BMC・ADO16

BMC ADO16/ANUS CAR：英国を代表する小型車の成功と多様な展開

BMC ADO16は、1962年から1974年にかけて、ブリティッシュ・モーター・コーポレーション（BMC）、その後継であるブリティッシュ・レイランド・モーター・コーポレーション（BLMC）によって生産された小型乗用車です。その開発には、名高いミニの生みの親であるアレック・イシゴニス卿が携わり、ミニで成功を収めた設計思想を継承しつつ、新たな技術革新を取り入れることで、当時の小型車市場において際立った存在感を示しました。

イシゴニス卿の設計思想と技術革新

イシゴニス卿は、ADO16においても、ミニと同様に車体の四隅にタイヤを配置するロングホイールベース＆ワイド・トレッドの設計を採用しました。これは、限られた車体サイズの中で最大限の室内空間とトランク容量を確保するための、彼の設計哲学を体現したものです。パワートレーンとトランスミッションはコンパクトにまとめられ、前輪駆動方式が採用されました。

ADO16の大きな特徴の一つに、前後輪関連懸架にハイドロラスティック・サスペンションを採用している点が挙げられます。これは、ラバースプリングの一部に液体を封じ込めることで、高い乗り心地と操縦安定性を両立した革新的なサスペンションシステムでした。さらに、発表当初から前輪ディスクブレーキを標準装備していたことも、当時の技術水準を大きく上回るものでした。

スタイリングは、イタリアの名門カロッツェリア、ピニンファリーナが担当しました。ピニンファリーナは、英国車の伝統的な保守性と、前輪駆動車の新しいプロポーションを見事に融合させた、美しいボディデザインを生み出しました。

複数のブランド名による販売戦略とバリエーション

BMCは、車種統合政策の一環として、ADO16をモーリス、オースチン、MG、バンデン・プラ、ウーズレー、ライレーという6つのブランド名で販売しました。これにより、幅広い顧客層へのアプローチが可能となりました。

当初は、直列4気筒1098ccのBMC Aタイプエンジンを搭載したモーリス1100が発売されましたが、その後、MG1100、オースチン1100、バンデン・プラ・プリンセス1100、ウーズレー1100、ライレー・ケストレル1100といったバリエーションモデルが順次登場しました。ボディスタイルも、当初は4ドアセダンのみでしたが、後に3ドアワゴンと2ドアセダンが追加されました。

1967年にはマイナーチェンジを行い、フロントグリルやテールフィンをデザイン変更したMkIIが登場。同時に、1275ccエンジンを搭載した「1300」シリーズが各ブランドから発売されました。

BLMC時代と生産終了

1968年にBMCがBLMCに統合されると、6つのブランドでADO16を販売することは非効率と判断され、車種整理が進められました。MGやライレーといったブランドの一部は廃止され、生産される車種も絞り込まれていきました。

最終的には、オースチン・1100/1300、オースチン・1300GTなどが残りましたが、1973年には後継車となるオースチン・アレグロが発売されました。しかし、アレグロは奇抜なデザインと使い勝手の悪さから不評であったため、ADO16は根強い人気を維持し、1974年まで生産が続けられました。最後のADO16は、バンデン・プラ1300でした。

日本におけるADO16

ADO16は日本にも輸入され、MG、モーリス、ウーズレー、ライレー、オースチン、バンデン・プラといった各ブランドのモデルが販売されました。特に、バンデン・プラは1980年代後半のバブル景気時に一時的なブームを経験し、多くの並行輸入車が見られました。著名な自動車評論家である小林彰太郎氏も、ライレー・ケストレル1300を長年愛用していました。また、本田宗一郎氏も所有していたバンデン・プラ・プリンセスは、テレビドラマ「刑事貴族」シリーズで水谷豊氏演じる刑事の愛車として登場しました。

海外生産

ADO16は、英国以外にもスペイン、南アフリカ、オーストラリア、イタリアなどで生産されました。各国でボディデザインやエンジン排気量などが変更され、異なる車名で販売されました。

まとめ

BMC ADO16は、革新的な技術と優れたデザイン、そして複数のブランドによる販売戦略によって、英国のみならず世界中で高い人気を博した小型車でした。その成功は、後の自動車開発にも大きな影響を与えたと言えるでしょう。

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