文政小判

文政小判（ぶんせいこばん）

文政小判は、江戸時代後期の文政2年（1819年）に発行された一両の額面を持つ小判です。新文字小判、または草文小判とも呼ばれ、同時に発行された文政一分判とともに、文政金、新文字金、草文金と総称されることもあります。また、同時期に改鋳された草文銀と合わせて草文金銀と呼ばれることもあります。

概要

文政小判の表面には、鏨（たがね）で茣蓙目（ござめ）が刻まれ、上下に桐紋を囲む扇枠があります。中央上部には「壹两」、下部には「光次（花押）」の極印が打たれています。裏面には中央に花押、下部の左端に小判師の験極印と吹所の験極印、右上に草書体の「文」の字が刻印されています。この「文」の字は、元文小判と区別するためのもので、「草文」と呼ばれています。

特製の献上小判も存在し、この場合は小判師の験極印と吹所の験極印に「大」「吉」の字が意図的に打たれています。

略史

元文の改鋳によって通貨供給が増加し、経済が発展しましたが、奢侈的な消費が増大する中で、幕府の財政は再び悪化していきました。11代将軍徳川家斉の時代には、子女の縁組費用や蝦夷地直轄政策などで幕府の支出が増大し、財政状況は厳しさを増しました。また、長期間流通した古文字金（元文小判）の損傷や磨耗も目立つようになり、改鋳が必要となりました。

この改鋳は、表面上は古文字金の損貨を無料で新金と引き換えるという名目でしたが、実際には新金（新文字金）の品位を低下させ、その差益（出目）によって財政を補填することを目的としていました。新金の量目は古文字金と同じでしたが、品位は低下しており、実質的な貨幣価値は下がっていました。

幕府の財政状況は、明和7年（1770年）には300万両以上あった金蔵の残高が、天明8年（1789年）には80万両余りにまで減少しました。その後、寛政の改革による倹約令で一時的に回復しましたが、臨時支出が続き、文化13年（1817年）には72万両余りとなりました。

老中松平信明が亡くなった後、老中格の水野忠成は徳川家斉の下で出目を得て幕府の財政を立て直すため、文政2年（1819年）に金貨の改鋳に着手しました。

文政元年（1818年）に発行された真文二分判は、量目は元文小判の半分でしたが、品位が約14%劣る名目貨幣でした。文政小判の品位はこの真文二分判と同一であり、名目貨幣を本位貨幣格に引き上げるものでした。これは、名目貨幣が本位貨幣の価値を下げたとも言えます。

貨幣の改鋳は、金銀の両替相場のバランスを考慮して同時に行われるのが通常でしたが、文政の改鋳では銀貨の改鋳が約1年遅れたため、一時的な銀相場の高騰を招きました。金1両と銀の交換レートは、文政元年（1818年）の64-65匁から、文政2年（1819年）には52匁にまで変動しました。

旧貨幣との引き換えは当初進捗しませんでしたが、引き換え期限が設定されると、庶民は損を恐れて旧貨幣を差し出すようになりました。文政6年（1824年）までの三都における引き換え高は、金が約615万両、銀が約10万貫に達しました。古金銀の通用停止は当初文政7年（1824年）の予定でしたが、文政10年（1827年）まで延期されましたが、その後も古金銀は流通し続け、引換所は幕末まで存続しました。

文政3年（1820年）には、旧金銀の引き換えに増歩（上乗せ）が設定されました。慶長金、武蔵判、享保金に対しては100両あたり165両、元禄金は100両あたり103両2分、乾金は100両あたり78両3分で引き換えられました。

この時期は天候も安定しており豊作が続いたため、通貨の品位低下による米価の高騰は見られず、経済は安定していました。しかし、元文小判との引き換えは進まず、文政小判の発行高は古文字金に比べて減少しました。また、二分判などの名目貨幣の流通が増加し、小判の流通高は減少しました。

文政の改鋳を主導した老中水野忠成の経済政策は、同族の老中水野忠邦による天保の改鋳に引き継がれました。文政・天保の2度の改鋳によって、幕府財政は一時的に安定しましたが、結果的には急激な物価高騰と支出増大を招き、幕府財政はさらに悪化しました。しかし、この経済混乱こそが商品生産を刺激し、全国市場の形成を促進したとする説も近年では提唱されています。

文政小判の通用停止は、天保13年（1842年）に決定されました。

文政一分判（ぶんせいいちぶばん）

文政一分判は、文政小判と同じ品位で、1/4の量目で作られた長方形短冊形の一分判です。表面には扇枠の桐紋、横書きの「分一」、桐紋が配置され、裏面には「光次（花押）」の極印と草書体の「文」の年代印が刻印されています。新文字一分判、または草文一分判とも呼ばれます。

草文金の量目および品位

量目

小判の規定量目は元文小判と同じく三匁五分（13.09グラム）、一分判は八分七厘五毛（3.27グラム）です。実測値の平均は、小判が約3.49匁（13.09グラム）、一分判が約0.88匁（3.30グラム）です。太政官による『旧金銀貨幣価格表』では、小判1枚当たりの量目は13.11グラムとされています。

品位

規定品位は七十八匁位（金56.41%、銀43.59%）です。明治時代に造幣局が行った分析では、金56.08%、銀43.74%、雑分0.18%という結果が出ています。

草文金の鋳造量

『旧貨幣表』によれば、小判と一分判の合計で11,043,360両が鋳造されました。改鋳によって幕府が得た出目は、文政元年（1818年）から文政9年（1826年）までの9年間で、二分判を含めて1,848,540両でした。さらに銀座『御用留便覧』によれば、文政3年（1820年）から天保6年（1835年）までの15年間で、新文字銀、新南鐐二朱銀などによる出目は3,838,576両に上りました。

金座における鋳造手数料は、鋳造高1000両につき、手代10両、金座人10両2分、吹所棟梁4両3分でした。

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