ムツゴロウ

ムツゴロウ（Boleophthalmus pectinirostris）

特徴

ムツゴロウは、スズキ目ハゼ科に属する魚で、干潟という特殊な環境に適応した生物です。成魚は全長15〜20cmに達し、トビハゼの約2倍の大きさになります。体色は褐色から暗緑色で、白い斑点が全身に見られます。目の位置は頭部の上部に突き出ており、周囲を広範囲に見渡すことができます。また、背びれを大きく広げて威嚇や求愛を行う行動も特徴的です。

生態

ムツゴロウは、軟泥干潟に深さ1mほどの巣穴を掘って生活します。満潮時や夜間、敵に追われた際は巣穴に隠れますが、干潮時には巣穴から出て活発に活動します。干潟での移動には、胸びれを使って這ったり、体を跳ねさせたりします。陸上での生活を可能にしているのは、皮膚と口の中に溜めた水による呼吸です。しかし、皮膚が乾燥すると生存できないため、体を濡らす行動も観察されます。縄張り意識が強く、他のムツゴロウやヤマトオサガニを攻撃し追い払いますが、肉食性のトビハゼとは餌の競合が少ないため、基本的には争いません。

食性

ムツゴロウは植物食性で、干潟の泥表面に付着する珪藻などの底生藻類を主な食料としています。口は大きく、上顎にはとがった歯がありますが、下顎の歯はシャベル状で前方を向いており、泥と一緒に藻類を削り取って食べるのに適しています。

繁殖

最も活発に活動するのは初夏で、オスは求愛のために跳ねたり、縄張りに入ってきた他のオスと激しく戦います。メスは巣穴の横穴部分の天井に産卵し、オスが孵化するまで卵を守ります。孵化した稚魚はしばらく水中で遊泳生活を送り、全長2cmほどになると干潟での生活を開始します。

分布

ムツゴロウは、日本、朝鮮半島、中国、台湾に分布しています。日本では有明海と八代海にのみ生息しており、氷期に対馬海峡が陸続きだった頃に大陸から移動してきたと考えられています。彼らが好むのは、火山灰由来の細かい泥質の干潟で、泥粒が粗いと体を傷つけ弱ってしまいます。

利用

ムツゴロウの旬は晩春から初夏で、引き潮時に漁獲されます。逃げる際にはカエルのように連続ジャンプするため、捕獲は容易ではありません。伝統的な漁法には、巣穴に仕掛けた罠で捕獲する「タカッポ」や、巧みにムツゴロウを引っ掛ける「むつかけ」があります。肉は柔らかく脂肪が多いのが特徴で、新鮮なうちに蒲焼きにするのが一般的です。特に佐賀県では郷土料理として親しまれています。また、水族館などでも飼育されています。

保全状況

ムツゴロウは、環境省のレッドリストで絶滅危惧IB類（EN）に指定されており、絶滅の危機に瀕しています。干拓による生息地の減少や乱獲が主な原因で、個体数は減少の一途を辿っています。かつては「希少種」や「絶滅危惧II類」とされていましたが、2007年には「絶滅危惧IB類」へと評価が引き上げられました。

近縁種

ムツゴロウ属（Boleophthalmus）は、インド太平洋域に数種類が分布していますが、日本ではムツゴロウ1種のみが生息しています。近縁種には、以下のようなものが挙げられます。

B. birdsongi - ニューギニアからオーストラリア北部
B. boddarti - インド太平洋熱帯域
B. caeruleomaculatus - ニューギニアからオーストラリア北部
B. dussumieri - イラクからインド

関連情報

ムツゴロウと関連の深い生物や文化は以下の通りです。

トビハゼ: 同じく干潟で活動するハゼ
トカゲハゼ: 沖縄本島特産の干潟のハゼ
タビラクチ: 有明海に多い底生珪藻食性のハゼ
ワラスボ: 有明海特産のハゼ
ハゼクチ: 有明海特産のハゼ
むっちゃん万十: ムツゴロウを模した福岡県の菓子
畑正憲: 作家で愛称が「ムツゴロウ」
睦五朗: ムツゴロウに由来する芸名の俳優
釣りキチ三平: 漫画「有明海のムツゴロウ」でムツゴロウ釣りに挑戦

参考文献

Boleophthalmus pectinirostris - Froese, R. and D. Pauly. Editors. 2008.FishBase.
川那部浩哉・水野信彦・細谷和海編『山渓カラー名鑑 改訂版 日本の淡水魚』

外部リンク

ムツゴロウ恋の季節 - ニコニコ動画
（食紀行）泥にすむ「盆魚」ムツゴロウ＠佐賀県鹿島市 - YouTube
有明海のムツゴロウ、伝統漁「タカッポ」始まる - YouTube

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