L 168-9

L 168-9 (Danfeng) と 惑星 L 168-9 b (Qingluan)

きょしちょう座の方向、太陽からおよそ82.1光年離れた宇宙空間に、見かけ等級11等の暗い恒星が存在します。これがL 168-9、またはTOI-134として知られる恒星です。この恒星は、太陽に比べて小さく温度の低い赤色矮星であり、スペクトル型はM1 Vに分類されています。

恒星 L 168-9 の特徴

L 168-9は、私たちの太陽系から比較的近い場所に位置する赤色矮星の中では、比較的明るく観測される天体の一つです。その物理的な特性は、太陽の約6割程度の質量と半径を持ち、光球面での有効温度は約3,800 Kと推定されています。放出される光の量、すなわち光度は太陽のわずか約7%ほどです。この星の自転周期は、約30.7日であることが観測から明らかになっています。また、広視野赤外線探査機WISEによる観測データを用いて、恒星を取り巻く塵の円盤（残骸円盤）の存在を示す赤外超過の有無が調べられましたが、その検出は不確実であり、現時点では周囲に残骸円盤は存在しない可能性が高いと考えられています。

惑星系の発見

2020年、NASAの太陽系外惑星探査衛星TESSによる観測が、L 168-9に興味深い特徴を発見しました。TESSは、恒星の手前を惑星などの天体が通過する際に生じる、恒星の明るさのわずかな減光（トランジット）を検出する観測を行っています。この観測から、L 168-9の明るさが周期的に変化する様子が捉えられました。

この減光が惑星によるものであることを確認するため、地上の大望遠鏡を用いた追跡観測が行われました。精密な測光観測による減光パターンの分析、撮像観測による周辺天体の確認、そして高精度の視線速度測定によって恒星の揺れを検出する観測が実施されました。これらの様々な観測結果を総合的に分析した結果、L 168-9の周りを公転する一つの太陽系外惑星の存在が確定しました。この惑星は、地球よりも大きいながらもガス惑星ほどではない、スーパーアースと呼ばれるタイプの惑星であることが明らかになりました。

惑星 L 168-9 b の詳細

発見された惑星は、L 168-9 b、またはTOI-134.01としてカタログ化されました。この惑星は、地球の約4.6倍の質量を持ち、半径は約1.4倍です。注目すべきはその公転周期で、親星であるL 168-9の周りをわずか約1.4日という非常に短い周期で公転しています。これは、惑星が恒星のごく近距離を軌道運動していることを示しています。

さらに特筆すべきは、この惑星の密度です。L 168-9 bの密度は地球の約1.7倍に達し、これまでに発見されている既知のスーパーアースの中でも特に高密度な惑星の一つとして位置づけられています。このような高密度な惑星は、その内部構造や組成について貴重な情報を提供すると期待されています。

この高密度という特徴から、L 168-9 bは、次世代の宇宙望遠鏡であるジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 (JWST) が観測を計画している地球型惑星やスーパーアースの中でも、優先観測目標の一つに選定されています。JWSTによる詳細な観測は、この惑星の大気の有無や組成、さらには内部構造の解明に繋がる可能性を秘めており、スーパーアースの研究における重要なターゲットとされています。

IAUによる命名

2022[年]]、国際天文学連合]は、「持続可能な発展のための国際基礎科学[[年2022 (IYBSSD2022)」への参加機関として、太陽系外惑星系の命名キャンペーン「太陽系外惑星命名キャンペーン2022 (NameExoWorlds 2022)」を企画しました。このキャンペーンでは、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の優先観測目標候補となっている20の惑星系が命名対象となり、世界中から名前の提案が公募されました。L 168-9とその惑星L 168-9 bも、この命名対象の惑星系の一つに選ばれました。

2023年6月、IAUはキャンペーンの最終結果を発表し、L 168-9とL 168-9 bに新たな名前が与えられました。恒星L 168-9は「Danfeng」（丹鳳）と命名されました。Danfengは、中国の伝説に登場する赤い鳳凰（鳳凰の一種）であり、古来より幸運や吉祥を象徴する霊鳥とされています。惑星L 168-9 bは「Qingluan」（青鸞）と命名されました。Qingluanは、中国の古典『山海経』にも記述が見られる青い霊鳥で、西王母の乗り物とされるほか、愛のメッセージを伝える使者としても知られています。

これらの命名は、科学的な探査の進展と文化的な背景を結びつけ、一般の人々が宇宙に親しみを持つ機会を提供するとともに、発見された天体に固有の物語性を持たせる試みと言えるでしょう。DanfengとQingluanという名前は、それぞれ親星と惑星の特性や関係性、そして発見に関わる人々の思いを映し出すものとして、今後広く使われることになります。

L 168-9 / Danfeng と L 168-9 b / Qingluan の惑星系は、地球から比較的近い場所にある赤色矮星系に属する高密度スーパーアースとして、今後の観測によってさらなる詳細が明らかになることが期待されています。特にJWSTによる分光観測などは、この興味深い惑星の起源や進化を探る上で重要な鍵となるでしょう。

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