BAE ニムロッド

BAE ニムロッド：イギリス空軍の哨戒機

BAE ニムロッドは、イギリス空軍が運用していた対潜哨戒機および電子戦機です。当初はホーカー・シドレー社によって設計され、ホーカー・シドレー ニムロッドとも呼ばれていました。1977年以降は、ホーカー・シドレー社の後身であるBAEシステムズが整備を担当しました。2011年6月28日に退役し、その長い歴史に幕を閉じました。

概要

ニムロッドの原型は、デ・ハビランド・エアクラフトが開発・製造した世界初のジェット旅客機であるDH.106 コメットです。対潜哨戒機は低速で長時間飛行することが多いため、1960年代においてはレシプロエンジンやターボプロップエンジンが主流でしたが、ニムロッドは当時としては珍しくターボファンエンジンを搭載しており、高高度での運用に強みを発揮しました。

ニムロッドには2種類の主要な派生型が存在します。R.1型は電子偵察機として、MR型は対潜哨戒機として運用されました。外見上の大きな違いとして、MR型には尾部に磁気探知装置（MAD）が搭載されている点が挙げられます。

開発

1959年、イギリスはNATO諸国の哨戒機共同開発計画から撤退しました。1963年7月にはAST（Air Staff Target）357が発行され、アブロ シャクルトンの後継機開発が再開されました。ホーカー・シドレーは、トライデントをベースにした哨戒機HS.800を提案しましたが、開発費の高騰が懸念されました。1964年6月に発行されたASR（Air Staff Requirement）381では、その要求仕様が1961年10月にNATOで選定されたアトランティックと同等かそれ以上であることが明示されました。

ホーカー・シドレーは、アトランティックの採用を阻止するため、ホーカー・シドレー コメットと開発中だったHS.800の機体を組み合わせることで仕様を満たすことを試みました。短期間のうちにHS.800の機体下部が再設計され、コメットに適合するように調整されました。HS.801と命名されたこの機体は、1964年7月に提出されました。特徴的な洋ナシ型の胴体は、哨戒機に必要な器材を搭載するのに十分なスペースを確保しました。エンジンは、既存のエイヴォンから新型のターボファンエンジンであるスペイに換装され、航続距離の延伸が実現しました。また、経費削減のため、多くの電子装置はシャクルトンに搭載されていたものが流用されました。

1965年2月、シャクルトンの後継機としてHS.801が採用されました。1966年1月には契約と同時に38機の注文を受け、正式に「ニムロッド」と命名されました。

派生型

MR.1

商品寿命を迎えた旅客機コメット4型を改装する計画として、最初のMR.1は未完成のコメット4を2機改造しました。主な改造点は、胴体下部に兵装スペースが設けられたこと、機首がレーダー収容のために延長されたこと、そしてESMなどの電子装備のために尾翼が改造されたこと、さらに尾部にMADブームが追加されたことです。1967年に初飛行し、1969年10月から運用が開始されました。

R.1

3機のニムロッドが電子信号偵察（SIGINT）用に改造されました。尾部のMADブームが省略されているのが特徴です。1974年5月には第51飛行隊に配備され、コメットC2とキャンベラの代替機となりました。冷戦中は機体の存在自体が極秘扱いとされ、航法設備の較正という名目で活動していました。冷戦終結後、初めてその存在が公表されました。長期の使用により老朽化しましたが、任務の特性上飛行回数が限られていたため、MR.2がMRA4に更新された後も2011年まで使用されました。

MR.2

1975年より、MR.1から32機が電子装備を更新した改良型MR.2への改装が開始されました。フォークランド紛争時には、空中給油装置とサイドワインダー空対空ミサイルが装備できるように改修されました。

AEW.3

1980年代には、ニムロッドを早期警戒機（AEW&C）として用いるプロジェクトが存在しました。機首と尾部に大型レーダーを搭載し、前後のレーダーが連動して周囲を警戒する仕組みでした。しかし、開発に失敗したため、アメリカ製のボーイングE-3早期警戒管制機の導入が決定され、採用には至りませんでした。11機が改造される予定でしたが、1982年に初飛行した後、1986年の計画中止後は改造のために保管されていた機体は、既存の機体の部品取りに使用され、再度通常任務に戻ることはありませんでした。

