インターネットガバナンス

インターネットガバナンスとは

インターネットガバナンスとは、インターネットの統治や管理に関する概念です。近年、インターネットの利用が拡大するにつれて、そのガバナンスのあり方について、様々な国や団体、利害関係者間で議論が活発化しています。本記事では、インターネットの発展の歴史を振り返りながら、インターネットガバナンスの現状と課題について詳しく解説します。

インターネットの発展

インターネットの歴史は、1969年にアメリカ国防総省のARPA（高等研究計画局）が提案したARPANETに遡ります。ARPANETは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校など4つの大学を結ぶネットワークとして構築されました。

その後、衛星リンクなど様々なシステムがARPANETに接続され、実用的なネットワークへと発展しました。1975年には国防情報システム局(DCA)に移管され、技術的な決定はRequest for Comments（RFC）という文書で記録されるようになりました。このRFC文書は、現在でもインターネット標準を定める上で重要な役割を果たしています。

一方、アメリカ国外ではITU-T勧告X.25が標準となっていました。1978年には、X.25を利用してヨーロッパ、オーストラリアなど世界各地を結ぶIPSS（International Packet Switched Service）が設立され、1979年から1984年の間には、UUCP（Unix to Unix Copy Protocol）というプロトコルを用いて、ARPANET、X.25接続、専用線接続などを経由して940のホストが接続されました。

TCP/IPは、異なるネットワーク環境同士でも接続できるように開発されたプロトコルで、1983年にはARPANETがこのTCP/IPに移行しました。同年、軍事システムはARPANETからMILNETに移行し、コンピュータの名前とアドレスを管理するためのDomain Name System（DNS）が導入されました。さらに、.com、.orgなどのTop-Level Domain（TLD）や.jp、.auなどのCountry Code Top-Level Domain（ccTLD）が導入され、インターネットの利便性は飛躍的に向上しました。

1984年から1986年の間に、アメリカ科学財団（NSF）によって、スーパーコンピュータセンターを結ぶNSFNETバックボーンが構築され、複数のネットワークが相互接続された結果、これら複合ネットワークはインターネットとして知られるようになりました。1989年末には、世界各地で16万以上のホストが接続され、1990年にはARPANETが正式に閉鎖されました。1991年になると、NSFはインターネットの商業利用に関する規制を撤廃し、商業ネットワークプロバイダが相互接続を始めたことで、インターネットは急速に拡大しました。

ネットワーク組織の変遷

インターネットの発展に伴い、ネットワークを管理・監督するための組織も変遷を重ねてきました。

1979年には、防衛高等研究計画局によって、ICCB（Internet Configuration Control Board）が設立されました。ICCBはその後、IAB（Internet Advisory Board）に改名され、さらに1986年にはIAB（Internet Activities Board）となりました。

1986年には、インターネット標準を開発・推進するためのIETF（Internet Engineering Task Force）が組織されました。IETFは当初研究者によって構成されていましたが、後に所属に関係なく誰でも参加できるようになりました。

コンピュータネットワークの黎明期から1998年に亡くなるまで、ジョン・ポステルは国防総省に勤務し、南カリフォルニア大学情報科学研究所（USC/ISI）のコンピュータネットワーク部門長として、IPアドレスの割り当て業務を監督していました。彼の死後、この役割はIANA（Internet Assigned Numbers Authority）に引き継がれ、グローバルなDNSルートサーバの管理もIANAの担当となりました。また、ポステルはRFCエディターとしても重要な役割を果たしました。

IPアドレスの割り当ては、IANAから5つの地域インターネットレジストリ（RIR）に委任されました。ARIN（American Registry for Internet Numbers）は北アメリカを、RIPE NCC（RIPE Network Coordination Centre）はヨーロッパ、中東、中央アジアを、APNIC（Asia-Pacific Network Information Centre）はアジアと太平洋地域を、LACNIC（Latin American and Caribbean Internet Address Registry）はラテンアメリカとカリブ海地域を、AfriNIC (African Network Information Centre) はアフリカを担当しています。

1998年には、アメリカ政府商務省が、国際的なDNSとIPアドレスの管理体制に関する新しい民間主導の組織の設立を呼びかけました。これに応じて、IFWP（International Forum on the White Paper）が設立され、ワシントンD.C.、ジュネーブ、シンガポール、ブエノスアイレスで会議が開催されました。1998年11月には、IANAの機能がICANN（Internet Corporation for Assigned Names and Numbers）に引き継がれました。ICANNはアメリカ商務省によって認可されたカリフォルニアの非営利団体です。ICANNの最初の10人の理事はジョン・ポステルによって選ばれたとされていますが、一部の関係者のみで決定されたとして批判も多くありました。

