プーリア州

イタリア共和国南部、ブーツの形に喩えられる国土の「かかと」の部分に位置するのがプーリア州です。南東に突き出すサレント半島を持ち、東はアドリア海越しにギリシャやバルカン半島と、南は広大なターラント湾に面しています。州都は州中央部のアドリア海沿岸に位置する港湾都市バーリです。

名称

イタリア語での州名は「Puglia（プーリア）」ですが、発音からは「プッリャ」や「プッリァ」といった表記も可能です。この名称は、古代に現在の州北部・中部が「アプーリア」あるいは「アプリア」と呼ばれていたことに由来します。ヨーロッパの他の言語、例えば英語のApuliaやドイツ語のApulienなどにも、この古名に基づく呼び方が見られます。

地理

プーリア州はイタリア半島の南東端に位置し、東はアドリア海とオトラント海峡、南はイオニア海とターラント湾に囲まれています。北西はモリーゼ州、西はカンパニア州、南西はバジリカータ州と陸上で隣接しています。州域は南北に細長く広がっており、面積は約19,358平方キロメートルで、本土の南部では最も広い州です。

この州の地理的な最大の特徴は、山岳が極めて少ないことです。州面積に占める山地の割合はわずか1.5%と、イタリアで最も低くなっています。広大な土地の大部分は、肥沃な平野や緩やかな丘陵で構成されています。

州北部には、アドリア海に突き出たガルガーノ半島があり、州の最高峰であるカルヴォ山（標高1,065メートル）もこの地にあります。アペニン山脈の支脈であるダウニア山地も、州内に僅かに見られる山岳地形です。これらの山地の間に広がる約4,000平方キロメートルのプーリア台地は、古くからイタリア有数の穀倉地帯として栄えてきました。

州中部には、テッラ・ディ・バーリとも呼ばれるカルスト台地「ムルジェ」が広がっており、南に隣接する地域には独特な地形を持つイトリア谷があります。州南部のサレント半島も大半が平野ですが、南端には丘陵地帯も見られます。ターラント湾沿岸部はアルコ・イオニコ・タランティーノ地方と呼ばれます。

プーリア州は年間を通して雨量が非常に少なく、大きな河川はほとんど存在しません。降水は石灰岩質の台地に浸透し、地下水となって海岸近くで湧き出します。この石灰岩質の地形は多くの鍾乳洞を生み出し、カステッラーナ・グロッテの洞窟群は特に有名です。

人口が多い主要都市には、州都バーリをはじめ、ターラント、フォッジャ、アンドリア、バルレッタ、レッチェ、ブリンディジなどがあります。

歴史

プーリアは、古代から様々な文化が交錯した歴史を持つ地域です。考古時代にはイリュリア人やミケーネ人が定住し、紀元前8世紀頃からはギリシア人が入植し、後に「マグナ・グラエキア」の一部となりました。特にターラントやサレント周辺では独自の文化が栄え、美しいアプリア式陶器が作られました。

紀元前4世紀から3世紀にかけて、共和政ローマがこの地を支配下に置きました。プーリアはローマにとって戦略的に非常に重要な地域となり、紀元前216年には第二次ポエニ戦争における歴史的な「カンナエの戦い」がこの地で起こっています。ローマは後に支配を回復し、退役兵の入植を進めるとともに、ローマとブリンディジを結ぶアッピア街道を延長し、交易や交通の要衝としました。帝政期には「アプリア・エト・カラブリア」という行政区に編成され、穀物や油の主要な生産地として東方への輸出を支えました。

ローマ帝国崩壊後は、ゴート人やランゴバルド人の支配を経て、6世紀からは東ローマ帝国の統治下に入りました。バーリは南イタリアを管轄するカテパナートの中心地となり、現在のフォッジャ県周辺がカピタナータと呼ばれるのはこれに由来します。11世紀にはノルマン人がこの地域を征服し、南イタリア全体を支配するシチリア王国の一部としましたが、王国の中心はシチリア島に移りました。

12世紀から13世紀にかけては、神聖ローマ皇帝ホーエンシュタウフェン家がプーリアに居を構えることが多く、特に皇帝フリードリヒ2世はアンドリア近郊に壮麗なカステル・デル・モンテ城を築きました。その後、アンジュー家による支配を経て、シチリア王国が分裂すると、プーリアは大陸側のナポリ王国領となりました。この時代の建築には、古代ギリシャ、ビザンツ、ノルマン、ピサなど多様な様式の影響が見られます。

15世紀にはアラゴン王国（後のスペイン）がナポリ王国を征服し、プーリアを含む地域を支配しました。スペイン統治下では有力な領主が治めましたが、沿岸部はオスマン帝国やヴェネツィア共和国との間で争われ、1480年のオスマン帝国によるオトラント侵攻はよく知られています。その後もスペイン・ハプスブルク家、ブルボン家と支配王朝は変わりました。

19世紀初頭にはナポレオンに征服され、フランスの影響下で封建制の廃止や法制度改革が進められました。ナポレオン失脚後、ウィーン会議によってスペイン・ブルボン家の両シチリア王国が成立しましたが、旧制度への回帰に対する不満が高まり、1861年のイタリア統一へとつながります。社会・農業改革はゆっくりと進行し、20世紀中盤以降に加速しました。

社会・文化

プーリア州の宗教は現在、ほとんどがローマ・カトリックですが、かつて東ローマ帝国の影響下にあった時代には東方正教会に属した時期もあります。対岸のアルバニアからの移民が多く居住しており、サレント半島の一部地域にはギリシャ系の住民コミュニティも存在しています。

公用語はイタリア語ですが、プーリアには多様な地方言語が根付いています。北部・中部ではナポリ語に近いプーリア方言が話され、南部サレント半島ではシチリア語に近いサレント語が使われます。ターラント市周辺の方言はこれらの境界に位置し、分類が議論されることもあります。さらに、サレント半島のグレチア・サレンティーナではギリシャ語系のグリコ語が、フォッジャ県の一部ではフランコプロヴァンス語系のファエート語が、そしてアルバニア語系のアルバレシュ語も各地にコミュニティがあり話されています。これらの少数言語の中には、話者数の減少により存続が危惧されているものもあります。

食文化においては、オレッキエッテと呼ばれるパスタや、パンツェロッティなどの郷土料理が知られています。

観光

プーリア州には魅力的な観光地が多く存在します。世界遺産にも登録されているアルベロベッロのトゥルッリ、アンドリア近郊の謎めいたカステル・デル・モンテ、モンテ・サンタンジェロのサン・ミケーレ聖域などが特に有名です。

その他

スポーツではサッカーが盛んで、セリエAに属するUSレッチェや、セリエBのSSCバーリなど、プロクラブが活動しています。

交通網としては、バーリ国際空港やブリンディジ国際空港などの主要空港があり、鉄道はイタリア国鉄系の路線のほか、地方鉄道も利用されています。

歴史上の人物としては、古代ギリシアの哲学者アルキタスや、中世の神聖ローマ皇帝コンラート4世、現代の政治家アルド・モーロ、サッカー選手のマルコ・マテラッツィなどがこの州の出身です。

行政的には、バーリ県、バルレッタ＝アンドリア＝トラーニ県、ブリンディジ県、フォッジャ県、レッチェ県、ターラント県の6つの県で構成されています。

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