JR四国8600系電車

8600系電車

8600系電車は、四国旅客鉄道（JR四国）が2014年に導入した直流特急形電車です。老朽化した2000系気動車の置き換えと、岡山駅 - 宇和島駅間の直通運転系統の分離に伴い、予讃線電化区間での特急輸送を担うために開発されました。

概要

8600系は、JR四国にとって8000系電車以来21年ぶりの新製特急形車両であり、開発には鉄道建設・運輸施設整備支援機構の費用支援を受けています。デザインコンセプトは「レトロフューチャー」で、内外装はJR四国社員と車両メーカーが共同で製作しました。

車体傾斜制御装置には、空気ばね式車体傾斜方式を採用し、曲線での高速走行を可能にしています。これにより、2000系や8000系で用いられていた制御付き自然振子方式と比較して、保守性の向上と時間短縮を両立させています。

キャッチコピーは「SETOUCHI STREAM EXPRESS」で、8000系電車の「瀬戸の疾風」を踏襲し、瀬戸内を流れる風をイメージしています。

車両概説

車体

車体は、ステンレス鋼を用いた溶接組立構造で、側面の溶接にはレーザー溶接を採用し、歪みを少なくしています。先頭部は普通鋼製で、蒸気機関車を模したブラックフェイスが特徴です。

車体色はオレンジとグリーンを基調とし、瀬戸内の温暖な風土と四国の自然を表現しています。車体下半分はグレーで、特急のスピード感をストリームラインで表現しています。

先頭部は貫通構造で、貫通扉にはLED式の愛称表示器を装備。運転台部分には衝撃吸収構造を採用し、乗務員の安全性を確保しています。

客用扉は各車両片側2箇所に設置され、半自動機能付きです。車外放送が可能な放送装置も備えており、無人駅での集札業務に対応しています。

各客用扉付近には、列車の愛称とヘッドマークが描かれたステッカーが貼られ、側面には「SS」「SETOUCHI STREAM EXPRESS SS8000」のロゴマークが描かれています。

室内

車内は、車両・座席種別ごとに「グリーン」「オレンジ」「茜色」のアクセントカラーが設定され、照明にはLED照明を採用しています。バリアフリー整備ガイドラインに配慮した設備も導入されています。

車内案内表示器はフルカラーLED式で、客室妻扉上部と、普通車半室を指定席とする場合の案内用として客室中央にも設置されています。

多機能トイレ、男性用小便所、洗面台はTc・Tsc車に、通常の洋式トイレと男性用小便所はMc車に設置されています。多目的室はTsc車に設置されています。

普通車

普通車のインテリアは、「未来を想起させる明るく洗練された空間」をコンセプトに、木質系のテクスチャーを配置し、窓下の木質系テクスチャが特徴です。座席色は車両のアクセントカラーに準じ、グリーンとオレンジがあります。

座席は2+2配置の回転式リクライニングシートで、980mm間隔で設置されています。背もたれを高くし、ホールド感を向上させ、足元にはフットレスト、肘掛には電源コンセントを備え、背面テーブルはノートパソコンの使用を考慮して拡大されています。

グリーン車

グリーン車は、妻壁を木質系とし、じゅうたん敷きの床で落ち着いた空間を演出しています。Tsc車に半室で設置され、2+1配列の回転式リクライニングシートが1170mm間隔で設置されています。電動レッグレストや読書灯を備え、シートモケットは茜色にカラフルなドットラインが描かれています。

運転台

運転台は、分割・併合を容易にする貫通構造の高運転台で、視界確保と乗務員の安全を確保しています。前面窓にはワイパーが装備され、補助ワイパーも備えています。

主要機器

主要機器は、既存車両との共通化を図りつつ、新設計された機器も最小限の変更で代替できるように設計されています。Mc車とTc（Tsc）車に主要機器を分散搭載しています。

電源・制御機器

主回路制御方式には、VVVFインバータ制御を採用。IGBT素子を使用した2レベル電圧形PWMインバータで、1基の電動機を制御する1C1M構成です。ブレーキ方式は回生・発電ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキを採用しています。

主電動機は、全閉外扇形三相かご形誘導電動機を採用。塵埃の侵入を防ぎ、冷却性能に優れています。

補機用・制御用電源には、静止形インバータを2基搭載し、冗長性を確保しています。空気圧縮機は、SIV出力の三相交流を電源とし、空気ブレーキや車体傾斜などに圧縮空気を供給します。

冷房装置は、モジュール設計された集中式のものを各車1基搭載。トンネル進入時のダンパ制御や停電時の換気機能も備えています。

集電装置

集電装置は、JR四国で初めてシングルアーム型を採用。狭小トンネルに対応するため、取り付け部の屋根は低く設計されています。架線追従装置により、常に集電装置の位置を軌道中心に保ちます。

車体傾斜装置

空気ばね式車体傾斜方式を採用。曲線外軌側の空気ばね高さを上げることで最大2度の車体傾斜を可能にします。通常はマップ式による制御を行いますが、センサ式をバックアップとして用いています。これにより、曲線通過速度の向上と乗り心地の両立を図っています。

台車

台車は、空気ばね式車体傾斜制御付き軸梁式軽量ボルスタレス台車を採用。基礎ブレーキは、付随台車には空圧キャリパー式車軸ディスクブレーキ、動力台車には油圧キャリパー式車輪ディスクブレーキが採用されています。

形式・編成

8600系は、Mc-Tcでユニットを組む2両編成を基本に、T車を連結した3両編成が可能な構成です。連結可能な編成数は最大3編成です。

各形式

8600形（Mc）：2・3両編成の岡山・高松方に組成される制御電動車。全席普通席。
8700形（Tsc）：3両編成の松山方に組成される制御車。グリーン室と普通室の合造車。
8750形（Tc）：2両編成の松山方に組成される制御車。全席普通席。
8800形（T）：3両編成の中間に組成される付随車。全席普通席。

編成

編成記号は「E」で、2両編成は10番台で区分されています。

改良・改修

走行試験時に、元空気溜圧が低下する事象が発生したため、空気タンクの増設などの改良が量産車で行われました。

運用

「しおかぜ」「いしづち」の併結列車や、「いしづち」単独列車、「モーニングEXP松山」に使用されています。多客期には、8000系が代走することもあります。

2017年には、JR西日本の路線で試運転を行った実績があります。

沿革

2014年2月：量産先行車落成
2014年6月：営業運転開始
2015年10月：量産車落成
2016年3月：「しおかぜ・いしづち」に投入
2017年7月：JR西日本管内で試運転
2018年3月：8両編成での運転開始
2023年4月：瀬戸大橋開業35周年記念ロゴ掲出

参考文献

『鉄道ファン』、交友社
『鉄道ジャーナル』、鉄道ジャーナル社
『鉄道のテクノロジー』、三栄書房
『東洋電機技報』、東洋電機製造
『三菱電機技報』、三菱電機
『計測と制御』、計測自動制御学会
『JR電車編成表 2024夏』、交通新聞社

外部リンク

車両情報＜8600系特急電車＞ - 四国旅客鉄道
8600系 - 四国旅客鉄道
しおかぜ - JRおでかけネット（西日本旅客鉄道）

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