作品として知られるオルガン曲です。
フランクは1890年の初夏に不慮の事故に見舞われ、その後遺症に苦しみました。体調が優れない中で作曲が進められ、同年11月18日に呼吸器系の感染症が原因で死去する直前に完成されました。フランクは1860年以来、パリのサント・クロチルド聖堂でオルガニストを務めており、同聖堂に設置されたアリスティド・カヴァイエ＝コル製作の最新式オルガンから多大なインスピレーションを得ていました。このオルガンは手鍵盤が3段あり、特に強弱や音色の変化に富んだレシ鍵盤（récit）の機能は、彼の作品に大きく影響を与えています。この「3つのコラール」の第3曲でも、レシ鍵盤が効果的に活用されています。フランクは作曲を完成させるにあたり、オルガンの音色を決めるために再び聖堂のオルガンに向かいたいと強く望んでいましたが、病状によりその願いは叶いませんでした。
作品は「コラール」と銘打たれていますが、実際にフランク独自のコラール旋律に基づいているのは第3曲のみであり、他の2曲は変奏曲として構成されています。作曲家の矢代秋雄は、プロテスタントではなくカトリックであったフランクにとってのコラールは、伝統的な形式というよりは「神への賛美と信仰を告白するための内なる歌」であったと解釈しています。また、フランクの弟子であるヴァンサン・ダンディは、師の言葉を引用し、「全曲を通じて、コラールは形成されていく」と説明しています。
本作は1892年にデュラン社から出版されました。出版譜では、第1曲がウジェーヌ・ジグー、第2曲がオーギュスト・デュラン、第3曲がオーギュスタ・オルメスに献呈されたと記されています。しかし、草稿段階では献呈先が明確ではなく、ダンディによると、フランク自身は第1曲をアレクサンドル・ギルマン、第2曲をテオドール・デュボア、第3曲をジグーに献呈する意向であったようです。この献呈に関する混乱については、出版元であるデュランによる意図的な変更、あるいは誤り、またはフランクの息子が関与したとする説など、複数の見解があります。なお、デュラン社からは、ブランシュ・セルヴァやハロルド・バウアーによるピアノ編曲版も出版されています。
ヴァンサン・ダンディは、この作品を「これに比肩し得るものは、偉大なバッハの傑作以外にない」と絶賛しています。矢代秋雄は、ダンディの言葉をそのまま受け止めることは難しいとしつつも、フランクの創作活動の掉尾を飾るこの「3つのコラール」が、彼の最高傑作の一つであり、オルガン音楽史における金字塔の一つとして高く評価されるべきであると述べています。
全曲を通しての演奏時間は約42分から43分です。内訳は、第1曲が約15分、第2曲が約14分、第3曲が約13分とされています。
各曲は独立しながらも深い精神性で結ばれています。
第1曲：モデラート ホ長調 3/4拍子
主題群と二つの変奏、そしてコーダからなる自由な変奏曲形式です。曲は、深みのある冒頭主題から始まり、複数のフレーズが連結されて構成されます。主題提示後、カンタービレの指示による第1変奏に入り、16分音符主体の音型変奏が展開されます。続いて、4/4拍子、マエストーソとなり、フォルテッシモで堂々とした間奏が現れます。この間奏は数小節ごとにテンポが変化し、即興的な性格を帯びます。その後、3/4拍子、ホ短調で第2変奏が開始されます。ここでは頻繁な転調を伴いながら、対位法的な技法を用いて主題が組み合わされるなど、複雑な音楽が展開され、クライマックスへと向かいます。コーダではホ長調に戻り、壮大な頂点を築いて終結します。
第2曲：マエストーソ ロ短調 3/4拍子
オスティナート主題に基づいてパッサカリア風に開始されます。厳粛な雰囲気で第3変奏まで進んだ後、オスティナート主題から派生した新しい主題を用いて自由に展開されていきます。ピアニッシモの和音が長く保持されて一段落すると、突然ラルガメンテ・コン・ファンタジア、4/4拍子となり、ロ音の強い響きを伴うレチタティーヴォ風の激しい間奏が挿入されます。その後、3/4拍子、ト短調に転じ、オスティナート主題の前半部を用いたフガートが始まります。展開が進むにつれて、それまで現れた様々な音楽要素が複雑に絡み合いながら再現され、クレッシェンドを経てオスティナート主題が高らかに回帰します。その後、音楽は急速に穏やかになり、ロ長調の響きの中で静かに閉じられます。
* 第3曲：クアジ・アレグロ イ短調 4/4拍子
全3曲の中で最もよく知られている曲であり、トッカータ、コラール、アダージョという三つの要素から構成されます。曲はトッカータ風の楽想で開始され、これと交互にコラール主題が二つの部分に分かれて提示されます。続いてイ長調に変わり、アダージョ部分に入ります。アダージョ部の主題は主に二つのフレーズからなり、様々な音色や音域で繰り返されたり、コラール主題と組み合わされたりしながら、落ち着いた流れで進行します。最後にコラール主題が半分の音価で再現された後、長い休符で一呼吸置かれます。その後、これまでの倍の速度でトッカータ主題が再び現れ、16分音符の急速な動きが絶えず続く中で、コラール主題が顔を覗かせます。クレッシェンドによって音楽は頂点に達し、16分音符の音型を伴奏としながら、イ短調でコラール主題が荘厳に姿を現します。これにより壮大なクライマックスが形成され、最終的にはイ長調の主和音をもって全曲の幕が閉じられます。
作曲の背景
