日和山

日和山とは

日和山（ひよりやま）は、日本各地の港町に見られる、船乗りが天候を予測するために利用した山や丘の名称です。文字通り「日和見（ひよりみ）」をするための場所であり、航海の安全を左右する重要な役割を担っていました。

歴史

日和山の名前が文献に登場するのは、江戸時代前期の17世紀頃からです。全国の日和山を踏査・研究した南波松太郎氏によると、江戸時代に航路が開かれた際に設定されたと推定されています。最古の記録としては、1663年の伊豆国下田の大浦の日和山に関する記述が残っています。その後、1682年には陸奥国石巻の日和山が俳句の題材として取り上げられるなど、各地の日和山に関する記録が残っています。

日和山の主な利用者は、国内輸送を担う廻船の船乗りたちでした。彼らは、数日先の天候を見極め、荒天や逆風を避けて航海する必要がありました。日帰りで操業する漁師にとっても日和山は有用でしたが、動力船が普及するとその必要性は薄れていきました。帆船が活躍していた明治・大正時代までは各地で利用され、整備もされていましたが、その後は利用者が減少し、地名だけが残る場所が多くなりました。かつて日和山に置かれていた方角石も失われたり、周辺が市街地化して公園として残る一方、削られて消えてしまった場所もあります。

立地条件と分布

日和山は、周囲に視界を遮る樹木や建物、高い山がない場所が適しています。これは、天候や風向きを正確に観測するために重要な条件です。また、港から歩いて往復できる距離にあることも重要で、高すぎたり遠すぎたりする場所は不向きでした。そのため、港の近くにある見晴らしの良い低い山や丘が選ばれることが一般的でした。

海岸に山が迫っている場所では、標高300メートル程度の山が日和山として利用されたこともあります。一方で、低地で山がない場所では、土を盛り上げて丘を作り、日和山とした例もあります。新潟の日和山や平潟の日和山のように、望楼を建ててさらに高さを増した場所もあります。

日和山は、船乗りにとっては寄港する港ごとに存在するもので、一種の港湾施設と捉えられていました。そのため、全国の港に地名として定着しました。分布は、西回り、東回りの航路に沿って多く見られますが、輸送量が多い瀬戸内海や東京湾のような内海には比較的少ない傾向にあります。外海に面し、特に長距離を航海する必要がある難所（遠州灘を挟んだ紀伊半島東側と伊豆半島西側、能登半島など）に集中して分布しています。

付属・関連施設

多くの日和山には、方角を示すために方角石が置かれていました。方角石には、十二支で表した方位が刻まれており、日和見をする人の便宜を図っていました。また、港に近い見晴らしの良い場所という条件から、日和見以外の目的で利用されることも多く、江戸時代には船の出入りを監視するための見張り番所や、異国船に対する砲台が設けられた場所もあります。天文台が設置されたり、眺望の良さから遊興地になったりした場所もありました。現代では、多くが放置されていますが、公園として整備されている場所もあります。

日和山の一覧（一部）

以下に、日本各地の日和山の一部を、北海道・青森県から反時計回りに九州・四国まで、その後岩手県から太平洋側を和歌山県まで、江戸時代の西回り・東回り航路に沿って紹介します。各日和山の説明は、都道府県・市町村・最寄りの港、標高、特記事項の順です。

北海道・青森県

日和山 (国後島) - 国後島、アトイヤ
日和山 (登別市) - 北海道 登別市、377m、噴煙が日和見の手がかり
日和山 (小樽市) - 北海道 小樽市
日和山 (八戸市) - 青森県 八戸市、八戸港
日和山 (佐井村) - 青森県 佐井村、佐井港、約100m
日和山 (むつ市) - 青森県 むつ市、脇野沢港、約40m
日和山 (鰺ヶ沢町) - 青森県 鰺ヶ沢町、鰺ヶ沢港、約30m
日和山 (深浦町) - 青森県 深浦町、深浦港、約100m

