新版画

新版画：日本の近代木版画の隆盛

新版画とは？

新版画は、明治30年（1897年）頃～昭和30年代にかけて制作された木版画です。従来の浮世絵版画と同様に、絵師、彫師、摺師の分業体制によって制作されましたが、単なる復古ではなく、近代的な感性を取り入れた新しい表現が特徴です。そのため「大正新版画」と呼ばれることもあります。関東大震災後は、吉田博など個人が版画制作を手がけることも増えました。

背景：衰退する浮世絵と新たな潮流

明治時代、浮世絵版画は日清戦争を題材にした戦争絵の一時的ブームの後、急速に衰退しました。安価な石版画や写真、大量印刷の媒体が台頭したことが主な原因です。しかし、そんな中、海外からの関心が新版画の誕生を後押ししました。ヘレン・ハイドやエミール・オルリックといった西洋の芸術家たちが、日本の伝統的な木版画に魅力を感じたのです。

新版画の開花：多様な表現と才能の競演

橋口五葉や伊東深水といった日本画家を筆頭に、洋画家や外国人作家も加わり、新版画は多様な表現を生み出しました。特に、大正時代は新版画の黄金期と言えるでしょう。現代的なタッチの美人画、役者絵、陰影のある風景画など、革新的な作品が数多く誕生しました。外国人観光客に人気の高かった花鳥画も盛んに制作されました。

版元の役割と新興版元の台頭

新版画の制作には、版元の存在が不可欠でした。渡辺庄三郎の渡辺版画店は、特に重要な役割を果たしました。伝統的な分業体制を維持しながら、海外の芸術家たちとも積極的に協力し、新版画の普及に貢献しました。関東大震災後には、孚水画房や土井版画店など、多くの新興版元が誕生し、活況を呈しました。東京以外にも、名古屋、京都、大阪など各地に版元が生まれ、版画制作の裾野が広がっていきました。

様々な表現と作家たち

新版画は、伝統的な日本画の技法をベースにしながら、洋画の手法や近代的な感覚を取り入れることで、独自の表現を追求しました。風景画では川瀬巴水が人気を集め、美人画では伊東深水、橋口五葉らが活躍しました。また、山本鼎、石井柏亭らは、自らが絵を描いて版木を彫り、刷る「創作版画」という新しい手法も開拓しました。

関東大震災と戦時下の新版画

関東大震災では、多くの版元が被災しましたが、すぐに制作を再開しました。第二次世界大戦中は、戦時統制によって画材の入手が困難になるなど、制作環境は厳しくなりましたが、それでも新版画は制作され続けました。

新版画の終焉とその後

昭和30年代以降、新版画の制作は徐々に減っていきました。作家の高齢化や社会情勢の変化、そして、主要な版元であった渡辺庄三郎の死去などが原因として考えられます。しかし、新版画は日本の近代美術史において重要な位置を占めており、現在でも企画展などを通じてその魅力が再認識されています。

参考文献

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清水久男編　『こころにしみるなつかしい日本の風景　近代の浮世絵師・高橋松亭の世界』 国書刊行会、2006年
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千葉市美術館他編 『生誕130年 川瀬巴水展-郷愁の日本風景』 千葉市美術館、2013年
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清水久男 『川瀬巴水作品集』増補改訂版 東京[[美術]]、2019年
松山龍雄編集主幹 『版画芸術』185号 阿部出版、2019年
『川瀬巴水展』 平塚市美術館、2020年
滝沢恭司 『もっと知りたい川瀬巴水と新版画』 東京[[美術]]、2021年
西山純子ほか編 『千葉市美術館所蔵 新版画 進化系UKIYO−Eの美』 日本経済新聞社、2021年
* 月本寿彦（茅ヶ崎市美術館）編 『THE新版画 版元・渡邊庄三郎の挑戦』 株式会社アートワン、 2022年

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