90mm戦車砲 (アメリカ)

アメリカ90mm戦車砲：開発から冷戦期の主力戦車砲へ

アメリカ合衆国が開発した90mm口径の戦車砲は、第二次世界大戦から冷戦時代にかけて、アメリカ軍および西側諸国の主力戦車に搭載され、重要な役割を果たしました。その開発経緯と各型式の詳細、そして戦車砲の歴史における位置づけを解説します。

T7シリーズ：M1高射砲から戦車砲への転換

1940年、アメリカ陸軍はM1 90mm高射砲を採用しました。当初は高射砲として運用されていましたが、低姿勢砲架を備えたM2が開発されると、ドイツの8.8cm FlaKと同様に対戦車砲としても使用されるようになりました。

当時、戦車駆逐大隊はM7 3インチ砲を搭載したM10 GMCやM1 76mm砲搭載のM18 GMCを運用していましたが、パンターやティーガーといったドイツ重戦車を正面から撃破するには力不足でした。そのため、より強力な対戦車火砲の戦車への搭載が検討され、M2の開発と並行して90mm砲の戦車砲への転用研究が始まりました。

こうして開発された試作型がT7です。1943年にはM3として制式化され、M10 GMCでの試験を経て、M36 GMCに搭載され1944年から生産されました。また、M3 90mm戦車砲を搭載した重戦車としてM26パーシングが開発され、ティーガーに対抗できる戦力として期待されましたが、AGF（陸軍地上軍管理本部）の反対により戦線への投入は遅れました。M3 90mm戦車砲は、固定薬莢式の90x600mmR弾を使用し、薬室圧力は38,000psi (260MPa)でした。

戦後には、M3を基にマズルブレーキをシングルバッフル式にし、排煙器を追加したM3A1が開発されました。これは、縦方向の砲安定機能が追加されたM67A1砲架と組み合わされ、M26A1重戦車、M46パットンに搭載されました。その後、砲尾の金属加工を改良したM3A2が開発され、M3A1を順次代替しました。

M3の諸元

種別：後装式ライフル砲
口径：90mm
砲身長：50口径長
重量：1,030kg
全長：4.728m
薬室圧力：260MPa
初速：1,020m/s（M304 HVAP）、810m/s（M82 APC）、820m/s（M71 HE）
最大射程：17.9km（M71 HE）

各種試作型：より高性能な90mm砲を求めて

T7がM3として制式化された後も、より優れた90mm戦車砲を求めて様々な試作が行われました。

T14: 自走砲用として開発され、マズルブレーキと駐退機に改良が加えられました。
T15: 初速を975m/sに高めた試作型。さらに高初速化したT18も開発されました。
T19: 砲身覆いを省いた試作型。
T21: 装輪装甲車への搭載を企図した試作型。
T22: より大型の砲弾に対応できるよう、M2 105mm榴弾砲の砲尾を導入した試作型。

日本では、M36 GMCに搭載されていた「M3A1 90mm戦車砲」を元に、日本製鋼所が52口径長に長砲身化して「61式52口径90mm戦車砲」を開発し、61式戦車に搭載しました。

T54シリーズ：冷戦期のデファクトスタンダード

T15を元に、より高初速のタングステン弾芯高速徹甲弾の運用に対応し、軽量化された試作型がT54です。これは、M56対戦車自走砲に搭載されました。

T54を基に、戦車砲として開発された改良型がT119です。T119は、イギリスのオードナンス QF 20ポンド砲と並行して開発されました。最大の変更点は、より高い砲腔内圧に対応するため砲構造を強化した点で、排煙装置とマズルブレーキも改良されています。T119を量産に適するように改正したものがT119E1であり、M36として制式化され、当初はT42に搭載される予定でしたが、整備計画の都合でM47パットンに搭載されました。

T119E1/M36を基に、単肉砲身として軽量化されたものがT139で、M41として制式化され、T148砲架と組み合わせてM48パットンに搭載されました。

M47・M48が冷戦下の西側諸国に広く供与されたことから、技術的に類似するQF 20ポンド砲と共に、T54シリーズは西側の第1世代主力戦車における戦車砲のデファクトスタンダードとなりました。しかし、1950年代後半にソ連軍がD-10 100mm戦車砲を搭載したT-54を運用開始すると、威力不足が指摘されるようになりました。そのため、西側諸国ではイギリスがQF 20ポンド砲を基に開発したロイヤル・オードナンス L7 105mm戦車砲の採用が進み、アメリカ軍もM68として採用し、新たなデファクトスタンダードとなりました。

ただし、90mm口径の戦車砲というニッチは、軽戦車や装輪戦車向けの低反動砲・低圧砲として引き継がれ、コッカリル 90mm低圧砲などが開発されています。

M41の諸元

口径：90mm
砲身長：43口径長（3.88m）
砲身構造：合金製単肉砲身
ライフリング：32条右回り（25口径/1回転）
全長：4.909m
薬室圧力：330MPa
初速：732m/s（HE-T）、792m/s（HEP-T）、853m/s（AP-T）、1,250m/s（HVAP-DS-T）

まとめ

アメリカの90mm戦車砲は、第二次世界大戦から冷戦初期にかけて、西側諸国の戦車戦力の中核を担いました。その開発の歴史は、戦車の進化とソ連の脅威に対する西側の防衛戦略を反映しています。

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