ペイズリー

ペイズリー模様：歴史とデザイン

ペイズリー模様は、その独特な形状で世界中で愛される装飾模様です。勾玉のような形は、衣類、壁紙、家具など、様々なアイテムに取り入れられています。この模様の起源は古く、ペルシャやインドのカシミール地方に遡るとされています。

起源と象徴

ペイズリー模様は、松かさ、パーム（ヤシの葉）、糸杉、マンゴー、生命の樹などを図案化したものとされています。その優美な曲線と繰り返されるパターンは、人々に安心感を与えると考えられています。模様の向きや配置に変化をつけることで、デザインの自由度が高く、様々な用途に合わせた表現が可能です。

ペイズリーの形状は、ゾウリムシやミドリムシなどの原生動物、植物の種子、花弁、菩提樹の葉、初期段階の胎児など、生命力や霊魂を象徴するものと結び付けられることもあります。しかし、発祥の地とされるイランやインドでは、模様本来の宗教的意味や象徴性は薄れ、単なる装飾として用いられることが一般的です。

模様のインスピレーション源としては、菩提樹、ナツメヤシ、ザクロ、ヒマラヤ山脈からの強風で曲がった糸杉など、様々な説があります。ペイズリーの周囲に蔓や花が描かれることも多く、ペイズリー自体に花や葉が描き込まれることもあります。ペルシア風の花鳥文がインドに影響を与え、花の形が抽象的な文様に変化していったと考えられています。1[[9世紀]]末のヨーロッパで発生したアール・ヌーヴォーの影響を受け、細長い葉が風に揺らぐような、水が流れるようなデザインも生まれました。

歴史

ペイズリーの起源は明確ではありませんが、ヨーロッパのテキスタイルデザイナーの間では、ネブカドネザル2世時代の新バビロニア王国でナツメヤシをモチーフとした原形が使用されていたことが知られています。ロシア連邦南部のアルタイ共和国にあるパジリク古墳群から出土した紀元前500年頃の皮製の容器には、ペイズリーが描かれていました。

生命の木をモチーフとする装飾は、アッシリア、バビロニア時代を経てヘレニズム世界で完成され、ギリシア人の東方植民によって西アジアにもたらされたと考えられています。アレクサンドロス3世の遠征によって東方にも広まったという説もあります。一方で、ケルト人が使用していた模様を起源とする説もありますが、模様の構成の違いから疑問視する意見もあります。

9世紀頃にアフガニスタンのバルフに建立されたモスクにはペイズリーが見られますが、ペルシア絨毯に描かれるようになったのは1[[9世紀]]以降です。カシミール地方では主に織物に用いられ、ラージャスターンやグジャラートでは木版染めによって木綿にあしらわれていました。ペイズリー模様の木綿は日本に輸出され、「更紗」と呼ばれました。

ヨーロッパでの流行

17世紀後半以降、ヨーロッパにカシミア・ショールが輸出されるようになり、ナポレオン・ボナパルトのエジプト遠征の土産として持ち帰られたショールが上流階級の婦人の間で人気を博しました。1[[9世紀]]初頭のヨーロッパでは、モスリンのドレスの上にカシミア・ショールを羽織るスタイルが流行し、インドで生産されたショールだけでは供給が追いつかなくなりました。そこで、イギリスのノリッジやエディンバラなどの都市でカシミア・ショールの模造品が生産されるようになり、1820年頃にはエディンバラの工場がペイズリー市の職人にショールの生産を依頼しました。

ペイズリー市は安価な製品によって販路を開拓し、インドから伝えられた模様を様式化しました。ナポレオンはフランスのデザイナーに模様の改良を促し、フランスはペイズリー模様のデザインの先進地域となりました。しかし、1870年代以降、ヨーロッパでのショールの流行は下火になり、ペイズリーは独立した装飾模様として使われ続けました。1960年代にはアメリカでペイズリーが再び流行し、その流行は日本にも及びました。

名称の由来

ペイズリーの名前は、模様をあしらったカシミア・ショールの模造品が大量に生産されていたスコットランドのペイズリー市に由来します。1840年頃からペイズリー市のショールが有名になり、ショールの模様にペイズリーと名付けられました。それ以前は、「スコットランドのスペード」と呼ばれていました。フランスでは、デザイナーの東洋趣味を反映して「カシミール（Cachemire）」とも呼ばれていました。

インドでは「ブータ」「カルカ」、イランでは「ボテ（Boteh）」、中国語では「火腿紋」など、地域によって様々な名称で呼ばれていました。

ペイズリー模様は、その長い歴史の中で多様な文化の影響を受け、独自の進化を遂げてきました。現代でもファッションやインテリアなど、様々な分野でその美しい模様を見ることができます。

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