HD 191939

HD 191939は、地球から約54パーセク（およそ176光年）離れた位置に輝く恒星です。見かけの明るさは約9等と、肉眼で見るには暗いですが、太陽とよく似た性質を持つG型主系列星として知られています。スペクトル分類はG9Vで、質量は太陽の約0.92倍、半径は約0.94倍という、太陽とほぼ同じような大きさの恒星です。この星は、TESS（Transiting Exoplanet Survey Satellite）衛星による観測対象天体としてTOI-1339という名称でも呼ばれており、他にも「TIC 269701147」や「2MASS J20080574+6651019」といった識別名が与えられています。

発見された6つの惑星

HD 191939の周囲には、2020年から2022年にかけて、複数の観測手法を用いて6個の太陽系外惑星が発見されています。これらの惑星は内側から順にb、c、d、e、g、fと名付けられており、そのタイプや軌道は非常に多様です。

初期の発見：惑星b、c、d

最初の惑星探査は、TESS衛星によるトランジット法（惑星が恒星の手前を通過する際に生じるわずかな減光を捉える手法）で行われました。TESSのデータから、HD 191939の周囲を公転する3つの惑星候補が検出され、これらはTOI-1339.01、.02、.03としてカタログに登録されました。その後のフォローアップ観測を経て、これらの候補は2020年に正式にHD 191939 b、c、dとして確認されました。これらの3つの惑星は、いずれも「ミニ・ネプチューン」と呼ばれるカテゴリーに属しており、サイズが比較的似ています。公転周期は、bが約8.88日、cが約28.58日、dが約38.35日であり、特に内側の3つは1:3:4に近い軌道共鳴の関係にあることが示されています。

視線速度法による追加の発見：惑星e、f

トランジットを起こす内側の3惑星の発見に続き、W・M・ケック天文台のHIRES分光器や自動惑星検出望遠鏡（APF）のLevy分光器を用いたドップラー分光法（恒星の視線速度のわずかな変化から惑星の重力による影響を検出する手法）による観測が行われました。約415日間に及ぶ精密な観測データから、2021年にはトランジットを起こさない2つの追加惑星、HD 191939 eとfの存在が明らかになりました。

惑星eは、約101.5日の公転周期を持ち、最小質量は木星の約0.34倍（土星に匹敵する質量）と推定される木星型惑星です。この惑星のトランジットは観測されていませんが、内側のb、c、dと同じ軌道面を公転している可能性が指摘されています。

さらに外側には、非常に長い周期を持つ惑星fが発見されました。当初、この惑星の軌道や質量は不確実性が高く、公転周期は1700日から7200日の間、質量は木星の2倍から11倍程度の幅があると考えられていました。しかし、2024年のより詳細な観測結果により、fは木星の約2.88倍の質量を持ち、主星から約3.71天文単位（地球と太陽の距離の約3.71倍）離れた軌道を約2898日（約7.9年）かけて公転していることが示されました。その質量が褐色矮星の質量範囲（木星の約13倍以上）よりも小さいため、fは惑星として分類されています。

最新の発見：惑星g

2022年には、既存の5惑星のデータ精度向上を目的としたドップラー分光観測から、6番目の惑星HD 191939 gが見つかりました。この発見は、この惑星系がさらに複雑であることを示しました。惑星gは約284日の公転周期を持ち、質量は地球の約13.5倍と推定されています。この質量から、gは天王星や海王星に似た「天王星型惑星」である可能性が高く、その半径は地球の約3.4倍程度と予測されています。gの軌道長半径は約0.812天文単位であり、これはHD 191939系のハビタブルゾーン（液体の水が存在しうる温度になる領域）の外縁付近に位置します（ハビタブルゾーンの推定範囲は0.44～0.84天文単位）。しかし、惑星gはガスや氷を主成分とする天王星型惑星とみられるため、生命が居住可能なタイプではないと考えられています。興味深いのは、gの公転周期が内側のb、c、dの軌道共鳴とは直接関連しないものの、外側のeの周期と1:3の共鳴関係に近いことが示されている点です。gの軌道は、惑星eとfの間に位置しています。

HD 191939惑星系は、内側に密集する3つのミニ・ネプチューン、その外側に位置する質量を持つ木星型惑星e、ハビタブルゾーン近傍を巡る天王星型惑星g、そして最も遠方を公転する大質量の木星型惑星fという、多様な性質と配置を持つ6つの惑星で構成されており、太陽系外惑星系の中でも非常にユニークな事例として注目されています。

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