南海

「南海」という言葉は、単に南の海を指すだけでなく、歴史、地理、企業活動、文化など、非常に多様な文脈で用いられる多義的な語です。

まず地理的な概念としては、日本の南海道のように古代の行政区分や、本州南方の海域を指す場合があります。かつて三重県に存在した南海村もこの範疇に入ります。また、岡山県美作市には「南海」と書いて「なんがい」と読む珍しい地名も存在します。

国外では、中華人民共和国の広大な海域である南シナ海やその中の島々である南海諸島を指すのが代表的です。広東省の沿岸地域全体や、仏山市の行政区画である南海区、さらには秦から唐にかけて存在した歴史的な南海郡（現在の広州周辺）も含まれます。北京にある人造湖である中南海も「南海」の一部です。大韓民国においては、東シナ海東部から対馬海峡西部にかけての韓国南方の海域を指し、また慶尚南道の南海郡やその中心地である南海邑、それに付随する南海島や南海倭城といった特定の地域や施設の名としても使われています。

歴史的には、古代から中世にかけての中国や日本では、東南アジア諸国を漠然と「南海」と呼ぶことがありました。また、「南海の孤島」といった表現のように、特定の場所を指すのではなく、熱帯や南洋、南半球の海域や沿岸地域を抽象的に指す比喩的な用法も一般的です。天文学の分野では、月の表面にあるクレーターの少ない平坦な領域である月の海の一つに南の海（Mare Australe）があり、これも広義の「南海」と言えるかもしれません。

固有名詞としても多くの事例があります。特に有名なのは、大阪府と和歌山県北部を結ぶ南海電気鉄道を中心とした南海グループでしょう。このグループには、フェリー事業を行う南海フェリー、建設業の南海辰村建設などが含まれます。かつては、南海電鉄を親会社とするプロ野球球団南海ホークス（現在の福岡ソフトバンクホークス）や、学校法人である南海学園（現在の清風南海学園の前身）も存在しました。学校法人清風南海学園は、高石市で清風南海中学校・高等学校を運営しています。

さらに、18世紀初頭のイギリスでは、海洋貿易の特権を持つ南海会社が設立され、その株価の異常な高騰と暴落は南海泡沫事件として知られています。日本国内の企業では、愛媛県の放送局である南海放送、鹿児島県の南海日日新聞、オートバイ用品などを扱う南海部品、大阪市の化学メーカー南海化学などがあります。国外では中国の南海石油といった企業名にも見られます。お笑いの分野では、人気漫才コンビ南海キャンディーズ（山里亮太、山崎静代）が活躍しており、略称で「南海」と呼ばれることもあります。

人名としては、上方の講談師である旭堂南海（きょくどうなんかい）や、元宝塚歌劇団星組娘役の南海まり（みなみまり）などが挙げられます。

このように、「南海」という言葉は、地理的な広がりや歴史的な深み、そして多様な組織や人物の名前に至るまで、非常に幅広い意味合いを含んで用いられているのです。関連語として、東海、西海、北海などがあります。

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