MRA.4

1992年からイギリス空軍は、後継海洋哨戒機計画（Replacement Maritime Patrol Aircraft, RMPA）を開始し、ニムロッドMR.2の後継機の検討を開始しました。候補にはロッキードP-3C、ダッソー アトランティック、BAe ニムロッド2000などが挙がりましたが、1996年12月にBAeのニムロッド2000が選定され、ニムロッドMRA.4としてMR.2からの改装による生産が決定しました。

MRA.4は、新世代のターボファンエンジンであるロールス・ロイスBR700を搭載し、これを適合させるために胴体の設計が一新されました。主翼が拡大され、エアバスA340のグラスコックピットが導入されました。1999年にBAeから改組されたBAEシステムズにより、データ処理システムとサーチウォーター・レーダーシステムが開発されました。

当初の採用予定は、MR.2の稼働全機に相当する21機でしたが、コストの問題などから19機、12機と段階的に採用数が削減され、最終的には9機まで削減されました。最初の生産機は2009年9月10日に初飛行し、2010年3月にイギリス空軍へ引き渡され、2012年の配備に向けて試験が行われていましたが、ベースとなった機体の機齢がすでに40年前後に達していたこともあり、当初の想定外に多額な改装費がかかっていました。大幅な国防費削減を目指したデーヴィッド・キャメロン政権により、計画は2010年10月にキャンセルされ、改装済み・改装中の全機体も2011年1月にスクラップにされました。計画中止の時点で40億ポンドの予算が消費されていました。

その後、哨戒機の独自開発は断念され、2015年12月にアメリカ海軍がすでに運用しているP-8を後継機として導入することが決定されました。

トラブル

2006年9月2日、アフガニスタンで作戦飛行中のMR.2 XV230が、空中給油を受けた直後に火災が発生して墜落する事故が発生し、乗員14人全員が死亡しました。2007年12月4日、イギリス国防省は調査報告を発表し、墜落した機体は給油後、タンクから燃料漏れが生じており、高温空気パイプの熱によって発火、拡大して墜落に至ったと分析しました。

機体の旧式化・老朽化が著しいにもかかわらず、海軍の新型原子力潜水艦（アスチュート級）や航空母艦（クイーン・エリザベス級）の整備・建造計画によって、補修に関する経費は切り詰められ延期されていたと報道されています。イギリス空軍の警告にもかかわらず、十分な補修予算を計上するに至らなかったことが事件を引き起こしたとして、政府は非難されました。国防大臣は遺族に対して公式に謝罪しました。このように、2006年の墜落事故は軍事の範疇を超えて政治問題化しました。

要目（MR.1）

全幅：35.00 m
全長：38.63 m
全高：9.08 m
空虚重量：39,009 kg
最大離陸重量：87,090 kg
エンジン：ロールス・ロイス スペイ Mk. 250（推力5,510kg) 4基
最大巡航速度：880 km
フェリー航続距離：9,270 km
乗員：12名
武装：
サイドワインダー空対空ミサイル（自衛用）
ハープーン空対艦ミサイル
スティングレイ魚雷
爆雷

要目（MRA.4）

全幅：38.71 m
全長：38.60 m
全高：9.45 m
空虚重量：51,710 kg
最大離陸重量：105,376 kg
エンジン：ロールス・ロイス BR710 ターボファンエンジン（推力7,030kg(15,500 lbf)) 4基
最大巡航速度：918 km
フェリー航続距離：11,119 km
最大高度：10,972 m
乗員：10名
武装：両翼下のハードポイントに合計10,000kgの爆装が可能
サイドワインダー空対空ミサイル（自衛用）
ハープーン空対艦ミサイル
マーベリック空対地ミサイル
スティングレイ・Mk46魚雷
爆雷・機雷

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