IMSAI 8080

IMSAI 8080

1975年12月に登場したIMSAI 8080は、初期のマイクロコンピュータとして歴史に名を刻む一台です。この機種はIntel 8080（後に8085）マイクロプロセッサと、当時標準となりつつあったS-100バスを採用していました。特筆すべきはその位置づけであり、先行して発売されていたMITS社のAltair 8800と完全な互換性を有していました。このため、世界初の商用マイクロコンピュータ互換機と考えられています。開発、製造、販売はIMSアソシエイツ（後にIMSAIマニュファクチャリングと改称）によって行われ、1975年から1978年にかけて、およそ17,000台から20,000台が生産されました。

概要

IMSAI 8080は、組立てキットまたは完成品として提供されました。CPUにはAltairと同じく2MHzで動作するIntel 8080が搭載されていましたが、基板の設計や筐体の組み立て構造、外観デザインなど、ハードウェア全般においてAltairよりも洗練されていました。特に、電源ユニットには十分な容量が確保され、フロントパネルに並ぶスイッチ類はAltairのものと比較して視認性や信頼性が向上していました。

拡張性もIMSAI 8080の大きな強みでした。内部には最大で22基ものS-100バススロットを備え、豊富な増設能力を持っていました。当時、趣味人や学生など経済的に余裕のない個人ユーザーにとっては、メモリは高価であり、8KBや16KBといった単位で少しずつ増設するのが一般的でした。IMSAI 8080は、このようなメモリカードのほか、シリアルポート（SIO）、パラレルポート（PIO）、フロッピーディスクドライブ（FDD）、カセットテープインターフェース（CMT）、ビデオカードなど、多様な周辺機器の増設に十分対応できる設計でした。さらに、これらの周辺機器が最初からオプションとして提供されていたことも、ユーザーにとって大きな利点でした。これらの優れた特徴により、IMSAI 8080は、後にパーソナルコンピュータの事実上の標準OSとなるCP/M|CP_Mの動作環境を構築する上で、Altairよりも高く評価されました。一部では、Altairの持つ欠点を克服し、「Altairが本来目指すべきだった姿」を実現した機種であるという評価もありました。

開発の経緯

IMSAIの歴史は、1972年5月にウィリアム・ミラード氏が自宅を事務所として設立した「IMSアソシエイツ」という個人事業に遡ります。当初はコンピュータ関連のソフトウェア受託開発を主業務としていましたが、1973年には会社組織となりました。いくつかの契約を獲得し事業資金を調達しましたが、それらは全てソフトウェアに関するものでした。

転機が訪れたのは1974年です。ゼネラルモーターズから、自動車販売店向けの「ワークステーション・システム」開発依頼を受けました。これは、端末、小型コンピュータ、プリンタ、専用ソフトウェアを含む統合システムを構築する計画でした。しかし、この製品開発は最終的に中止されてしまいます。

この経験を通じて、ミラード氏とチーフエンジニアのジョー・キリアン氏はマイクロプロセッサの可能性に注目するようになります。特に、インテルが発表した8080は、IMSがそれ以前に触れた4004と比較して、より「本物のコンピュータ」として利用できると感じられました。こうして、既存のマイクロコンピュータであるAltair 8800が採用していたS-100バスをベースに、IMSAI 8080の本格的な開発が始まりました。開発は順調に進み、1975年10月にはアメリカの技術雑誌『ポピュラーエレクトロニクス』誌に広告が掲載されると、大きな反響を呼びました。

最初のIMSAI 8080キットは1975年12月16日に出荷されましたが、その後、組み立て済み完成品の販売へと軸足を移していきます。事業の中心がコンサルティングから製造へと変化したことを受け、1976年には社名をIMSAIマニュファクチャリングへと変更しました。

IMSAI 8080は、その後のパーソナルコンピュータの歴史において極めて重要な役割を果たします。1977年、IMSAIのマーケティングディレクターだったセイモア・I・ルービンスタイン氏は、CP/M|CP_Mオペレーティングシステムの開発者であるゲイリー・キルドール氏に25,000ドルを支払い、CP/M|CP_Mバージョン1.3をIMSAI 8080で実行するためのライセンスを取得しました。このライセンス取得は、他のコンピュータメーカーがCP/M|CP_Mを採用する大きな契機となり、CP/M|CP_Mは最終的に8ビットマイクロコンピュータにおける事実上の標準OSとしての地位を確立することになります。

しかし、事業は必ずしも順調に進まず、IMSAI社は1979年10月までに倒産してしまいます。その後、「IMSAI」の商標は、IMSアソシエイツの初期の従業員であったトッド・フィッシャー氏とナンシー・フライタス氏によって取得されました。現在も、フィッシャー・フライタス社の一部門としてIMSAIブランドでのコンピュータ製造が続けられており、初期のIMSAIシステムのサポートも行われています。

VDPシリーズ

1977年半ば、IMSAIは後継機種となるVDPシリーズを発表しました。このシリーズはIntel 8085をベースとし、ディスプレイ一体型のパーソナルコンピュータとして設計されました。1978年1月時点の製品説明によると、VDPシリーズは32Kまたは64Kのメモリを搭載し、9インチ（VDP4xレンジ）または12インチ（VDP8xレンジ）のビデオディスプレイを選択可能でした。例えば、VDP-40モデルは、5.25インチのフロッピーディスクドライブ2基と9インチの40桁表示ディスプレイ、2KのROMモニターを一つの筐体に統合していました。内蔵されたキーボードは、8035マイクロプロセッサを搭載し、メインボードとシリアルインターフェースで接続されていました。ビデオ出力ボードであるVIO-Cには、2KのファームウェアROM、256文字に対応する2KのキャラクタジェネレータROM、そして2Kのリフレッシュメモリが搭載されていました。価格は、1978年1月時点でVDP80/1050が10,920ドル、VDP-40/64が7,466ドルでした。

大衆文化におけるIMSAI 8080

IMSAI 8080は、フィクション作品にも登場しています。特に有名なのは、1983年の映画『ウォー・ゲーム』です。この映画の主人公は、IMSAI 8080に音響カプラ型モデムを接続し、ハッキングを行うツールとして使用しました。ただし、同作のノベライゼーションではAltair 8800が使用されたことになっています。また、アーネスト・クラインによる2011年のSF小説『ゲームウォーズ』でも、物語の終盤における重要なアイテムとしてIMSAI 8080が登場し0が登場しています。

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