三間飛車

三間飛車：歴史、特徴、そして多様な戦法

三間飛車は、将棋における振り飛車戦法の一つです。先手ならば7筋、後手ならば3筋に飛車を振る独特の戦型で、その名称は飛車の位置が自陣から見て3列目にあることに由来します。

従来の振り飛車戦法からの脱却と隆盛

従来の振り飛車戦法は、角道を止めてから飛車を動かすのが一般的でした。しかし、この戦法では居飛車穴熊への対策が難しく、勝率が低くなるという弱点がありました。これに対し、三間飛車は攻め駒の活用が容易な一方、穴熊への対応が難しいとされ、かつては敬遠される傾向がありました。しかし、中田功九段や小倉久史八段といったスペシャリストによって、対穴熊でも高い勝率を挙げる戦法として発展しました。特に、中田九段の「コーヤン流三間飛車」や小倉八段の「下町流三間飛車」は、その代表例として知られています。

三間飛車の大きな特徴は、持久戦にも急戦にも対応できる柔軟性です。左銀を5七や6七に配置できるため、様々な展開に対応できるのです。急戦においては四間飛車よりも優位に立つとされ、「先手三間飛車には急戦なし」という格言も存在します。一方、大山康晴十五世名人は後手番での三間飛車採用をある時期以降控えたと伝えられていますが、一方で重要な局面でのエース戦法として活用されていた時期もあったと言われています。

角交換の常識を覆した石田流

三間飛車の代表的な戦法として「石田流」があります。これは角道を止めないうちに7五歩と突く攻撃的な戦法で、角交換をしない持久戦型と、角交換も辞さない早石田型に大別されます。かつては早石田はハメ手的な要素が強いと見られていましたが、升田幸三実力制第4代名人が考案した升田式石田流によってプロ間でも見直され、本格的な戦法として発展しました。この発展は「振り飛車には角交換」という従来の常識を覆すものであり、居飛車穴熊対策の主流の一つとなりました。

近年の台頭：elmo囲いと中飛車の衰退

近年、居飛車側がミレニアム囲いや穴熊で四間飛車対策を進めたこと、そしてelmo囲い急戦が流行した結果、プロ棋戦における四間飛車の勝率が低下しました。同時に、中飛車も超速などの居飛車対策に苦戦し、2018年頃からはゴキゲン中飛車の使用率も減少しました。こうした状況下で、elmo囲い急戦に強く、持久戦にも対応できる三間飛車は、プロ棋戦における振り飛車の主力戦法として台頭しました。

三間飛車の強み：駒の活用と急戦対応

三間飛車の強みは、四間飛車と比較して角や左銀の活用が容易な点にあります。四間飛車では飛車が▲6八にあるため、角の動きや左銀の展開が制限されますが、三間飛車では▲6八→6七や6八→5七など、様々な活用が可能です。また、中飛車と比べて金の活用の自由度も高いです。

対居飛車急戦においても、棒銀や4六銀戦法に対して四間飛車より優位に立つ場面が多く見られます。これは、飛車の移動手数の差によるものです。これらの戦術は四間飛車対策として用いられることが多いため、三間飛車への対応を迫られることも少なくありません。

居飛車側の急戦策としては、4五歩早仕掛け、三歩突き捨て急戦、4六銀戦法、棒銀などが挙げられます。これらのうち、7筋から攻めてくる4六銀戦法や棒銀に対しては、三間飛車は最初から戦いの起こる筋に飛車を振っているため、四間飛車よりも有利に戦えます。

多様な戦法群

三間飛車には、石田流、升田式石田流、楠本式石田流、新・石田流、3・4・3戦法、鬼殺し、中田功XP、ゴキゲン三間飛車、大野流三間飛車、神吉流三間飛車、位取り三間飛車、下町流三間飛車、カナケンシステム、真部流、三間飛車藤井システム、トマホークなど、実に多様な戦法が存在します。それぞれの戦法には個性があり、状況に応じて使い分ける必要があります。

参考文献

石川陽生・中田功・安西勝一『振り飛車党宣言2』毎日コミュニケーションズ、2003年
中田功『コーヤン流三間飛車の極意 急戦編』『コーヤン流三間飛車の極意 持久戦編』『コーヤン流三間飛車（実戦編）』毎日コミュニケーションズ、2003年、2004年
藤井猛・鈴木宏彦『現代に生きる大山振り飛車』日本将棋連盟、2006年
勝又清和『最新戦法の話』浅川書房、2007年

結論

三間飛車は、その歴史の中で様々な変遷を遂げ、現在ではプロ棋戦においても主要な戦法として確固たる地位を築いています。その柔軟性と多様な戦法は、将棋における奥深さを象徴する存在と言えるでしょう。初心者から上級者まで、三間飛車の魅力は尽きることがありません。

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