西回り

日和山 (能代市) - 秋田県 能代市、能代港、30m、国内で2番目に古い方角石が現存
日和山 (男鹿市) - 秋田県 男鹿市、戸賀港
日和山 (金浦) - 秋田県 にかほ市、金浦港
日和山 (象潟) - 秋田県 にかほ市、象潟港
日和山 (酒田市) - 山形県 酒田市、酒田港
日和山 (鶴岡市) - 山形県 鶴岡市、加茂港
日和山 (新潟市) - 新潟県 新潟市、新潟港
新日和山 - 新潟県 新潟市、新潟港、旧日和山の後継、現在は水没
日和山 (佐渡市小木) - 新潟県 佐渡市、小木港
日和山 (沢崎) - 新潟県 佐渡市、沢崎港
日和山 (能登町) - 石川県 能登町、小木港、29m
日和山 (珠洲市) - 石川県 珠洲市、高屋港
日和山 (輪島市) - 石川県 輪島市、輪島港
日和山 (志賀町) - 石川県 志賀町、福浦港
日和山 (かほく市) - 石川県 かほく市、白尾港
日和山 (金沢市) - 石川県 金沢市、宮ノ越港
日和山 (坂井市) - 福井県 坂井市、三国港
日和ヶ丘 - 京都府 宮津市、宮津港
日和山 (京丹後市) - 京都府 京丹後市、旭港
瀬戸日和山 - 兵庫県 豊岡市、津居山港
日和山 (城崎温泉)- 兵庫県 豊岡市、城崎温泉
日和山 (三尾) - 兵庫県 新温泉町、三尾港
日和山 (諸寄) - 兵庫県 新温泉町、諸寄港
日和山 (松江市) - 島根県 松江市、美保関港
日和山 (浜田市) - 島根県 浜田市、浜田港
日和山 (阿川) - 山口県 下関市、阿川港
日和山 (特牛) - 山口県 下関市、特牛港
日和山 (丸山) - 山口県 下関市、下関港、日和山公園がある
日和山 (伊崎) - 山口県 下関市、下関港
日和山 (上関町) - 山口県 上関町、室津港
日和山 (光市) - 山口県 光市、室積港、117m
日和山 (熊本市) - 熊本県 熊本市、川尻港
日和山 (薩摩川内市) - 鹿児島県 薩摩川内市、久見崎港、約20m
日和山 (伊方町) - 愛媛県 伊方町、三机港、約100m
日和山 (大洲市) - 愛媛県 大洲市、長浜港
日和山 (浦戸) - 高知県 高知市、高知港
日和山 (種崎) - 高知県 高知市、種崎
日和山 (安芸市) - 高知県 安芸市、安芸港、8から9m

東回り

日和山 (宮古市) - 岩手県 宮古市、宮古港、約20m
日和山 (石巻市) - 宮城県 石巻市、石巻港、56.4m
日和山 (塩竈市) - 宮城県 塩竈市、寒風沢港、約50m, 26.8m
日和山 (仙台市) - 宮城県 仙台市、蒲生港、3m
日和山 (名取市) - 宮城県 名取市、閖上港、6.3m
日和山 (北茨城市) - 茨城県 北茨城市、平潟港、約10m
御殿山 (茨城県) - 茨城県 ひたちなか市、那珂湊、別名が日和山
日和山 (和田の上) - 茨城県 ひたちなか市、那珂湊
日和山 (大島町) - 東京都 大島町、波浮港、伊豆大島
日和山 (大浦) - 静岡県 下田市、大浦港、約50m
日和山 (柿崎) - 静岡県 下田市、柿崎港、約70m
日和山 (須崎) - 静岡県 下田市、須崎港、約60m
日和山 (石廊崎) - 静岡県 南伊豆町、石廊崎港、約40から50m
日和山 (中木) - 静岡県 南伊豆町、中木港
日和山 (妻良) - 静岡県 南伊豆町、妻良港
日和山 (子浦) - 静岡県 南伊豆町、子浦港
日和山 (松崎町) - 静岡県 松崎町、岩地港
日和山 (西伊豆町) - 静岡県 西伊豆町、田子港、12から13m
日和山 (知多市) - 愛知県 知多市
日和山 (南知多町師崎) - 愛知県 南知多町、師崎港
日和山 (南知多町) - 愛知県 南知多町、豊浜港、20から30m
大日和山 - 三重県 鳥羽市、小浜港、約90m
日和山 (鳥羽市) - 三重県 鳥羽市、鳥羽港、68m
日和山 (大的矢) - 三重県 磯部町、的矢港
日和山 (小的矢) - 三重県 磯部町、的矢港
日和山 (三ヶ所) - 三重県 磯部町、三ヶ所港
日和山 (渡鹿野) - 三重県 磯部町、渡鹿野港
日和山 (南勢町) - 三重県 南勢町、礫浦港
日和山 (引本) - 三重県 海山町、引本港
日和山 (渡利) - 三重県 海山町、渡利港
日和山 (須賀利) - 三重県 尾鷲市、須賀利港、301m
日和山 (九木) - 三重県 尾鷲市、九木港、約60m
日和山 (新宮市) - 和歌山県 新宮市、新宮港、約40m
日和山 (串本町) - 和歌山県 串本町、大島港
日和山 (田辺市) - 和歌山県 田辺市、田辺港、36m

脚注

参考文献

南波松太郎『日和山』（ものと人間の文化史60）、法政大学出版会、1988年。

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