2000年には、ICANNの理事の一部を一般会員による選挙で選出する試みが実施されましたが、組織的な投票行動など多くの問題が発生しました。2002年には、ICANNのCEOが911テロ事件を受けて「民主主義の実験よりも効率的な組織にすべき」と主張し、理事選出方法が変更され、主要組織の構成員による推薦と、指名委員会が選出した候補者の中から理事会が選ぶ方式になりました。しかし、この指名委員会のプロセスは非公開であるため、その不透明性を批判する意見も存在します。

1992年には、ISOC（Internet Society）が設立され、企業、団体、政府、大学、個人など、インターネットに関わる様々な主体がメンバーとして参加しています。ISOCは、インターネットの開かれた開発、進化、利用を促進することを目的としています。ISOCには、IAB（Internet Architecture Board）とIETFが含まれており、IETFはIESG（Internet Engineering Steering Group）によって監督され、長期間にわたる研究はIRTF（Internet Research Task Force）によって進められています。

2002年のISOCの再構築では、企業メンバーにより多くの権限が与えられました。

インターネットガバナンスの論点

インターネットの管理権限は、当初アメリカ商務省が有していましたが、インターネットの国際的な性格から、この状況を疑問視する声が高まりました。特に、IANAの機能がICANNに移行された際には、インターネットガバナンスに関する議論が白熱しました。

ICANNの意思決定プロセスは不明確で無責任であるという批判が出ており、特に、インターネット利用者によって選出される理事のポストが廃止された際には、批判の声が大きくなりました。これに対してICANNは、意思決定プロセスを合理化し、現代のインターネットに適合した組織構造を模索していると主張しています。

その他の論点としては、.comや.orgなどの一般的なTLDの管理、ccTLDの管理、ICANNの増大する責任と予算、ドメイン税の導入などがあります。

現在ICANNは、「アメリカ商務省の管理下にはない」と主張していますが、依然としてアメリカのカリフォルニア州の法律に拠った民間団体であり、DNSのルートサーバの管理権をアメリカ商務省が握っていることから、「アメリカによる実効支配は続いている」という批判は根強くあります。また、民間団体にインターネットの管理を任せることには問題があるとして、主に中国や発展途上国を中心に、インターネットの管理をITU（国際電気通信連合）や国連に委譲すべきという意見も存在します。

2003年から2005年にかけて開催された「世界情報社会サミット」では、インターネットの管理を誰に任せるかについて議論が行われましたが、結論は出ませんでした。

国連インターネットガバナンス作業部会による定義

2005年6月、国連インターネットガバナンス作業部会（WGIG）は、インターネットガバナンスを以下のように定義しました。

インターネットガバナンスとは、政府、民間、市民社会など、それぞれの役割により、共有原則、基準、規則、意思決定手順、インターネットの進化と使用のための綱領を開発し適用することである。

この定義については、賛否両論があります。

日本の対応

日本政府は、インターネットガバナンスについて民間主導を支持しており、現状維持を支持する立場です。2003年の世界情報社会サミットでも、民間主導の立場を表明しました。一方で、総務省では、様々な意見を集めるために「インターネットガバナンスに関する連絡会」を開催しました。

民間では、JPNIC（日本ネットワークインフォメーションセンター）やハイパーネットワーク社会研究所を中心に、「インターネットガバナンスタスクフォース」（IGTF-J）が設立され、総務省の連絡会に出席したり、世界情報社会サミットに意見書を提出するなどの活動を行っています。

最近の情勢

2005年11月にチュニスで開催された世界情報社会サミット第2部では、インターネットガバナンスの原則について激しい議論が行われ、以下の2点が合意されました。

1. 2006年の第2四半期の終わりまでに、国連事務総長主催でインターネットガバナンスフォーラム（IGF）を設立すること。
2. 最初のIGF会合をギリシャで開催すること。

この合意に従い、2006年10月30日から11月2日にギリシャのアテネで最初のIGF会合が開催されました。それ以前の2006年5月には、IGFアドバイザリーグループにより、ジュネーブでIGFで話し合われる議題についての予備会合が行われました。

出典・関連項目

インターネット
インターネット関連団体
Internet Assigned Numbers Authority (IANA)
Internet Corporation for Assigned Names and Numbers (ICANN)
Internet Engineering Task Force (IETF)
Internet Engineering Steering Group (IESG)
Internet Research Task Force (IRTF)
Number Resource Organization (NRO)
地域インターネットレジストリ (Regional Internet Registry・RIRs)
インターネットソサエティ (Internet Society・ISOC)
インターネットアーキテクチャ委員会 (Internet Architecture Board・IAB)
インターネットガバナンスタスクフォース
インターネット・ガバナンス研究会
国連関連団体
Internet Governance Forum
世界情報社会サミット
* 国連インターネットガバナンス作業部会

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