フランクは1890年の初夏に不慮の事故に見舞われ、その後遺症に苦しみました。体調が優れない中で作曲が進められ、同年11月18日に呼吸器系の感染症が原因で死去する直前に完成されました。フランクは1860年以来、パリのサント・クロチルド聖堂でオルガニストを務めており、同聖堂に設置されたアリスティド・カヴァイエ＝コル製作の最新式オルガンから多大なインスピレーションを得ていました。このオルガンは手鍵盤が3段あり、特に強弱や音色の変化に富んだレシ鍵盤（récit）の機能は、彼の作品に大きく影響を与えています。この「3つのコラール」の第3曲でも、レシ鍵盤が効果的に活用されています。フランクは作曲を完成させるにあたり、オルガンの音色を決めるために再び聖堂のオルガンに向かいたいと強く望んでいましたが、病状によりその願いは叶いませんでした。
作品の形式と解釈
作品は「コラール」と銘打たれていますが、実際にフランク独自のコラール旋律に基づいているのは第3曲のみであり、他の2曲は変奏曲として構成されています。作曲家の矢代秋雄は、プロテスタントではなくカトリックであったフランクにとってのコラールは、伝統的な形式というよりは「神への賛美と信仰を告白するための内なる歌」であったと解釈しています。また、フランクの弟子であるヴァンサン・ダンディは、師の言葉を引用し、「全曲を通じて、コラールは形成されていく」と説明しています。
出版と献呈
本作は1892年にデュラン社から出版されました。出版譜では、第1曲がウジェーヌ・ジグー、第2曲がオーギュスト・デュラン、第3曲がオーギュスタ・オルメスに献呈されたと記されています。しかし、草稿段階では献呈先が明確ではなく、ダンディによると、フランク自身は第1曲をアレクサンドル・ギルマン、第2曲をテオドール・デュボア、第3曲をジグーに献呈する意向であったようです。この献呈に関する混乱については、出版元であるデュランによる意図的な変更、あるいは誤り、またはフランクの息子が関与したとする説など、複数の見解があります。なお、デュラン社からは、ブランシュ・セルヴァやハロルド・バウアーによるピアノ編曲版も出版されています。
評価
ヴァンサン・ダンディは、この作品を「これに比肩し得るものは、偉大なバッハの傑作以外にない」と絶賛しています。矢代秋雄は、ダンディの言葉をそのまま受け止めることは難しいとしつつも、フランクの創作活動の掉尾を飾るこの「3つのコラール」が、彼の最高傑作の一つであり、オルガン音楽史における金字塔の一つとして高く評価されるべきであると述べています。
演奏時間
全曲を通しての演奏時間は約42分から43分です。内訳は、第1曲が約15分、第2曲が約14分、第3曲が約13分とされています。
楽曲構成
各曲は独立しながらも深い精神性で結ばれています。
第1曲：モデラート ホ長調 3/4拍子
主題群と二つの変奏、そしてコーダからなる自由な変奏曲形式です。曲は、深みのある冒頭主題から始まり、複数のフレーズが連結されて構成されます。主題提示後、カンタービレの指示による第1変奏に入り、16分音符主体の音型変奏が展開されます。続いて、4/4拍子、マエストーソとなり、フォルテッシモで堂々とした間奏が現れます。この間奏は数小節ごとにテンポが変化し、即興的な性格を帯びます。その後、3/4拍子、ホ短調で第2変奏が開始されます。ここでは頻繁な転調を伴いながら、対位法的な技法を用いて主題が組み合わされるなど、複雑な音楽が展開され、クライマックスへと向かいます。コーダではホ長調に戻り、壮大な頂点を築いて終結します。
第2曲：マエストーソ ロ短調 3/4拍子
オスティナート主題に基づいてパッサカリア風に開始されます。厳粛な雰囲気で第3変奏まで進んだ後、オスティナート主題から派生した新しい主題を用いて自由に展開されていきます。ピアニッシモの和音が長く保持されて一段落すると、突然ラルガメンテ・コン・ファンタジア、4/4拍子となり、ロ音の強い響きを伴うレチタティーヴォ風の激しい間奏が挿入されます。その後、3/4拍子、ト短調に転じ、オスティナート主題の前半部を用いたフガートが始まります。展開が進むにつれて、それまで現れた様々な音楽要素が複雑に絡み合いながら再現され、クレッシェンドを経てオスティナート主題が高らかに回帰します。その後、音楽は急速に穏やかになり、ロ長調の響きの中で静かに閉じられます。
* 第3曲：クアジ・アレグロ イ短調 4/4拍子
全3曲の中で最もよく知られている曲であり、トッカータ、コラール、アダージョという三つの要素から構成されます。曲はトッカータ風の楽想で開始され、これと交互にコラール主題が二つの部分に分かれて提示されます。続いてイ長調に変わり、アダージョ部分に入ります。アダージョ部の主題は主に二つのフレーズからなり、様々な音色や音域で繰り返されたり、コラール主題と組み合わされたりしながら、落ち着いた流れで進行します。最後にコラール主題が半分の音価で再現された後、長い休符で一呼吸置かれます。その後、これまでの倍の速度でトッカータ主題が再び現れ、16分音符の急速な動きが絶えず続く中で、コラール主題が顔を覗かせます。クレッシェンドによって音楽は頂点に達し、16分音符の音型を伴奏としながら、イ短調でコラール主題が荘厳に姿を現します。これにより壮大なクライマックスが形成され、最終的にはイ長調の主和音をもって全曲の幕が閉じられます。
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