HR 5183

HR 5183は、地球から約103光年離れたおとめ座の方向にある恒星です。見かけの明るさはVバンドで6.3等級と、肉眼で確認できるかどうかの境界にある恒星です。そのスペクトル分類はG0型に属しており、これは太陽と同じG型の恒星であることを示します。

この恒星は、一般的なG型主系列星と比較して光度や半径が一回り大きく、推定年齢は約77億年（誤差約プラス14億年、マイナス12億年）であることから、主系列段階からわずかに進化が進んだ状態、すなわち亜巨星へと移行しつつある段階にあると考えられています。かつてはG0V型の主系列星として分類されることもありましたが、近年の研究では単にG0型として扱われることもあります。

HR 5183は、銀河系中心を公転する軌道を持ち、銀河面から200パーセク（約600光年）以上大きく離れることはありません。この運動特性から、銀河系の「厚い円盤」と呼ばれる構造に属している可能性が高いと考えられています。過去にはその運動から銀河ハローのメンバーである可能性も指摘されましたが、年齢や金属量といった特徴はハロー星とは一致せず、最新のガイア衛星データを用いた分析では厚い円盤のメンバーであることが示されています。

この恒星は、輝星星表のHR 5183をはじめ、HD 120066、HIP 67246、BD+07 2690、LHS 2798、TIC 379117362など、様々な星表で異なる名称が付けられています。

HR 5183の近くにはK型主系列星のHIP 67291が存在しており、両者が遠距離の連星系を形成している可能性が指摘されています。また、HR 5183の周囲からは、後述する太陽系外惑星HR 5183 bが見つかっています。

HIP 67291

HIP 67291は、HR 5183の伴星候補とされる恒星で、そのスペクトル型はK型主系列星です。両者の重力的な関係性は確定していませんが、もし連星であれば、現在のHR 5183からの距離は1万5000天文単位以上と非常に大きく離れており、軌道の近点距離でもおよそ1万天文単位になると推定されています。この距離から、HR 5183の周囲を公転する惑星HR 5183 bに対して、HIP 67291が直接的な重力影響を及ぼす可能性は低いと考えられています。

HIP 67291自体の存在は古くから知られており、マックス・ヴォルフの固有運動星カタログにも記載されています。この星とHR 5183は、固有運動や年周視差が似ていることから、複数の文献でHR 5183の伴星ではないかと推測されてきました。2019年の研究では、高精度なガイア衛星のデータを用いてHIP 67291がHR 5183に重力的に束縛されているかどうかを検証した結果、データの誤差のみを考慮した場合の確率は44%に留まりました。しかし、このような恒星が偶然近くに見える事前確率が低いことを考慮すると、実際に伴星である事後確率はより高いと考えられています。

HIP 67291もまた、BD+07 2692、LHS 2801、ウォルフ504 (Wolf 504)、LDS 3101といった別名で呼ばれることがあります。

HR 5183 b

HR 5183 bは、2019年にカリフォルニア工科大学の研究チーム（Sarah Bluntら）によって発見が報告された太陽系外惑星です。この惑星は、主星であるHR 5183の視線速度の精密な変化を観測する、視線速度法と呼ばれる手法によってその存在が明らかになりました。

この惑星は非常に特異な軌道を持っています。推定される下限質量は木星の約3.2倍あり、公転周期は約74年（誤差プラス43年、マイナス22年）と長いです。さらに注目すべきはその軌道離心率で、およそ0.84（誤差プラスマイナス0.04）という極端に大きな値を持っています。軌道長半径は約18天文単位（誤差プラス6天文単位、マイナス4天文単位）と推定されています。

この極端な軌道は、太陽系に当てはめて考えると非常にイメージしやすいです。HR 5183 bは、その軌道上で主星に最も近づく近点では小惑星帯の内側付近まで接近し、最も遠ざかる遠点では海王星軌道のさらに外側まで到達するという、非常に細長い楕円を描いてHR 5183の周囲を公転していることになります。発見当時、視線速度法によって検出された惑星としては、これほど公転周期が長い天体は非常に珍しく、最も長いものの一つとして位置づけられました。

HR 5183 bは、2017年末から2018年初めにかけて主星のHR 5183に最も接近する近点を通過したと考えられています。この近点通過が、HR 5183の視線速度に観測可能な大きな変動を引き起こしました。この変動に前後して集中的な観測が行われた結果、この惑星の存在が確実視され、下限質量、近点距離、離心率といった詳細な軌道要素の値が明らかになりました。HR 5183の視線速度は、この惑星の発見以前から約20年間にわたり継続的に追跡されており、惑星の存在を示唆するわずかな兆候は、近点通過の数年前から既に捉えられていました。

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